イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「科学で大切なことは本と映画で学んだ」読了

2022年05月03日 | 2022読書
辺政隆 「科学で大切なことは本と映画で学んだ」読了

「人生で大切なことはOOで学んだ」というタイトルの本はよく見るのでその手の本なのかと思いながら読み始めたが、「科学で大切なこと」というよりも、科学を題材にした書籍や映画をとり上げて解説を加えているというものだった。
著者は、いろいろの大学の客員教授という肩書に加えて、サイエンスライターという肩書も持っていて、そちらの部分の領域で書かれている。

僕自身も自然科学の分野には興味があるので専門書を読むことはできないが、一般向けの書籍はよく読んでいる。科学者自身が書いている書籍もあれば、サイエンスライターという職業の人たちが書いたものもあった。
どちらがどうということはないけれども、サイエンスライターが書いた本のほうが読みやすいとは思うが、ちょっと奇をてらいすぎているんじゃないかとか、そこまで読者は無知じゃないよと思ったりすることもあった。しかし、著者が書いている通り、自然界の不思議を共感させてくれるのは詩人の仕事だが、知的好奇心を満たしてもらうにはサイエンスライターの仲介が必要である。科学も文化なのだということだ。こういった人たちが様々なメディアを通して、人々の暮らしと科学の関りを身近なものにしてくれているのだろう。きっと、NHKや民放の科学番組などにもこういった人たちが関わっているのに違いない。

この本には僕が興味をそそりそうな本と映画がたくさん紹介されている。ノンフィクションはもとより、小説もあれば、映画も科学者が主人公ではなくて脇役だったりするものもある。原作がある映画は両方とも読んで観ているのは当然のようだ。よくぞこれだけの資料を読んでかつ観たものだと思う。プロというのはここまでやるのだということだろうか。
また、おそらくこれは著者の技量なのだろうが、それらの本や映画の中身を、あらすじ全部をさらけ出してはいないけれども興味を持たせる程度にうまくチラ見せしている。そこは浜村淳の映画解説とはちょっと違うのである。
著者は僕より10歳ほど年上の人であるが、ちょっと枯れた文体も安心して読める。
興味のある本はメモしたので、当分は図書館に行って何を借りようかと悩む必要がなさそうである。
惜しむらくは、これは著者の専門分野というところもあるのだろうが、紹介されている本や映画は、生物学や進化論についてのものにほぼ限定されてしまっている。物理学や天文学についてのものは皆無であった。もう少し幅の広い分野で紹介をしてもらいたいところだ。
加えて、2021年の出版にもかかわらず、紹介されている書籍が2010年代の前半までに出版されたものがほとんどであり、ちょっと古いものが並んでいるということだ。科学の進歩は日進月歩だ。最新の科学情報にも触れられるような書籍の紹介もしてほしかったところだ。もちろん、過去からの歴史をつなげて科学を理解するべきだという考えもあるのだろうが、本を読める時間は限られているので、安直に最新のものだけつまみたいと思うのは邪道だろうか・・。

著者は、ダーウィンの「種の起源」の発表というものが科学の世界にもたらしたものの重要性というものをこの本を通して強調しているように思う。
「種の起源」が出版されたのは1859年だったそうだが、その少し前、サイエンティストという言葉が科学者を意味する単語として提唱された。それまでは「自然哲学者」とか「科学の人(マン・オブ・サイエンス)」などと呼ばれていた研究者を、アートに従事する人はアーティストなのだから、科学に従事する人はサイエンティストと呼ぼうと提唱されたそうだ。職業的科学者が出始めていたという時代背景もあった
ただし、当時の科学者の使命は、自然の法則を発見することで神の叡智を知ることにあった。そもそもケンブリッジ大学やオックスフォード大学の教授連は、英国国教会の聖職者でもあったのだから、神の存在を疑うことなど問題外だったのである。
そんな時代に「種の起源」は出版され、そうした伝統に激震を与えたのだ。
それまではキリスト教的な思想がヨーロッパを支配していたから、「万物は神が創りたもうた。」と考えることが常識であった。そこに革命的な考えを持ち込んだのが進化論であった。それ以降、科学は形而上の神の存在を否定し、唯物的な考えに移行してゆくのである。しかも、この「種の起源」という著作は引用文献もない一般向けに書かれたものであったということが、サイエンスライターとしての著者にとっても重要であったのかもしれない。一般向けの書物であっても世界の常識を覆すことができるのであるという自負と使命をそこに感じているのではないだろうか。

遺伝子組み換え食品、再生医療、放射能、ウイルス・・、科学にまつわる様々なものが身近になってきている現代でこそ、サイエンスコミュニケーションを担うこういった人たちが重要度を増してきているのではないだろうか。驚くべき話だが、アメリカでは今でも人口の半分は宗教上の理由から神がすべてを創造したと考えているそうだ。そんな中でも正しい知識を伝え、資源と技術を有効に使って生きていかなければならないのが現代であるのだろう。科学者というのはそういうことまではなかなか手が回らないし、ステレオタイプ的に見しまっているのかもしれないが科学者というのはコミュニケーションができない人が多そうだ。
人気アナウンサーがこういった仕事を目指して大学の研究員になったということがニュースになっていたが、この人なんかは相当先見の明があるのだろうと思う。
まったくの余談だが、ダーウィンとリンカーンは生まれた日が同じだそうだ。(1809年2月12日)そういったこともサイエンスライターの人々が見つけてくれないとなかなかわからない蘊蓄だ。

僕も、まったく人生の役にも他人の役にも立たないだろうが、いくらかは情報リテラシーを持つべくこれからもこの手の本は読み続けていきたいと思うのだ。

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