秋はけっこう白い花の季節で、鏡台山を歩いていてもたくさん目にしました。白い花というのは、白い色素が含まれているわけではなく、小さな海綿状細胞が光を全部反射することにより白く見えるのです。含まれているとすれば、ポリフェノールの一種であるフラボンの、無色からクリーム色の色素。白百合の淡いクリーム色などはこれです。
鏡台山でもっとも目立ったのは、林道脇の斜面に咲く朝露に濡れたシシウドの群落でした。シシウドは、猪独活と書きます。セリ科の植物で、似ている小さな山菜のヤマゼリ(山芹)より大きく、人は食べないけれど猪なら食べるだろうというような意味で命名されたらしいのですが、猪が聞いたら、そんなもん食わないよ、と言われそうです。実際のところ、猪が食べるという話は聞いたことがありません。
ただ、若芽は人も食べる山菜なので、月の輪熊は食べます。基本的に熊は人が食べる山菜は、みな食べます。ひょっとしたら猪も食べるかもしれませんね。
そんなシシウドは、昆虫たちの大のお気に入りで、夏の信州の高原では、花火のように咲いたシシウドの花に何種類もの虫たちが吸蜜しているのが見られます。(これはシシウドではなく、同じセリ科のトウキでした。婦人病の薬草です)
林道脇にたくさん株立ちして百花繚乱の様を見せてくれていたのがシロヨメナです。秋の野菊は何種類もあって同定に苦しみます。このシロヨメナは高さが1.5mもあって、図鑑に書いてある1mぐらいまでという記述を遙かに越えています。花は直径が1.5センチと小さめ。葉は尖り葉柄はほとんどありません。色々迷って消去法でシロヨメナでいいのではと。(シロヨメナは里の花で山にはないので、ノコンギクですかね。葉に艶もないし。亜種が多そうです)
別名をヤマシロギク、イナカギクともいいますが、ヤマシロギクは別種という図鑑もあって混乱します。とにかく秋の白菊は、シラヤマギク、ノコンギク、ユウガギク、リュウノウギク、カントウヨメナなどなど。たくさんあるのです。図鑑を見ないで全て正確に同定できる人がいたら尊敬してしまいます。
サラシナショウマは、更級升麻ではなくて晒菜升麻と書きます。若葉を晒(さら)して食べる山菜で、根は漢方薬に用い、升麻といいます。山菜といいますが、たべたことはありません。オケラもトトキもそうですが、山菜として食べられるほど大量に群生しているのを見たことがないからです。
タンポポ(蒲公英)の写真は、花ではなく種ですが、逆光で見るとなかなか美しい幾何学的なフォルムをしています。少年ファンタジーの永遠の名作、レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』は、読まれたことがあるでしょうか。たんぽぽのお酒のビンを開けるといつでも12歳に戻れる…。来年の春はたんぽぽのお酒を仕込んでみようかと思いました。
ウバユリは、姥百合と書きますが、なんだかもうらしい(可哀想な)名前です。花が咲くときに葉(歯)が無いことから姥百合という親父ギャグのような命名理由ですが、草高がなんと2mもあります。写真のものは実で、鶏卵ぐらいの大きさ。中に薄い種が重なってぎっしり入っています。晩秋にこれらがはじけて飛び散ります。色はその頃には茶色になっています。
ところで、このウバユリは山菜として食べられるそうです。これは知りませんでした。毒草のバイケイソウと似ているので混生しているところでは要注意ですが、鏡台山なら心配ありません。
他にも、オケラ、ゲンノショウコ、モミジガサなど、白花の狂詩曲は自由気ままに埴科の山を彩っていました。
★鏡台山のトレッキングを、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にいずれアップします。どうぞご覧ください。