ここはすべて まぼろしの国
すべてあるところに なにもない
なにもないところに すべてある
あさめざめたときに
枕を埋めている砂が
すでに岩のように硬い
歩き始めた足を
包む布の靴が
すでに房のように裂けている
夢見続けていたものが
海の上の霧よりも
はかなかったことを
知っていても知りたくはなかった
なにもない世界の岸辺で
めざめてしまえば
すべてが見えてしまうことが
なによりもいやだった
夢とほんとうの間の
開くはずのない亀裂をこじ開けて
あらゆるものをねじこんでしまう
すべてつぶれてしまえばいい
なにもなかったことになればいい
なくなるはずのない自分を
くだきつぶして一筋の
耐えられない声を作る
その声をつぶす
何も聞えない 何も聞えない
(おれはだれだ)