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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

白菊に すがる旅路の 浅葱斑:鏡台山(妻女山里山通信)

2009-09-25 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 安藤(歌川)広重が江戸時代後期に描いた浮世絵『信濃 更科田毎月 鏡台山』で有名な鏡台山へ登りました。夏に息子達と倉科の三滝から藪こぎ三昧の沢登りをして林道芝平樽滝線にでたのですが、今回は車で大峯山裏の倉科コース登山口に車を置いての楽チン登山です。

 往路は倉科コースではなく、そのまま林道を倉科方面へ歩き、百瀬の登山口を目指します。林道歩きは46分もかかりましたが、途中シロヨメナ、ノコンギク、シシウド、ツリフネソウなど、花がたくさんあって退屈はしませんでした。

 百瀬コースは、林道芝平樽滝線から県有林の作業道に入ります。県有林の植林帯に沿って登り、船ケ入という沢にあるサワグルミの大木を通って倉科コースに入り、北峯、鏡台山へと登るルートです。千曲市の「みどりを守る会」の方々が立てた標識があり、ちゃんと地形図が読めれば迷うことはありません。ただし、2万5千分の一の地図には全ての林道が載っていないため、更に詳しいgoogleマップの最大画像で全ての林道を把握してから登るべきでしょう。林道が何本もあって分岐も多く、パニックになると必ず迷います。

 鏡台山は、姨捨山方面から見た場合のみ真ん中が窪んだ双耳峰で、鏡台に見える山です。北の篠ノ井方面からだと鏡台山は北峯に隠れて見えず、その北峯も三角に見えます。また、南側の坂城方面から見ると、北峯は見えず、鏡台山南峯がやや三角に見えます。

 明治の埴科郡誌より鏡台山の記述を抜粋しますと、
 鏡臺山は(元禄国絵図張合峰に作る小県郡張合、坂城町大洞山)は、船ケ入の南に連なりて森、坂城に跨る海抜「一千百六十七メートル」凹字状をなせるより鏡臺山の称あり南の峰頂に陸軍省の陸地測量標あり。
此の山樹木なく頂上弓状に曲出するを以て張合又は曲出(マガリダシ・倉科の称なり今は訛りてまるいだし)の称あるなり。頂上よりは遙かに富士山を望み見るを得ると云ふ。
鏡臺山は更級郡に於いて姥捨十三景の第一に数えて著名なり従て
 くもりなき月のかがみのうてな山 影ものどけき秋の中ぞら   前 左 大 臣
 秋の夜の月の鏡のうてな山 きよきひかりの名にもたつらん   沓 掛 仲 子
   (注:うてなとは萼のこと 通常は釈迦の台座の蓮華の萼のこと ここでは鏡の台座の意)
等の詠みあり されど郡中にては月の此鏡臺に懸るを望み得る地少なくして名勝とは言ひ難く 却て榊の大道山の方鏡臺状にして更級郡の冠着山に対し明月の懸かるを見る (注:なんだか名勝ではないなんて書かれています、可哀想な鏡臺山。)
鏡臺山の坂城の地積に属するものを大洞(オオホラ)と云う 大洞より山脈西に分かれ禿平、笹平を経て五里ケ峰となる
大洞より南に連なる山脈は眞美登を経て黒柏木(クロカシャギ)山となり茂呂、胡桃平を経て七曲峠となる七曲は坂城傍陽と通する経路なり 七曲より不動建、水澤を経て池ノ平に至り鳩ケ峰となりて突起し横引を経て大道山となる

 その鏡台山の帰り道、渡り蝶で有名なアサギマダラを見かけました。初めはつるに掴まっていましたが、やがてヒラヒラと優雅に舞い始め、シロヨメナの花に留まりました。後翅に黒い班がないので雌ですね。翅が傷んでいるのは長旅のためでしょうか。縄張り争いはあまり激しくないようで、この蝶もこの後、他のアサギマダラとじゃれ合いながら同じ花で吸蜜していました。

「白菊に すがる旅路の 浅葱斑」 林風
フワフワと飛んでシロヨメナにぶら下がって吸蜜する翅の傷んだアサギマダラは、なんだか長旅の疲れにやつれているように見えたんですが、やつれていたのは直前にしたばかりの巨大な熊の糞を見て凹んだ私だったのかも。

「てふてふが一匹韃靼海峡を渡っていった」という安西冬衛の詩がありますが、「春」という題なので、この蝶はアサギマダラではないですね。なんでしょう。韃靼海峡(間宮海峡)を渡っていくぞ!という春の新たな旅立ちの決意を表すような力強い詩です。しかし、イメージ的には、アサギマダラですね。でも、あんなにフワフワヒラヒラと舞うように飛ぶ小さな蝶のどこに、そんな海を渡る力が秘められているんでしょう。渡りきるまで水も餌もないのに…。初秋の信濃の静かな山中で、そんなことをふと思ったのでした。

★鏡台山のトレッキングを、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にいずれアップします。どうぞご覧ください。
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