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2017年10月のトルコ旅行のこと~ガジアンテプでのシリア難民家庭訪問

2017-12-02 17:16:00 | トルコ

10月のトルコ旅行では、シリア国境に近い東南部のガジアンテプを初めて訪れた。

同市を拠点にシリア国内の教育支援を行っているウサマ氏に寄付金を渡すのが主な目的だったが、時間的に余裕があったので、市内のシリア難民家庭を回って、シリア支援プロジェクト「みんなで作るシリア展」からの支援金を3世帯に手渡すことができた。(「みんなで作るシリア展」からのお金を預かった経緯についてはこちら、ウサマ氏についてはこちらを参照)

訪問したのは、偶然全てアレッポ県出身のトルクメン人の家族だった。ウィキペディアによると、トルクメンはテュルク系民族で、トルクメニスタンを始めとする中央アジア諸国に多く居住しているが、シリアにも少数ながら存在する。彼らはアラビア語とトルコ語のバイリンガルだが、学校教育をアラビア語で受けたため、トルコ語の読み書きができないケースが多いようだ。このため、アラブ人のシリア難民とは違ってトルコ語が話せるという強みがあるものの、トルコで良い職業に就くことはむつかしいという話だ。


寄付金を渡した3家族は以下のとおり:

(1)KHさん一家

夫婦と子供4人、そして妻の姉の7人世帯。ご主人はアレッポ郊外出身で、反体制運動開始からかなり早い段階で(約6年前)自宅が空爆を受けて破壊され、本人も頭部を負傷したため、一家でトルコに避難した。シリアでは電気機器の修理業に従事していたが、頭部の負傷(頭蓋骨欠損のため手術で骨セメントを入れた)の後遺症のため続けられず、現在はウサマ氏が勤めている協会の運転手をしているが、給与は家賃の4分の1程度。約1ヶ月半前にシリアから呼び寄せた妻の姉は、先天性の骨成型不全症(ささいな衝撃ですぐ骨折する病気)を患っているためあまり動けず、しかも両目の視力が極端に低下してきたので、目の手術が必要。しかし、彼女にはトルコの身分証がないため、無料の公立病院ではなく、私立病院で手術を受けねばならない。手術費は約15万円だと見積もられているが、今の彼らに払える金額ではない。


夫婦と男の子。苦労話をしながらも笑顔を忘れない人たち。なにげにカメラ目線ばっちりだ



女の子たちも終始笑顔



奥さんのお姉さんだけは、ずっと暗い表情だった。病気で家から出られず、しかも両目の視力を失いつつあるというから、塞ぎ込むのも当然だろう。意識・思考の面では問題はなく、質問にもしっかり答えてくれたが。骨成型不全症って、私が一番好きな映画「アメリー」に出てきた「ガラスの男」と呼ばれる老人と同じ病気だ…



(2)Wさん一家

上記のKH家のご主人の紹介で訪問した。母親と子供2人(5歳半と4歳)の3人世帯。Wさんはアレッポ市内出身。約5年前、下の女の子がお腹にいる時にご主人が消息不明になった。政府側に逮捕されて殺されたと言われているが、証拠はなく、死亡証明書もない。その後トルコに避難。Wさんが縫製の内職をして収入を得ているが、家賃の支払いにも足りないとのこと


ソファーに座っている3人の女性の真ん中がWさん。KH家の奥さんや、近所に住んでいるお姉さんたちも写っている






(3)Iさん一家

上記の2家族はウサマ氏の同伴を受けたが、Iさん一家は私が個人的に市内中心部でシリア難民を探していた時に出会った。夫婦と子供4人(12歳~17歳)の6人家族。アレッポ市内出身で、2012年頃にトルコに避難した。ご主人には心臓病と糖尿病の持病がある上、尿道が詰まる病気(尿道狭窄症?)に罹っていて、私たちが訪問した翌日に手術を受ける予定だった。手術費の額はこの時点では不明。彼は病気のため、ここ数年働けない状態が続いている。長男と次男が生活費を稼いでいるが、生活は苦しい。妻も喘息持ちで、常に薬を飲んでいる。


奥さんと子供の1人



一番奥がご主人で、左の男性は案内してくれた人。




訪問したどの家庭でも、自分たちの息子・娘夫婦や親戚も苦労しているから支援して欲しいと頼まれ、そちらも一応訪問したが、結局支援金を渡すのは控えた。同じ家族ばかりに支援金を渡すわけにはいかないし…支援金を渡す・渡さないの線引きはむつかしい。私のお金ではなく、預かったものなので、なおさらだ。

どの家族も難民キャンプを経由せずに、自分たちでアパートを探して入居しているが、彼らはその理由として、治安上の不安を挙げた。特に女の子がいる家庭は、キャンプで不特定多数の人々と暮らすのは危険だと考えているようだ。そして、UNHCRに登録していない人が多かった。登録しても何の支援も受けられないし、申請しても断られるケースも少なくないとのことだ。赤新月社も同様。ヨルダンではUNHCRに登録すると食料クーポンがもらえるので(現在は制限が厳しくなっているが)、私が会ったほとんどの難民が登録していたが、トルコは状況が違う。トルコに滞在するシリア難民は300万人を超えているので、支援が行き届かないのだろう。ただし、ヨルダンと違ってトルコではシリア難民の不法労働が取締を受けることはめったになく、働ける人はたいてい働いている。ヨルダンでは、不法労働者は当局に拘束されて、ザアタリ難民キャンプに送られたり、最悪の場合はシリアに強制送還されたりするので、働きたくても働けない人が多かった。

なお、トルコ人やトルコのクルド人の間では、シリア人に対する敵意が年々高まる様子がみられるが(自分たちの税金でシリア人が楽をしている、無料で医療を受けて、政府にお金をもらって遊んで暮らしていると思い込んでいる人が多い)、これはヨルダンと似たような状況。近年トルコやヨルダンから自主的にシリアに帰国する難民が増えているとの報道がみられるが(特にトルコからの帰国に関する報道が目に付く)、緊張緩和地帯の合意による一部地域での治安の安定と避難先での経済的問題に加え、反移民の動きの広がりによる住みにくさもその一因となっているのかもしれない。シリアに帰った人達が、無事に暮らしていればいいのだが…



(終わり)




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