外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

うちの猫の出産(4) 失踪編(下)

2013-06-30 22:45:07 | ヨルダン(猫中心)


猫は新聞紙の上でもじもじ動く子猫を1匹、ハシっとくわえて口からぶら下げ、窓の所に駆け上ったかと思うと、子猫ごと地面に飛び降りて外の暗闇の中に消えてしまった。
ソファーでは残された4匹が身を寄せ合って、ダンゴ状になって震えている。

おお、出産直後に荷物を抱えてジャンプするなんて、さすが動物だ!と私はまず感心した。
しかし、猫は子供を連れてどこへ行ったのだろう。
何が起こっているのか、私にはさっぱりわからなかった。
あの決意にみちた悲愴な目、子供を連れ去るときの電光石火の早業…
突然狐にでも憑かれたのだろうか?
猫なのに、狐憑きとはこれ如何に。

2、3分後、猫は手ぶらで戻ってきた。
どうするつもりなのか固唾を飲んで見守っていると、迷いなく次の1匹をくわえ、また外に運んでいってしまった。
すると、あの1匹だけを選んだわけではなく、全員連れて行くつもりなのだと、私は考えた。
でも、どうして?どこに?

そのとき、しばらく前に大家さんの孫が言っていたことが、ふと脳裏に蘇った。
「お宅の猫は昔うちに上がり込んで子供を産んだが、放置して死なせてしまった」
私のアラビア語能力にはかなり問題があるので、聞き違えかもしれないが、これが正しかったとすると、今回猫は子供を捨てに行ったのかもしれない。
育児放棄猫というのも、存在しないことはあるまいよ。

その後、猫は子供を1匹ずつ外に運んでは戻ってきて、次の子を運ぶ作業を繰り返した。
私は黙って観察していた。
なにしろ、私の子供ではないのだから、手出しするわけにもいかないのだ。

5匹全員をどこかに運び終えた後、猫はひとりで戻ってきた。
まんまるく見開いた大きな目が、心なしか金色に輝いている。
そしていつもとは違うトーンで、私に向かって「アア~!アア~!」と大声で鳴き続け、なにかを訴えかけてくる。
「大丈夫だからね。大丈夫。もういいのよ(なにが?)」と慰めて頭をなでなでしても、落ち着く気配はない。
気の昂ぶりが収まらない、といった様相だ。

猫はそれから台所で缶詰のキャットフードを少し食べ、床に下痢のウンチをし(うちの中でやったのはこれが初めて)、またひとしきり騒いでから、最終的に夜中の2時頃に外へ出ていった。
しばらく待ってみたが、結局その夜は帰ってこなかった。

連れ去られた子猫たちに一体何が起こったのか。
あれこれコワいことを想像しながら、私はウンチと新聞紙を片付け、寝室に引き上げた。

長い夜であった。
こんな出来事のあとでは、興奮してなかなか寝付けないかと思われたが、疲れていたせいか、存外あっさり眠りに落ちた。



母猫が1匹目を運んでいる間、残された4匹はダンゴになって震えていた。



分かりにくくて申し訳ないが、最後の一匹を運んでいくところ
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うちの猫の出産(3) 失踪編(上)

2013-06-29 22:48:01 | ヨルダン(猫中心)


結局、5匹全員が出揃うのに1時間半もかかった。
陣痛の時間を入れると計2時間半。時刻はもう夜10時を過ぎていた。
血液等で汚れた新聞紙を替えたり、写真を撮ったりする以外には何もしていないのに、なんだかやけに疲れた…。
見ているだけで疲れるくらいだから、出産した当人は疲労困憊しているのに違いなかったが、猫は表情の読み取れない顔で、淡々と新生児たちを授乳していた。
可愛い赤ちゃんに囲まれて幸せの絶頂!なのか、あるいはその逆に、あ~もうメンドくせ~、何もかもほったらかして眠りた~い!と思っているのか、判断がつかない。
動物って、ナゾだ。

出産がひと段落ついたので、私はシャワーを浴び、遅い夕食を作って食べた。
経産婦も空腹だろうと思い、口元までミルクの入った小鉢を運んであげると、懸命にぺろぺろ飲んでいた。
ドライフードもあげてみたが、こちらは食べなかった。
やはり、産後すぐに乾き物は無理だったか。

これから数日間、猫はここからあまり動かずに赤ちゃんを育てるのだろう、と私は考えた。
すると私が食事を運んだり、下の世話をしたり、身体を拭いてあげたりするのだろうか?
介護とか看病とか妊婦の世話とか、そういうのを全然やったことがないので、ちゃんと出来るかどうか、大いに不安だった。
毛皮のおかげで、床ずれの心配はなさそうだが…。

