イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「三体III 死神永生 上」読了

2021年09月14日 | 2021読書
劉 慈欣/著 大森 望、光吉 さくら、ワン チャイ/訳 「三体III 死神永生 上」読了

待ちにまった「三体」の第3部だ。これが完結編となる。
前回では、黒暗森林の心理をついて三体文明の侵略を阻止することができ、地球の危機は救われたというところで終わったが、物語は前作のサイドストーリーから始まる。
記憶にはあまり残っていないのだが、前作の中に、「階梯計画」というものが出てきていたらしい。確かに、ストーリーとはまったく関係ないように見えるワードが出てきて、これはいったい何だろうと思ったものがあった記憶があり、きっとこの、階梯計画のことだったのだろうと思う。本屋に行って確かめてみようと思ってパラパラめくってみたけれども、それを見つけることはできなかった。
この計画は、三体人が450年後に大艦隊を擁して地球を侵略しに来ることがわかったとき、面壁計画と同時に進行していた計画であった。
具体的には大艦隊を調査するために調査機を送りむというものだ。しかし、この時の地球の技術力では重量物を探査に必要な光速の1%の速度まで加速させることができない。ペイロードは500グラムが限度だという。それでも1000発以上の核爆弾の推進力が必要という。そして決定されたのが人間の脳だけを冷凍状態にして探査機に搭載するというものだ。この突拍子もないアイデアの根源はこうである。
三体人は智子というナノサイズのAIと量子もつれの原理を応用した光速以上のリアルタイム通信によって地球人の情報は得ているが、いまだ実態としての地球人を目にしたことがない。地球から探査機が発射されたということは地球の監視を続ける智子を通じて三体人側に知られるのだから、実体としての地球人を知りたい三体人は必ずこの探査機を鹵獲するだろう。
地球よりもはるかに進んだ文明を持っていれば、脳細胞のDNA情報から人体を作り出し、そこに探査機の中の脳をはめ込んで人間の実体をつくれるかもしれない。もともと相手を信用することしかできない三体人だから、欺瞞に満ちた人間はすぐに相手をかく乱することができるかもしれないし、情報収集も可能かもしれないというのだ。

この物語は最初から設定が壮大というか、奇想天外というか、僕の想像をはるかに超えているので最初は何が何だかついていけないところがあったが、4冊目ともなるとなんとかついていけるようになった。この第3部も、地球艦隊の生き残りの2隻の宇宙戦艦が外宇宙をさまよう物語かと思っていたが、まったく見当が外れていた。

そして、この脳の持ち主は主人公にひそかに心を寄せている理論物理学者であった。核爆発のミスと爆風を受けるパラシュート(これも、パラシュートのコードがナノサイズの太さで全長は500キロメートルもあるという想像を超えた設定だ。)の不具合で目的の進路から外れてしまったけれども、その顛末を見届けるため、主人公は人口冬眠に入る。
主人公が再び目覚めたのは、三体文明のテクノロジーを取り込んだ270年後の世界であった。面壁人が三体文明を退けてから約60年後の世界である。
かつて敵対関係にあった地球人と三体人は、面壁人の仕掛けた策が滅びるときは一緒に滅びるという足かせのおかげで、協力関係に転じ、テクノロジーだけではなく、文化的な交流も進んでいる。ただ、純粋無垢な三体人も、その文化交流により、地球人の欺瞞に満ちた側面も学びつつある。
面壁人が仕掛けた策は今でも健在で、連鎖的核爆発による座標の送信から、重力波送信機による座標の送信に変わったけれども、100歳を超えた面壁人が今でもそのスイッチを握っていた。この頃には、執剣者と呼ばれている。
そして今、そのスイッチを引き継いだのが主人公なのである。しかし、主人公は優しすぎ、スイッチを押すことは絶対にないと確信していた三体人の侵略が再び始まる。対抗者であったかつての上司のほうが適格者であったが彼は選ばれないと三体人はすでに確信していた。それは、地球人から学んだ狡猾さが予言させたのである。

黒暗森林の抑止力の根源となる重力波送信機は3台造られ、2台は地球上に、1台は宇宙戦艦の本体として稼働している。これも数十台規模で造る計画であったものを三体人がうまく阻止をした結果であった。
スイッチの引き継ぎ式が終わった5分後、三体人の水滴型の無人兵器が地上の2台を破壊する。3台目の重力波送信機を積んだ宇宙戦艦は地球艦隊の生き残りを追撃するため1光年の彼方を航行している。地球艦隊の生き残りは、同胞を攻撃して逃亡したということで反逆者とされてしまっているのである。
随行しているのは2台の水滴型無人兵器。地上の攻撃に呼応して2隻の宇宙戦艦を攻撃しようとするが、四次元空間との接点を見つけ出した、追われる宇宙船の異次元世界からの攻撃に会い沈黙する。

一方、地球では無人兵器の攻撃を皮切りに地球人は完全劣勢に陥り、アンドロイドとなった智子の指揮により最後はオーストラリアと火星の一部を居留地と定められ移民を強いられる。劣悪な環境のなか、共食いという行為によって人類を粛正するという三体人の策にもはめられる。

しかし、観測データから光速に近い速度でケンタウルス座α星系を発した艦隊の影を見つけた2隻の宇宙戦艦は三体文明の地球侵略の意図を知り、重力波の送信により黒暗森林の均衡を破る。
この均衡が破られたとき、それは三体文明の滅亡の時ではあるが、同時に地球も他の異星文明によって滅ぼされるということを意味する。
しかし、宇宙の広さを考えるとその時期はおそらく2世代以上先のことである。
もはや地球も安住の地ではないと悟った三体文明は地球から撤退を始め、地球には一時の平和が訪れ、宇宙艦隊の生き残りたちは一転、英雄として祀られる。

攻撃艦隊が侵攻をやめたあともアンドロイドの智子は地球に残り主人公と最後の対話をする。そこで、地球が黒暗森林からの攻撃方法が存在するということを教えられる。それは、全宇宙に地球は無害な存在であると知らしめることであるという。しかし、その具体的な方法までは教えられることはなかった。

その後、アンドロイドの智子が主人公に、脳の持ち主が会いたいと言ってきていると告げた。三体人が暮らす星系は、黒暗森林の均衡が破られた直後、未知の文明による限りなく光速に近い物質の攻撃に遭い消滅してしまったが、地球の攻撃に向かった艦隊は無傷で、何らかの方法で異なった方向に飛んで行ってしまった階梯子計画の探査機を鹵獲しており、その艦隊に保護されていたのだ。どんな姿で復活させられているかはわからないが智子の量子もつれ通信で会話をするため、主人公は軌道エレベーターのステーションからラグランジュポイントに向かう。
画面の向こうの彼は農場で作物を作り穏やかな生活をしていた。そこは宇宙船の船内で、土は隕石の欠けらだという。些細な会話しか認められていない二人だが、彼は三つの物語を話し始める。そこにはきっと地球を救うヒントが隠されているに違いない・・。

というのが上巻のあらすじである。
最後の最後に探査機に乗った脳の持ち主が再び現れたが、まだ、1光年先を航行する宇宙戦艦が見つけた四次元世界の謎、地球を去った智子、地球から離れていった三体世界の艦隊。そもそも、地球を黒暗森林の危機から守れることはできるのか・・・。この物語は、遠い未来の誰かが歴史書として書いているという設定がところどころに見ることができる。と、いうことは、地球は再び危機を免れたということだろうけれども、はたして、それがどんな方法で実現されたか、興味は尽きないのである。

下巻に続く・・。

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