◇ 『天国でまた会おう』(原題:Au revoir la-haut)
著者:ピエール・ルメートル(Pier le maitre)
訳者:平岡 敦 2015.10 早川書房 刊
前作『その女アレックス』(2014.10)はフランスの文学賞ゴンクール賞を受賞した。物語が二転・
三転するサスペンスフルで驚愕的な展開で読者をうならせ、邦訳本も爆発的な売れ行きだった。
本書はミステリーに属する『その女アレックス』とは異なり、フランスでは冒険小説と分類されているら
しい。
翻訳者がフランスの新聞・雑誌の書評を紹介している。”ルメートルの言葉は生き生きとして抑制が効き、
独創的だ。まさに注目に値する、驚くべき小説である。”、”悲劇的な、そして波乱万丈の物語。読者の心
をとらえて離さない感動的な一大絵巻。”、”まさしく傑作だ。大衆性と文学性を両立させた作品。一般読者
のゴンクールアレルギーを解消させてくれる作品である。”、”心を打つ大作。恐怖、禍々しさ、情感、荘厳、
卑しさ、そして滑稽さまでもが、ここでは見事にひとつになっている。” 等々。
578ページの大作である。とても一気読みをするわけにはいかないが、眠れぬ夜の2時3時に、また手に取
って読み始めるという本はそうはない。
舞台は1918年ころのパリ。第一次世界大戦が終わってまだ混乱の世が続いている。主要な登場人物は愚図
で、のろまで、小心者の一兵卒のアルベール・マイヤール、その上官で没落貴族の末裔、大尉アンリ・ドル
ネー=プラデル、そしてアルベールと同じ小隊の戦友エドゥアール・ペリクール。彼は富裕な実業家の一人
息子であるが、天与の画才をもちながら父と親子の情を通わせる暇もなく戦場で顎を失うという重傷を負う。
偶然に上官アンリの悪事を見てしまったアルベールは、その直後爆弾の直撃で生き埋めになる。しかし運よ
くエドゥアールが必死で掘り起こしてくれて、片手を失うものの九死に一生を得る。その直後にエドゥアール
が顎を失うという瀕死の怪我を負うことになる。
ようやく休戦協定にこぎつけ、二人は戦場を後にするが、なぜかエドゥアールは実家に帰ることを拒む。
彼に恩義があるアルベールは、戦死者の一人となり替わる手を打ち、顎も歯も喉も失ったエドゥアール介護
に当たることになる。エドゥアールは痛みを抑えるモルヒネ依存になり、ヘロインにまで手を出すようになった。
戦死の通知を受けたエドゥアールの家では親しかった姉のマドレーヌがアンリ・プラドルを介して弟の戦
死に立ち会ったというアルベールに会いに来る。なんとそれがきっかけでマドレーヌは金目当てのアンリに
つかまり結婚することに。
商才があるプラドルは、政財界に人脈があるマドレーヌの父ペリクールをバックに戦死者を戦没者墓地に
埋葬する事業を落札する。かつての屋敷を再興したいプラドルは、棺のサイズや埋葬者の数をごまかす、土
を入れた棺を埋葬する、遺品を盗む、ドイツ兵を埋葬するなど数々の悪事を働き、やがて査察官に見つかり
訴追される羽目になる。
一方、エドゥアールはフランス中の市町村に戦没者を追悼する記念碑建設を勧奨することを思いつく。い
くつものモデル像を描き、パンフレットを送りつけ、100万フランのほど上がるはずの予約金を手に、外国
に逃げるという壮大な詐欺プランを企てる。心配性のアルベールも日々の生活費やモルヒネ代のこと、加え
て最近思いを寄せているバツイチの娘ポリーヌとの生活を思って、ついにそのプランに乗る。
革命記念日の7月14日を締め切りとする戦没者追悼記念碑申し込みはついに100万フランを超えた。あと
3日後にはマルセイユ経由で二人はベイルートへ逃れる。(そしてポリーヌも連れていきたい!)