ソファーの上の母子を眺めながら、このようなことを漠然と思い悩んでいたのだが、この後の猫の行動によって、問題はあっさり解決した。

それは夜中の1時前後だった。
それまでじっと横たわっていた猫が、不意にスックと立ち上がったのだ。
お腹にくっついていた赤ちゃんたちは、バラバラと振り落とされて慌てふためく。
何事かと目をやると、猫は一瞬その場に静止して、なにか思い詰めたような、鬼気迫った目つきで窓の向こうを凝視してから、行動を開始した。


うちの猫ファーティハが窓を開けているところ。この写真撮るの、苦労しました…
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うちの猫の出産(2) 誕生編

2013-06-17 22:27:53 | ヨルダン(猫中心)


果てしなく続くように思われた地味な陣痛の末、猫は沈黙を破って鋭く鳴き出し、頭をなでる私の手を噛もうとした。
どうやら、次の段階に入ったようだ。
猫がひとりになりたがっているように見えたので、私はソファーから立ち上がり、少し離れて様子を観察した。

まもなく、猫は痛みに耐えながら、懸命にいきみ出した。
そのお尻の穴から、何か赤黒いものが出てこようとしている。
私は慌てて新聞紙を取ってきて、猫の下に無理やり敷いた。
いつも座るソファーが血液や胎盤やまみれになるのは、ちょっとイヤですもの・・・。

いきみだしてから第一子が誕生するまでにも、相当な時間がかかった。
登場したのは、血まみれのタコのゼリー寄せのような赤黒いゲル状の塊だったが、猫がベロベロと舐めてやると、毛深いエイリアンの赤ん坊程度に落ち着いた。
黒と茶色の毛が生えたエイリアンの赤ん坊は、ピンク色のプラスチックっぽい手足をピクピク動かしている。
どうやら死産ではなかったようだ。
おお、まさか無事に生まれるとは!
私が驚いている間にも、猫は次の出産の態勢に入っている。

私の予想では、猫の出産は長い便秘のあとの排便(失礼)よりも楽なはずだった。
横たわった瞬間、自動的に赤ん坊がスルスル出てきて、お母さんの仕事は生まれてきた子を舐めてあげるだけ、というイメージ。
それゆえ私は、
「人間の子供は妊娠期間も長いし(猫の妊娠期間は約2ヶ月)、出産も大変そうだけど、猫なら楽そうだから生んでもいいわ。小さくて可愛いし~」
などと考えていたのだが、現実は全然違って、猫といえどもお産はやはり重労働なのだった。

なにしろ、生まれた子の全身を舐めてあげ、さっそく授乳しながら、次の子を出産するのである。
しかも、子供と一緒に出てきた胎盤(血まみれの内臓にしか見えなかったけど)をむしゃむしゃ食べたりするのだ。
猫のお母さんって、スゴイ。
もう私は、ただただ驚愕するばかりである。

第一子の誕生後、第二子の誕生までまたそれなりに時間がかかる。
これは長期戦である。
気分転換にとテレビをつけたら、アルジャジーラではシリアのニュースをやっていた。
とたんに、部屋中に銃声が響き渡る。
いかん。
アルジャジーラはいかん。
母猫にも、生まれたばかりの赤ちゃんにも、精神衛生上よろしくないに違いない。
私はリモコンを手に取り、子供向け番組をやっているチャンネルに変えて、様子を伺った。
猫はラジオのときと同様、テレビの音はなど全然耳に入っていないかのように、出産に専念していた。


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うちの猫の出産(1) 陣痛編

2013-06-15 22:19:58 | ヨルダン(猫中心)



6月7日の金曜日の夜、うちの猫ファーティハが5児を出産した。

しばらく前からお腹がぷっくり膨らんで洋梨体型になり、乳首が目立つようになっていたので、出産が間近だとは予想していた。
しかしそのわりには気軽に高所から(ドサっと)飛び降りたり、男遊びをしたりと、あまり妊婦らしからぬ(?)振る舞いをするので、まだ予定日は先なのだろうと、油断していた矢先である。

金曜日の午後7時半頃、ソファーに座って新聞を読んでいると、猫が外から帰ってきた。
普段なら外から帰ってくるなり台所に直行して、「早くゴハンちょうだい!ちょうだいってば~!」と大騒ぎするのだが、この時は食事など眼中にない様子で、ソファーに飛び乗り、私の隣にうずくまった。
そして私にもたれかかって、上体を半分起こした体勢で陣痛を迎えたのだ。

