人間住所録
高峰秀子
文春文庫・486円
☆☆
高峰秀子さんのご贔屓の松竹梅と、
安野光雄さんと、沢木耕太郎さんと、松山善三さんの、三人を選ばれている。
松山善三さんは、ご亭主で別にして、安野さんと、沢木さんは、
私も、大好きなお二人で、思わぬところで、出くわして、嬉しくなる。
安野光雄さんは、「旅の絵本」を見、津和野の美術館へも行ってきた。
繊細な絵ではありますが、そこからは、温かくて、のどかな風景が窺える。
沢木耕太郎さんは、私が一番好きな、エッセイスト。
「深夜特急」は、私の青春そのものであり、香港への船のシーンは心に残る。
鋭く、そして優しく人を見る目・・・。
この二人が、松と竹なら、私にとって、梅は誰なのか。
しばらく、時間を頂いて、じっくり、考えたいと思いますな。
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そして、この本で、もうひとつ、気になったのは
たけしの母と秀子の母で、ご自分の母を、赤裸々に綴っている秀子さん。
ただ欲のかたまりのように、一生を送り、金銭以外の何物も信用せず、
周りのものは、秀子の母を「おにのようなおふくろだったなぁ」と言う。
芸能人の中には、とかく複雑な家庭の事情を背負っている人間が多いとか、
でも、その反骨精神が、芸能界という厳しい世界でも耐え得る強い意志を支えるのだろう。
たけしの母は、たけしが売れだしたときから、二ヶ月か三ヶ月に一度の割で
「小遣いくれ」と、請求し、たけしはその度に寂しい思いをしていた。
92才になったオフクロを見舞った帰り、姉から渡された紙袋には、
たけしさん名義の郵便貯金通帳が入っており、そこには、今まで送ったお金が
一切、手をつけずに預けあり、その額は1000万近くになっていた。
「芸人は、いつ仕事が無くなるか解らないと、いくつ何才になっても心配していた」
鶴瓶さんの落語「オールウェイズ、お母ちゃんの笑顔」ではないが、
最後に、1本とられた、完全にたけしさんの負けですな。
この、心暖まる、母と子の関係を綴りながら、
一方、秀子はさびしく、我が養母を述べている。
私は、ではなく、秀子は、で、書かれているこの文章、
他人を装って書かなければならなかったぐらい、
遠い、過去の事・・・いまだ、わだかまりがあるのか・・。
この「人間住所録」の一番の主人公は、やはり高峰秀子さん、ご本人である。
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