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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

命の約束

2015-10-01 03:55:26 | ちこりの花束

 ようやく、トンネルを抜けました。
 ここ何年かの、糸にからみつかれるような重苦しい試練を、乗り越えました。
 いろんな失敗や迷い、苦しみがありました。それらを、ほとんどひとりで考えて、取り組まなければなりませんでした。若い頃も、つらいことはたくさんあったけれど、大人になってからのそれは、その比ではありませんね。孤独でした。もちろん、さまざまな人の助けがあった。けれども、一番大事なところは、ひとりで考えて、耐えねばならなかった。
 今でも思い出すのは、おなかの中に重い苦悩を抱えて、犬を散歩させていたとき。それは日差しの明るい、ある日の昼下がり。堤防の上に立って海を見ていました。そのときでした。何もかも一人で耐え、一人でやらねばならないと、自分に決意させたのは。これはそういう課題なんだと。心の中で神様とだけ話をしていた。海が青く、すぐ近くを、たぶんトンビでしょう、翼を広げた猛禽が一羽かすめていった。風が私の周りをただ流れていた。
 この崖っぷちの孤独の中で、ともに生きてくれるのは今、確かなこの自分自身だけなのだと感じた。この自分を信じていくしかない。私の戦いはそれから始まりました。
 何もかも自分の頭だけで考えねばなりませんから、それはもう失敗ばかりやりました。ああでもないこうでもない。とにかく自分にできることからやっていく。失敗する。では別のことをやってみる。失敗する。そういうのばかり。情けなくなりますね。でも何とかやり通せた。それは多分、一番大切なものを、決して忘れなかったからです。真心。本当の自分。それ以外に自分はない自分。どんな迷いの中でも、それだけは決して放さなかった。
 そして、試練の向こうには、理屈では測りきれない明日がありました。不思議ですね。心も、環境も、今、こんなふうになるとは思わなかった。あの頃に望んでいたことは、全て叶わなかった。でも今はそんなことはどうでもいい。乗り越えられた自分の真実だけがある。ひたすらにやり通せた、この自分自身が、一番大きな成果だったのでした。
 すべては、今、この自分になるためにあったのでした。時期がくればサナギが蝶になるように、人にも時期がある。それはとても不思議な、命の約束だったのでした。


(2006年4月ちこり36号、編集後記)



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