イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道」読了

2019年02月16日 | 2019読書
スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット/著 濱野 大道/訳 池上 彰/解説  「民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道」読了

ふたりの著者は、ドナルド・ジョン・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領になったことを受けて、これは民主主義が死に絶えてゆく始まりではないのかということでこの本を書いたようだ。
僕も、イギリスのEU離脱の国民投票を見ていると、なんと民主主義というのはあやふやなものなんだと思い、この本を読んでみた。


第二次大戦前にもヒトラーやムッソリーニというような独裁者が存在したけれども、現在でも、ロシアのプーチン、ベネズエラのチャベス、マドゥロ、トルコのエルドアン、ペルーのフジモリなど民主主義世界のなかで独裁色をあらわにした政治家がいた。
ヒトラーやムッソリーニしかり、現代の独裁者も初めは選挙で選ばれた。それがどうして独裁者となってゆくのか・・・。
すべての人物はもとはその国の政治政界の主流をなしていた政治家のなかから出てきたのではなく、アウトサイダーとして政界に現れた。その現れ方は大体、その国の政治、社会に対して不満をもっている人たちを扇動することで人気を得、本流の政治家もその勢いを借りて再び主導権を握ろうとしたけれどもうまい具合にその座を盗られてしまった。というストーリーになる。

大衆によって選挙で選らばれた人たちが独裁化してゆくのだから、いかにしてそのリスクを防ぐか、リテラシーか、仕組みか・・。
この本ではアメリカの選挙制度の仕組みのすばらしさを例に上げている。大統領の選挙に際してであるが、予備選挙というものが政党の候補者を選ぶときと本選挙のときにあるけれども、その代議員を選ぶというプロセスが極端な思想を持った人物を排除できる仕組みになっているのだ。予備選挙の代議員は各党で決められるけれども、ある程度政治に携わっている、もしくは精通している人たちの中で災いをもたらすかもしれない危険な人を排除することができていた。雰囲気には流されないということだ。
そして、もうひとつ重要なものがある。それは「相互的寛容」と「組織的自制心」である。
アメリカでは民主党、共和党の両党は相対する思想で結党されているけれども、お互いを尊敬しながら相対する。徹底的には叩きのめさない。いざというときはお互いに結束して事態に当たるという慣習と組織として行き過ぎない紳士的な自制心を持って国政に当たってきたという事実がある。
前者ではウオーターゲート事件の折には両党が結束してニクソンの弾劾に向けて協力し、後者では大統領の任期は2期という法律は1951年に始めてできたそうだが、それまでの初代ワシントンが実践した2期という不文律を守り続けてきた。
しかし、そんな寛容と自制心が崩れ始めている。アメリカでの始まりはニュート・キングリッジという1979年に下院議員に当選した共和党議員からだとこの本には書かれている。
それがトランプへとつながっているというのだ。
その頃からお互いに不寛容で非難の応酬、議会を無視した大統領令の連発。そんなことが非常に多くなってきたそうだ。そういえば、予算が通らなくてアメリカの公的機関が閉鎖されたなんていうニュースも最近になってよく聞くようになったように思う。

おそらく、インターネットの普及や格差の拡大というのがこういった、恐怖を煽って国民を扇動する人々が台頭しやすい環境を作っているに違いない。
インターネットではあることないことがセンセーショナルに流布し、衣食足りて礼節を知る。やはり生活に窮してくるほど寛容さがなくなってゆく。

こういう風に民主主義が死に絶えてゆく徴候は以下の四つの点に現れてくるそうだ。
・ゲームの民主主義的ルールを拒否、あるいは軽視する
・政治的な対立相手の正当性を否定する
・暴力を許容・促進する
・対立相手(メディアを含む)の市民的自由を率先して奪おうとする

日本ではどうだろうか。
ついこの前のニュースでも、首相が、「悪夢のような民主党政権が・・。」と言うと、元の副総理が「取り消しなさい!!」ってやり返していたけれども、なんとも聞いていて情けない限りだ。「相互的寛容」のかけらもない。まだ、麻生さんの失言のほうがかわいい気がする。

独裁者は国家の危機、他国からの侵略や巨大災害などに乗じて議会や裁判所を掌握し、憲法を改正し自分の任期を操作しにかかるそうだが、アベさんもそんなことをたくらんでいるのだろうか。
フランスや北欧でもポピュリズム政党が台頭してきても、ぎりぎりでそういった党の代表が首長選挙に負けることで国家の良識を守ることができたように、おそらく先進国と言われる日本で独裁者が生まれることはないだろうけれども、こんなくだらない論争にもならない論争が続いているようならお互い殴り続けて息の根を止めてしまうか、けんかしてる隙にどこかの国に侵略されてしまうのではないだろうか。
しかし、わが国ではリテラシーを持てば持つほどこれがまあ、誰を信用すればいいのかがわからなくなる。

どこの国にもがん細胞のような人が生まれる隙はあるけれども、今まではなんとか良識という免疫機能が働いてきた。けれども経済的な面でどの国の体力も衰えを見せている現代、ますます民主主義というものは本の題名のとおり、死に直面するのではないかと心配になるのである。
ヒトラーは首相になってから18ヶ月の後には独裁体制を作り上げたそうだ。そんなことを考えると、僕が生きている間にこの国にもそんな時代が訪れる可能性も否定できない。
嘘みたいな未来良そうだが心配にはなるのである。

この文章を書いている最中にもトランプ大統領はメキシコの国境に壁を造る費用を捻出するために非常事態宣言を出したというニュースが出ていたけれども、どんどんこの本の予言どおりに事は進んでいるかのようだ。
しかし、世界の民主主義が正常に機能していたとしても、かたや中国や北朝鮮の動きもある。いまのところ、トランプはそれに対しては自国のためにという注釈がついているとはいえ、果敢に対抗しようとしているようには見える。もし、穏健な大統領だったならばここまで周りを省みずに喧嘩を売ることができるだろうか。
そういういう意味では、時代が望んだ存在であったのかもれないが、もしそうなら、あとはもう、世界が破滅するしか選択肢が残っていないような感じがしてくる。
そのあとは本当に、「人類が消えた世界」が待っているのかもしれない。
コメント
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