当日エドゥアールはアルベールとリヨン駅で待ち合わせていた。高揚した気分で大通りに走り出たエドゥ
アールは走ってきた大型車にはねられた。その車には父ペリクールが乗っていた。彼の眼前には死んだと
思っていた息子の顔があった。リヨン駅ではまだ来ぬエドゥアールをやきもきするアルベールとポリーヌ。
大まかに言ってこんなストーリーであるが、際立ったサスペンスもないし、冒険小説特有のワクワクする活劇
場面もあるわけではないが、登場する人物像と相互のかかわり、心の動きなどが生き生きと弾み、一時代前
の話とは思わせない展開で、飽きさせない。
前代未聞の詐欺事件を企てさせた背景には、戦死した兵士は英雄としてもてはやされながら、生きて帰っ
た復員兵には冷たい、戦後のフランス社会に対し痛烈な一矢を報いた小説ともとれるとの見方がある。
(以上この項終わり)
◇ 今年初めての写生会
快晴で風の少ない絶好の写生日和。手賀沼に流れ込む大堀川を描いた。
かねてから電車を描いてみたかった。ようやく機会に恵まれた。ふるさと公園の先にある
大堀川の土手から常磐線(と千代田線)が走る絶好のポイントを探し当てた。
一応川をまたぐので鉄橋と呼んでいいのだろうがそんな感じがしない。常磐線の路床が
緩行線である千代田線より一段と高くなっている。鉄道の路床より低いところを国道6号線
が走る。土手を走ってきた自転車も人も土手を下って線路と国道を抜けることになる。
まだ葦が枯れたままで、桜も再来週くらいにならないと咲かない。固い蕾である。絵として
は寂しい。桜を咲かせたい誘惑に駆られる。しかし枝ばかりの風情も捨てたものではないと
丹念に細い枝を描いた。残念なのは土手の道路に移った木の枝の影。もっと鋭角的だった
かもしれない。
桜の頃に今一度描いてみようか。
Clester F8
(以上この項終わり)
◇ ブロッコリー
昨年暮れ前に直径10センチくらいの大きな玉をとったブロッコリー、その後しばらくしたら
直径7~8センチくらいの小玉が7~8個出来た。とても自家消費だけでは食べきれないの
で娘やご近所の方にお分けして食べてもらった。柔らかくて、茎の部分が甘くて好評だった。
◇ 絹サヤ
蒔く時期を間違えて11月なって種を蒔いた絹さやはやはり虚弱児のように育ちが遅く、よそ
様ではすでに30センチくらいに育っているのにまだ15センチくらいの背丈である。暖かくなっ
てきたのでこれからが勝負である。
◇ そらまめ
このところの暖かさでぐんぐん伸びて、花が咲いた。脇芽がどんどん伸びるので紐を張って
支えにする。しばらくしたら中心部を欠いて脇枝を伸ばす。
◇ 肥満児”だいこん”総太り
来月にはトマトや落花生の植え時なので畝を明け渡さないといけない。2畝あった大根は
後2~3本になったが、なかなか食べきれずとうとう薹が立ってきた。大きさは伸長53センチ、
腹囲41センチ、体重5.6キロ。新生児の1.5倍の体重では完全に肥満児である。
◇ ネギ
ねぎは手入れが悪く育ちが今一つである。本来もっと施肥と土寄せをまめに行わ
ないといけないのだが、ついおろそかになってしまった。
(以上この項終わり)
◇大津川の土手に生えた「からし菜」
3月の声を聞くと手賀沼に流れ込む河川のひとつ「大津川」の土手に自生するからし菜が顔を出し始める。
この新芽を摘み取って漬けるのが楽しみである。蕗のとうや筍などもそうであるが一年に一回しか味わえな
いというところに感動がある。今年は5日当たりがちょうどいいかと思っていたら雨催いの日が続いて、11日
