Fish On The Boat

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『世界の廃墟』

2019-03-11 20:20:23 | 読書。
読書。
『世界の廃墟』 佐藤健寿
を読んだ。

世界に存在するその界隈では有名な廃墟のなかから
26の廃墟の写真を紹介文でおくる写真集。

序文のタイトルに、
廃墟とは、
「忘却された過去と、廃棄された未来の狭間」とあり、
うまいことを言うもんだなあ、と大きく肯いたのでした。

僕の住んでいる街も、廃墟ファンの人たちが、
その廃れた街並みを楽しみにして訪れたりするんですよ。
ネットにも、「こんなに廃墟になってるよ!」
っていう写真がアップされているページがあります。
そういうのを見ると、
どうも、馬鹿にされているような気がしてくるんですよ。
廃墟になるような失敗をした街だ、
と嘲笑されているような気がしてくるし、
僕のイメージだと、
廃墟ファンって、
とにかく廃墟を通して人間を嘲笑したいんじゃないか、
っていうのがあります。
だから、僕にはそのケはないぞ、と。
でも、小説のイメージやネタとして発火材料になるかもしれないから、
読んでみようかな、という動機で買ったんですが。

それで、本書を眺めてみる。
「忘却された過去と、廃棄された未来の狭間」
なんて形容をするくらいのことはあって、
その写真たちから、廃墟を眺めることでの、
馬鹿にする感じがないのです。
廃墟に対する自分たちの優位の感覚を持とうする気配がない。
これこそ、ほんとうの廃墟ファンの視座だ。

軍艦島とあだ名される、端島であっても、
ヒトラーが一平卒のころに療養した有名なサナトリウムであっても、
地下で石炭が燃えているせいで有毒ガスなどが生じ廃墟になった街であっても、
写真の捉え方が、それらへ、
深い思索対象としての興味を持ってこそのものとなっている。
(ちなみに、僕の街でも、
石炭が何十年前から鎮火せずに煙を漂わせている土地があります)

というように、
先入観としてあった、廃墟に対する、
浅薄な人間が好むものだといったイメージが、
本書によって、
深い洞察と思索が試される現場なのだ、
というものへと刷新されることでしょう。

そして、そう捉えることができてこそ、
創作のインスパイアになる可能性がでてきます。
なかなかおもしろかったです。

しかし、あの、
今日は東日本大震災から8年の3月11日でした。
そんな日には、ふさわしくない本のイメージをもたらすかな、
と読み終えて、感想を書き終えて思うところでもあるんですが、
さきほども書いたように、
深い洞察と思索の必要性を読み手に知らせるような本でしたので、
悲劇を考える上でまずいことはないと思い、
本日のうちに更新することにしましたので、
悪く思わないでくださいまし。


著者 :
飛鳥新社
発売日 : 2015-01-31
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