すがすがしい宵でございました。空の月は、三日の月でございました。
王様は、お宮の出口から、空をごらんになり、月を見上げ、その細さをみて、胸にしみとおるような痛みを感じられました。
「なんと細い。傷のようだ。ああ、神のお胸の悲しみは、あのようであるのでしょうか」
王様はため息をつきながら、歌うようにおっしゃりました。そしてしばし目を閉じて、悲哀をかみしめられたあと、またひとつ、小さく息を落とされて、今度は少し微笑んで、おっしゃったのです。
「ああ、なんとも、さわやかなものだ。おのれというものは」
すると、お宮のお庭で、小さく歌いながら、琴を爪弾いておられた梅花の君が、おっしゃったのです。
「はい、そのとおりでございます」
すると王様は、その声に引き込まれるように、お宮から出られて、お庭の梅花の君を、振りかえられました。そして、その顔に、頬笑みをそっとかけられて、うれしそうに、おっしゃいました。
「うつくしい梅の心の君よ。あなたは、いちばん、わたしをわかってくださいますね」
すると梅花の君は、そっと目をあげられて、王様の瞳にこたえられ、頬笑みをおかえしになり、おっしゃりました。
「はい、そのとおりでございます」
三日の月の、宵のことでございました。