ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

土着品種が面白いアルメニアのワイン!

2017-03-10 17:27:49 | ワイン&酒
先月、アルメニアワイン を飲む会を、こじんまりと開催しました。

きっかけは、知り合いのインポーターの田村さんが新たにアルメニアワインの輸入を始めたことです。
昨年末に1本飲む機会がありましたが、もっと他にも色々と飲んでみたくなり、仲間内に声をかけてワイン会を開催しました。




アルメニアはワイン発祥の地のひとつですが、どんな国なのか、ほぼ知られていないのではないでしょうか?

黒海とカスピ海の間にあり、北はジョージア、東はアゼルバイジャン、南西はトルコ、南東はイランに囲まれています。

現在はトルコにあるアララト山は、かつてはアルメニア人がその麓に住んでいました。
アララト山はノアの方舟が漂流して辿り着いた場所とされており、ノアはワインづくりを行なった最初の人物?とされています。

現在、世界最古のワインがつくられた場所はジョージアからアルメニアにかけた一帯が最有力とされ、8000年以上前のワインの遺跡も発見されています。

アルメニア では古くからワインづくりが行なわれ、古代都市バビロンにも船でワインを運んでいました。
この川がユーフラテス川で、分水嶺はアララト山麓にあります。

船でワインを運んでいる様子がワインのエチケットに描かれていました。



私が調べたところでは、船に藁を敷いて樽を載せて運び、ワインを売った後は、船の材料の木材も売り払い、船を保護していた動物の革だけはロバに積んで陸路で持ち帰る、というものでした。
川は急流なため遡れません。
ロバはワインを売った先で買うのかと想像していましたが、最初から一緒に乗せているんですね。



さて、肝心のワインですが、今回飲んだのは7本で、泡1、白3、赤3です。



左端)KARAS Extra Brut 2014 (A) ←産地(下記参照)

タンク内二次発酵の白の辛口スパークリングワインで、さっぱりとしたドライな飲み心地です。
飲みやすい味わいなので、乾杯用や食前酒としてはもちろん、前菜、あっさりした料理などに合わせて楽しむといいと思います。

ブドウ品種は、コロンバール 35%、フォル・ブランシュ 35%、シャルドネ 20%、 カングン10%
フランス南西部あたりのスパークリングワインとよく似た品種構成ですが、「カングン」はアルメニアの土着品種になります。

白ワイン3種の飲み比べでは、この「カングン」と「ヴォスケハット」というブドウ品種が登場しますので、アルメニアのブドウ品種を紹介します。

カングン (Kangun)
アルメニアの土着品種で、大衆的なワイン、カジュアルな白ワインに多く用いられます。
交配品種で、片親はジョージアのルカツィテリだそうで、主な産地はアララト盆地。
若草の香りを持つ爽やかな飲み口が特徴といわれています。

ヴォスケハット (Voskehat)
アルメニアを代表する白ワイン用品種で、上級のワインに使われる傾向にあるようです。
シャルドネと似た特徴を持つといわれ、しっかりとした果実味と酸のバランスがよく、樽熟させるものもあり、エレガントで余韻に複雑味のあるワインになるとか。
主な産地は、ヴァヨッツゾール地方、アララト盆地。

という特徴を踏まえながら、白ワイン3種を飲み比べました。

(A)アルマヴィル地方 (北西部)
(B)アラガツォトゥン地方(アルマヴィルの北部)
(C)ヴァヨッツゾール地方 (南部)



左より)
ARMAS Kangun Dry 2013 (B)(カングン 100%)
KOOR White 2014 (C)(ヴォスケハット 100%)
ARMAS Voskehat 2012 (B)(ヴォスケハット 100%)

アルマス・カングン は、花を思わせる華やかなアロマが匂い立ち、非常にアロマティック。
飲むと、茎から来たような苦みをほのかに感じますが、甘い香りとビター寄りな味わいのコントラストが面白いワインでした。
キリリと冷やしてアペリティフにするのもいいですし、野菜料理、白身魚のカルパッチョみたいなものにも合うと思います。

