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『生きている喜び 認知症と脳卒中を患った夫とともに』

2013年12月17日 | BOOKS
認知症と脳卒中を患った夫とともに
生きている喜び
神保 タミ子・著
幻冬舎ルネッサンス


 「認知症」を患い、その後「脳卒中」で体の自由が利かなくなった夫との生活を記録した介護手記です。
 病気が分かった時のショックだけでなく、初めて体験する病気への偏見や医療現場での様々な問題に落ち込んだり悩んだりしながらも、周りの助けを借りつつ前向きに愛情込めて介護している著者の生活と思いがとても丁寧に綴られています。


 私が一番ショックだったのは、認知症の人への大きな偏見でした。
 一部の医療現場で尊厳を軽視する扱いがされていることには恐怖を感じましたし、自分の中にも「脳の病気・認知症」に対する偏見があることに気づいて愕然としました。

 次に、「知的生活習慣」のある人でも認知症になるということ。
 元大学教授である著者の夫が、研修会の講師をしている時期に症状が出始めたということに驚きました。
「知的生活習慣のある人は認知症になりづらい」というイメージが大きかったので、少なからずショックでした。
 「誰でも認知症になる可能性がある」と、認識を改めました。

 この本の素晴らしいのは、困難な状況になりながらも「愛」のある生活、前向きな介護を伝えてくれているところです。
愛する家族の病気を前に、毎日毎日が「肯定的な老後」「尊厳のある老後」になるようにサポートする姿勢が随所に見えます。
 1冊を通じて、「介護のために、老後のために、家族生活のために、大切なこと」がいくつも示されているのです。

 ■・夫婦愛・家族愛・信頼
  これが、一番の要。これがないだけで、ストレスが倍増してしまう気がします。
  家族が病気に偏見を持たないことで、患者の心の平穏が保たれる可能性にも希望が感じられます。

 ■・情報・セカンドオピニオン
  次に、大切なもの。正しい情報を得ることで、できることが見えてきます。
  この本では「アルツハイマーの誤診」について書かれていますが、知識がなければ「誤診」に気が付かず間違った対応をする可能性もあるということが分かります。

 ■・介護法の勉強・良い介護用品と介護環境づくり
  少しでも、楽にする工夫が家族の笑顔につながります。
  この本では「古武術介護法」や「介護用特殊ベッド」、リフォームで、在宅介護の壁を乗り越えています。

 ■・良い出会い(相談できる主治医・ケアマネージャー・仲間)
  一人で抱え込まないこと、相談できる相手がいること、疑問をそのままにしないこと。
  勇気がいることもありますが、著者の行動から良い方向へ進んだ体験に勇気づけられます。


 もう一つ。
 著者には信仰があり、クリスチャンとして祈ることも大きな支えになっています。
 多くの日本人には得られない支えかもしれませんが、この本に出てくる『ニーバーの祈り』は、クリスチャンでなくても参考にしたい言葉です。

   「変えることのできるものを変える勇気と、
   変えることのできないものを受け入れる冷静さと、
   その両者を見分ける英知とを、主よどうか与えてください」

     (『ニーバーの祈り』)


 病気である夫から、周りの人たちから、そして今までの自分の人生から、謙虚に学ぶ著者の姿勢を見習いたいと思います。

 幻冬舎ルネサンスは自費出版をしている出版社ですが、認知症が増えている今、この本のような「愛」と「知恵」のある介護の本が増えるといいですね。



<参考>
ニーバーの祈り - Wikipedia
 アメリカの神学者 ラインホルド・ニーバーによる祈りの言葉。(Serenity Prayer「平静の祈り」・「静穏の祈り」)
公益社団法人 認知症の人と家族の会
 認知症のことが分かる、「家族の会」のサイトです。
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