月の世の少年です。この人は「船」編に出て来る少々、人間に苦い思いを抱いていて、よく皮肉を言う少年。多分、仕事上でいろいろ苦労しているのでしょうな。
これは、自分の担当している罪びとの言い訳を聞いて、あきれているところです。
一体何したんでしょうね。その人は。
ちなみに、「おれは何もしてない。なんでもないんだ、あんなこと、みんなやってることだし」というのは、罪びとの常とう句だそうです。大体、月の世に落ちて来た罪びとは、担当者の顔を見たとたん、真っ先にそういうことを言うそうですよ。
以下は仕事を終えた彼と、友人の少年との会話。
「みんなやってることだから、か…」
「大体の罪びとは同じようなことをいうよ。実際地球では、多くの人が心の中でそう言いつつ、いろんな悪いことをやってる」
「それって、自分が恥ずかしくないのかなあ」
「そりゃあ、恥ずかしいさ。だから『みんな』のせいにするんだ。みんなやってることだからって。そして、人間はみんな、悪い奴なんだってことにしたいんだ。自分が悪いことをするから、人間はみんな悪い奴だってことにしないといやなんだ」
「そうだ。そうしないと自分が苦しいからなんだ。それで、よい人間が地上で生きることが苦しくなりすぎてる。よい人間ほど、悪いことをする人にねたまれて、とても苦しい目にあう」
「そういうことに関しては、人間はとても上手だよ。人をいじめるってことに関しては、見事に巧みな知恵と技術を持ってる。そういうことをやるから、実におかしな地獄に落ちることになるんだけどね」
「ほんとにね」
「で、その彼は今、どうなってるの?」
「沼でサンショウウオをやってるよ。今度は二百年くらいかかるってさ」
少年は、深いため息をつきました。