クール・ホワイト
アルマス・ヴォスケハットは、どちらもヴォスケハット100%。
どちらもステンレスタンク醸造ですが、アルマスの方はシュル・リーを5カ月実施。

クール・ホワイトは、濃さがあり、緻密でみっちりしているように感じる一方で、野性的でザックリし、エグみのようもの、塩味を感じ、堅く、太い印象を受けました。ある意味、クセになりそうな味。アルコール度数は13%。

アルマス・ヴォスケハットは、ふわっとソフトなタッチです。軽やかで、エレガントで、やさしく、デリケート。クール・ホワイトとキャラクターが全く違います。

同じ品種でここまで違うのは面白いですね。年は2年違いますが、生産者の造りの差が大きいと思います。
ヴォスケハットはシャルドネ的な品種ということなので、なるほどね!

アルマスは、カングンもヴォスケハットも繊細、上品系なので、この生産者のスタイルなんでしょうか。



次は赤ワイン3種の飲み比べです。
赤ワイン用ブドウ品種も、アルメニアワインに特徴的な2つを取り上げます。

アレニ (Areni)
古くから存在する、アルメニアを象徴する黒ブドウ品種で、原産はヴァヨッツゾール地方。寒暖差に強く、標高の高いところから低いところまで栽培されるが、高低差の違いがワインによく表れるようです。カジュアルワインから樽熟成させた高級ワインまでつくられます。
イタリアのサンジョヴェーゼと比較されることがあり、赤系果実の風味が豊かで、フルーティで渋みは少なく、ボディも酸もほどよいワインになります。
名前は、世界最古の醸造所跡が発見されたヴァヨッツゾール地方のアレニ村に由来しているようです。

カルムラヒュット (Karmrahyut)
アルメニア土着の交配品種で、主な栽培地はアララト盆地になります。
カルムラヒュットは現地の言葉で「赤い果汁」を意味し、果肉まで赤いことから名付けられており、ワインの色も非常に濃い紫色になります。タンニンも濃密で、味わいはスパイシーですが、バラの花のような香りが特徴的とされています。
他品種とのブレンドが伝統的でしたが、近年は単一で仕込むものも増えているようです。



左より)
KOOR Red 2014 (C)(アレニ 75%, スィレニ 25%)
ARMAS Karmrahyut 2013 (B) (カルムラヒュット 92%, アレニ 5%, カヘット 2%, メグラブイル 1%)
ARMAS Areni 2012 (C)(アレニ 100%)辛口

クール・レッドには、アレニのほか、タンニンがしっかりあり、スパイシーな特徴を持つ“スィレニ”という品種が25%使われています。
フルーツの味わいが濃く、素直においしい!スィレニのタンニンが加わっているからなのでしょうか、安定した骨格があります。ワインだけ飲んでいても、ずっと飲んでいられますし、食べ物が加わってももちろんOK。甘辛い煮込みハンバーグなどにもオススメ。

アルマス・カルムラヒュットは、野ばらを思わせるアロマ、ニュアンスがありました。花の印象があり、しかも野性的、ソバージュな面もあり、なかなかユニークです。イタリアのアリアニコ的、という声も聞かれました。スパイシーな料理に合わせるのはもちろん、チョコレートもよく、ホワイトチョコと一緒でもいい感じに飲めました。

アルマス・アレニを飲むのは、これで2度目になります。
同じワインなのに、前に飲んだ時よりもソバージュ感をより感じました。
繊細ながら、芯がしっかり通り、ボディ感があります。
ブルーチーズ、ナッツとの組み合わせが美味でした。
※前回のリポート → コチラ



