今回は珍しく中東ニュースがテーマ。現在のイスラエルとガザをめぐる情勢について書く。
10月7日、イスラエルの封鎖下のガザから、ハマースの軍事部門「カッサーム部隊」が境界を突破して周辺のイスラエル南部地域を襲撃し、100人を超える人質を取るという、前代未聞の事態が発生した。これに対する報復として、イスラエルはガザ地区を完全封鎖して水も食料も燃料も入らないようにすると宣言し、市街地の地区が丸ごと瓦礫の山になるような、かつてない激しさの空爆を続けている。13日の段階で、イスラエル側の死者は約1300人、ガザの死者は約1900人に達した。なお、ガザの人口は230万人を超えており、その約半数が子供である。
空爆で多くの建物が完全に倒壊
ガザの保健省によると、空爆の被害者の約6割が女性や子供(アラビア語の関連記事)
この情勢に関しては、日本のメディアでも大きく取り上げられているようなので(うちにはテレビがないから観ていないが)、皆さんもよくご存じだと思うが、よく知らないという方は、NHKの解説記事がわかりやすいので、参考にしていただくといいと思う。
イスラエルにイスラム組織「ハマス」が大規模攻撃 何が起きた?
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/10/10/35010.html
そもそも「パレスチナ問題」がよくわからない、という方もおられるかもしれないが、それを説明し出すと長くなるし、書く根性がないので、そちらもNHKの記事を参考にしていただければ幸いだ。
パレスチナ問題がわかる イスラエルとパレスチナ 対立のわけ
https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic015.html
2006年にハマースが選挙で勝利し、その後ガザ地区を支配するに至り、イスラエルが封鎖を開始した時、私はイタリアのフィレンツェの下宿にいて、毎日テレビのニュースでガザの人々が苦しむ様子を観ていた。このイスラエルによるガザ封鎖開始、そしてレバノン侵攻のニュースの影響で、私の中でアラブ世界への関心が育ち、やがてフィレンツェ大学でアラビア語を勉強し、そこでシリア人の先生に出会い、やがてイタリアからシリアに移動することに決めたのだ。
2008年12月から2009年1月にかけてのイスラエルのガザ攻撃の時、私はシリアのダマスカスにいて、下宿の中庭にあるテレビでそのニュースをみていた。旧市街の路上にはイスラエルの国旗が描かれ、人々はそこを踏んで行き来していた。例年なら新年を祝う花火が上がるところだったが、ガザで多くの人々が犠牲になっていることを鑑み、祝賀イベントは自粛された。政治の道具として「パレスチナ支援」を前面に押し出すシリア政府をよく思っていない人々も、ガザの情勢に心を痛めていた。
シリアを2011年初めに出て、トルコとエジプトで数か月過ごした後、ターバ国境の検問所でイスラエルのセキュリティを突破して(8時間かかって)入国し、東エルサレムのパレスチナ人一家の住宅の一階を借りて3か月滞在した。その間、西岸地区の各地を訪れ、入植地建設に対する抗議デモに多少参加したりもした(一番後ろでビビりながら)。あの時に占領下で暮らすということはどういうことかを少しだけ学ぶことができたと思う。ガザには行ったことがないので、封鎖下の暮らしの苦しみを知ることはできなかったが。
2014年の夏、イスラエルがガザに地上侵攻した時、私はヨルダンのアンマンにいて、アパートのテレビでそのニュースをみていた。近所の商店などでも、テレビがあるところではずっとアルジャジーラを流していて、お店の人達が悲しそうに画面を見つめていた。ガザ地区からのロケット弾がエルサレムあたりに到達した時、それを遠くから見たヨルダンの人々は花火を打ち上げ、嬉しそうに祝っていた。私には彼らの気持ちがわかるような気がした。
ヨルダンから帰国した後も、仕事でアルジャジーラを視聴し続け、2021年のイスラエル・ガザ紛争の様子は自宅でインターネットのライブ中継をパソコンで見ていた。今はほぼ無職状態で時間があるので、ニュースの視聴だけではなく、SNSでも情勢を追っている。