猫の出産に立ち会うのは初めてなので(人間の出産に立ち会ったことも、自分が出産した経験もない)、どういうものか見当もつかなかったが、なんとなく苦しげな風情で、呼吸の間隔が短かったので、これが陣痛なのだろうと見当をつけた。
時々微妙に姿勢を変えながら、黙って陣痛に耐えている猫を、私はひたすらなでた。
途中でふと思いついて、ラジオの宗教番組を流してみた。
ヨルダンの猫だから、コーランの朗読を聞いたら陣痛がマシになるかもと思ったのだが、残念ながら猫には何の影響も見られなかった。

この状態が1時間くらい続いた。
猫の出産なんて5分ほどで終わると思い込んでいたので、途中で私はたいへん不安になり、不吉なことをぐるぐる考え出した。

・・・これは時間がかかりすぎではなかろうか。
もしや、死産なのか。
あるいは、胎児が産道のどこかで引っかかって、出てこられなくなったのか。
うちの猫は最近過食気味で、妊婦としても太りすぎだったから、脂肪のせいで産道が狭くなっているのかもしれない。
ああ、あんなに食べさせるんじゃなかった・・
私がお尻の穴から手を突っ込んで、無理やり引っ張って出してあげるべきなのか?
いやいや、牛じゃあるまいし・・・。
もしかしたら、母体にも危険があるのだろうか。
母猫も胎児共々死んでしまったらどうしよう?!
子供は無理としても、母親だけはなんとか助けたいものだ・・・。
赤ん坊よりも、君の命の方が僕には大切なんだよ・・・!

妻の初産に立ち会ったら思いがけず大変な難産で、パニックに陥った夫のように慌てる私の横で、猫は荒い呼吸を続けている。


陣痛中の猫 

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洗濯機と猫と新聞

2013-06-06 17:01:00 | ヨルダン(猫中心)


昨日も今日も、朝ドアを開けたら猫が出待ちしていた。
いつも同じ2匹、美少女っぽい茶トラ猫(姫と命名)とマロまゆである。
みゃあ~!みゃあ~ん!(「朝ごはん!朝ごはん!」と私には聞こえる)と急き立てられ、あせってキャットフードをカバンから取り出す。
別にあせる必要もないのだが・・・。


姫とマロ(マロまゆの略)



この2匹はよく、午後帰宅した時もうちの前で待機していたりするのだが、そんなに何度もエサをあげる経済的余裕がないので(月給は安く、キャットフードは高い)、なるべく目を合わさないようにして家に入る。

昨日の水曜日は洗濯日(=週1回水道水が流れる日)だったので、溜まっていた衣類を洗って庭に干したのだが、この時もまた姫とマロの「ゴハン!」攻撃にあった。
洗濯物を取り入れるときも右に同じである。最近では、ちょっと庭に出るのにも気をつかうわ~。

ちなみに、うちの洗濯機はすごく年季の入ったLGの2槽式だ。
専用の蛇口などないので、台所の流しからタライで水を汲み、洗濯槽にザバーとあけて溜めるという、かなり原始的なやり方をとっている。
洗濯機は台所の流しの近くに置いてあるので、移動距離は短いのだが、やはりそれなりに体力を使う。
また、うちの脱水機は無気力で、1回にシャツ2枚と靴下数足程度しか脱水してくれないので、全部終わるまで非常に時間がかかる。
そんな地道で根気のいる作業を行っているうちに、うちの猫が外から帰ってきた。
洗濯機が回っている間、台所に座って膝の上の猫をなでくりまわしつつ、新聞を読むのが私の水曜日の習慣だ。

夕方買い物に行く途中、ゴミ箱のところで顔見知りの猫を見かける。
しっぽが痛々しくちぎれているので(血糊のような赤いものがくっついているし)、遠くからでもすぐ判別できるのだ。
私が近づくとすぐ近寄ってきて、んみゃああん!んみゃあああん!と声を限りに鳴きたてる。
たまにしか顔を合わさないのだが、ちゃんと私を「食べ物をくれるヒト」だと認識しているらしい。
この凄みのある容貌と、アグレッシブなまでのアピールぶりが私の心の琴線に触れるので、キャットフードをたっぷりあげる(姫とマロにはケチるくせに)。

しっぽちぎれ猫



家に戻ったら、出かけた時と同じく、うちの猫はヒラメのように床に平べったくなって寝ていた。
この猫は最近いじけた態度だったのだが、これは私が家の前で他の猫にエサをやっているのを目撃したせいらしい。
飼い猫としての、自分の立場が脅かされたように感じたのだろう。
バカだなあ、僕が愛してるのは君だけなのに~、と囁きながら、努めてなでてあげるようにしたら、元の状態に戻った。
猫の心理もけっこう複雑なのかもしれない。
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