白と赤はアルメニアの土着品種のワインです。
その国、その土地それぞれに、そこに根付く歴史、文化、食があります。
ワインの世界では、21世紀初頭頃まではグローバルスタンダード化が謳われ、世界市場で通用する国際品種に力を入れ、モダンなワインを追求するところが多かったものです。
しかし、2010年代に入る頃には、地場ブドウ品種が注目されるようになり、その土地らしさを表現するワインを求める傾向になってきました。

地方の独自性を尊重し、ワインの多様性を楽しむ。

それが現代のワイントレンドのひとつです。
特に、ワイン発祥の地とされる黒海、カスピ海周辺の国々は、伝統的な醸造方法への興味もあいまって、熱い視線が注がれています。
そこにはアルメニアも入っています。

とはいえ、アルメニアは、なかなか馴染みのない国です。
アルメニアワイン会を開くにあたり、アルメニアについて色々と調べてみましたが、奥が深い!

アルメニアのワイナリー数は約30あるそうです。

山がちな国であり、ワイン発祥の地とされるエリアですから、さぞかし伝統的な、ちょっと古くさい感じのワインなんだろうな…と、皆が想像していたのですが、参加者の感想は、「思ったよりもキレイなつくりで驚いた!」でした。

輸出ワインだから、かもしれませんけれど、それでも、土着ブドウ品種から来る独特の風味があり、その個性に酔わされました。
今回のワインは2000円台から買えるので、ぜひ一度チャレンジしてほしいところです。

輸入元のホームページから購入できますが、代表の田村さんは都内のマルシェ(有楽町の交通会館前など)を中心に試飲販売をやっており、そこでも直接購入できます。
アルメニア以外の国のワインもあり、試飲ワインも日によって違いますので、スケジュールをチェックして出かけてみてはいかがでしょうか?

輸入元:The Ancient World
http://ancient-w.com/



参考までに、アルメニアについて調べた情報を下記に載せておきます。

アルメニア共和国 ―Republic of Armenia  (首都エレバン) 

通貨:ドラム(Dram)
面積:2万9,800平方キロメートル(日本の約13分の1。旧ソ連邦の中で最小)
人口:300万人(2015年:国連人口基金)
民族:アルメニア系(97.9%)、ロシア系(0.5%)、アッシリア系(0.1%)、その他(1.5%)
宗教:主としてキリスト教(東方諸教会系のアルメニア教会)。アルメニアは、国家として、また民族としても、世界で最初に公式にキリスト教を受容した国(301年)

主要産業:農業、宝石加工(ダイヤモンド)、IT産業
主要貿易品目:
(1)輸出 食料加工品、アルコール・ノンアルコール飲料、硫黄・土類、鉄鉱石、燃料
(2)輸入 穀類、動物性・植物性食用油脂、タバコ類、製薬品、化粧品等日用品

<歴史>
前4~3世紀 東アルメニアにエルヴァンド朝成立
652年 アラブ勢力により征服
16~18世紀 オスマン朝とサファヴィー朝によるアルメニア争奪戦
1828年 トルコマンチャーイ条約により東アルメニアがイランからロシアに割譲
1922年 ジョージア、アゼルバイジャンと共にザカフカス社会主義連邦ソビエト共和国形成、ソ連邦結成に参加
1936年 アルメニア・ソビエト社会主義共和国成立
1991年 9月21日独立宣言

<アルメニアの食>
パン類、ラヴァッシ(薄焼パン)、麦、ブルグル(ひき割り小麦)、豆、肉(マトン、ラム、牛肉、仔牛肉、豚、鶏、子山羊、兎、猪、鹿、ターキー等)、乳製品(塩辛いチーズ、ヨーグルト)、魚(川や湖から)、野菜(トマト、ナス、キャベツ、いんげん豆、オクラ、ピーマン、きゅうり、ネギ、葡萄の若葉、ニンニク、ほうれんそう、アスパラガス、かぼちゃ、キノコ)、果物(ザクロ、アンズ、チェリー、レモン、りんご、梨、桃、スモモ、葡萄、桑の実、花梨、無花果)、ナッツ(アーモンド、くるみ)、スパイス類など

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