(参考)2008~2020年のイスラエル・パレスチナ紛争での死傷者数の推移
長々と書いたが、これは前置きである(ええ~なが~)。本題は、アルジャジーラによく出演しているヨルダンの軍事・戦略専門家、ファーイズ・ドゥウェイリー氏(私の推し)によるイスラエルとガザをめぐる情勢についての分析の翻訳だ。2回分の話を1つにまとめ、要旨を箇条書きにした形で以下に載せる。
<ヨルダンの軍事・戦略専門家ファーイズ・ドゥウェイリー氏によるイスラエルとガザの情勢に関する分析>(要旨)
(イスラエルのガザへの地上侵攻関連)
イスラエルが激しい空爆を続け、未だ地上侵攻を始めていないのには、様々な理由が考えられるが、ガザに侵攻するだろうことは、あらゆるデータが示している。しかし、そのタイミングはわからないし、規模も不明だ。イスラエルの多くの研究機関は、3つのシナリオを想定している。1つ目はガザの再占領、2つ目はガザをいくつかの地域に分割することだ。3つ目は、ガザのイスラエルとの境界から一定の距離の範囲の農地を支配することだ。1と2はイスラエルによって非常に困難なので除外されるが、3は可能性がある。その際、境界からの距離は、捕虜交換の交渉に関係してくるだろう。
ガザの地下にはトンネルが張り巡らされており、地上の街の下に地下都市があるような状態だ。イスラエルはガザの境界付近の地域を支配することにより、中心部から境界の外に繋がるトンネルを遮断することを狙っているかもしれない。
(イスラエルの北方にあるレバノン南部のヒズボラ関連)
レバノンのヒズボラ(イランの支援を受けるシーア派組織)の戦力は、ガザの全武装勢力の戦力の合計の数倍あるが、イスラエルがレッドラインを超えない限り、全面戦争には入らないだろう。レッドラインは、衝突がカフル・シューバーからシェバ農場にかけての地域の外に広がることだ。同地域はイスラエルの占領下にあるが、レバノンもシリアも領有権を主張しているため、ヒズボラにとってグレーゾーンとなっている。しかし、イスラエルがなんらかの過ちを犯して、戦闘がレバノン南部の奥深くに至れば、ヒズボラは全面衝突に向かうだろう。
ヒズボラは、これまでのガザのイスラエルとの度重なる戦いに参加してこなかったし、今参加するとは思えない。イスラエルがガザへの地上侵攻を開始しても慎重な態度を維持し、レバノン南部が被害を受けた場合も、在レバノンのパレスチナ人の武装集団を通じて限定的に衝突する程度だろう。イランの決定があった場合を除いて。
ヒズボラのイスラエルとの対戦に関する決定権はイランの手にある。イランは状況を操る糸を完全掌握しようとしており、傘下のヒズボラ、イラクの武装集団、シリア、イエメンの武装集団の戦線の統一は目指さないだろう。イランの核合意に関わる場合や、イランが軍事的に攻撃された場合を除いて。
イランの支援を受けるイエメンのホウシー(フーシ)派は、イスラエル南部に届くミサイルや無人機を所有しているが、イスラエルに対してこれらを使用しないだろう。イランが直接攻撃を受けた時以外は。
イスラエルはパレスチナ内部やガザ・ヒズボラが統一戦線を張ることを恐れている。一方、レバノンは経済危機や社会的問題、(2022年10月末から)大統領の座が不在である等の政治問題で苦しんでおり、余裕がない状態だ。ヒズボラはそれを承知している。
米国は東地中海に空母を派遣したが、それはガザやヒズボラに対して使われることはないだろう。あれはイランをけん制するためのメッセージでしかない。(了)
(資料)
خبير عسكري وإستراتيجي: في هذه الحالات سيدخل حزب الله الحرب ضد إسرائيل
محلل عسكري: إسرائيل تسعى لإخلاء غزة والاجتياح البري سيدخل حزب الله بالحرب
(おまけの猫動画)
ガザ初の猫カフェ
今どうなっているのか心配だ…
空爆で損壊した建物で動けなくなっていた猫を救出したガザの少年
(終わり)