に行ってみたら既に花が咲いたものがあり少し遅かった。毎年同じところに生えるが、気が付くと場所が移っ
ていたりする。
大津川の土手
蕾を漬けたからし菜
上から20~30センチのところで折る。柔らかいのですぐに折れる
ざっと洗って、たっぷりの熱湯を満遍なく掛ける。(茹でてはいけない)
まだ熱いが、荒塩を一握りつかんでまぶして揉み込む。親の敵に遭ったが如く
しゃにむに揉む。やがて黒っぽい灰汁が出る。からしの香りが出始める。
灰汁の出たからし菜は、さっと洗って今一度適当な量の塩をまぶして漬物樽に
入れ、5~6キロの重しを載せる。2・3日でいい具合に漬かる。
味の素を少し振って、醤油をサッと掛けて食べると美味しい。酒が進むこと請け
合いである。
漬かったからし菜は常温では発酵してしまうのでジプロックに入れて冷蔵庫で
保存した。
(以上この項終わり)
◇『ダークライン』(原題:A FINE DARK LINE)
ID:4wi312 著者: ジョー・R・ランズデール(Joe R. RANSDALE)
訳者: 匝瑳 玲子 2003.3 早川書房 刊
1958年の夏。アメリカは南部の代表的な州テキサス。主人公の少年13歳のスタンリー・ミッチェル
・ジュニアは人口およそ10万人の田舎町デューモントに引っ越してきた。この小説は彼の一夏の異常
ともいえる体験の記録である。
スタンリーJr.を取り巻く人々、登場人物はそう多くはない。スタンリー(父)、ギャル(母)、キャリー(姉
:16歳)、ロージィ(メイド:黒人)、バスター(映写技師:セミノール族インディアン)、リチャード(友人:14歳)、
ブッパ(ロージィの夫)、チャップマン(リチャードの父)、アーヴィング・スティルウインド(町の実力者)、ジェ
イムズ・スティルウインド(アーヴィングの息子)、そして愛犬ナブ。
自動車の修理工だったスタンの父は、デューモントに引っ越してきて念願のドライブインシアターのオ
ーナーになる。もちろん住まいも隣接している。
夏休みに入って間もなく、スタンは隣接した森の奥に焼け落ちた屋敷を発見する。そしてその一隅に
埋まった金属製の箱を見つけた。その箱の中には、女性が書いたと思われる手紙の束と日記の一部が
入っていた。
それはパンドラの函だった。蓋を開けた途端に、あらゆる醜いものと秘密が飛び出してきた。
「MからJへ」という手紙は自殺したと噂されるマーガレットとMという男との間にかわされた手紙だった。
噂では、焼け落ちた屋敷では年若い娘のエレンが焼死したらしいし、雇い人の娘マーガレットは鉄道に轢
かれて亡くなっているという。家の持ち主のスティルウインドは新しい邸を丘の上につくったが、幽霊が出
ると言って今はホテル暮らしとか。スタンは友人のリチャードや、映写技師のバスターなどの助けを借りて
焼死事件の謎を探り始める。
事件は最終章で意外な展開を見せる。スタンはとても13歳とは思えない活躍で真犯人を暴きだして新
学期を迎える。
この間、長い夏休みに入って、秘密の金属缶の発見、映写技術の習得、姉キャリーを取り巻く若者との
騒動、キャリーによる性教育、友人チャーリー家のDV、幽霊屋敷の探検、ジェイムズ・アーヴィングに襲
われたキャリーの救出、バスターによるブッパの殺害事件、チャーリーを追ってきたチャプマンの死、そし
て町の実力者アーヴィング・スティルウインドを単独で脅し上げ家族を守ったたスタンの活躍…。
たったひと夏のあいだに、この少年はなんという経験をしたのだろうか。
1958年はまだ古き良きアメリカが残っていた。良きといってよいのかどうかわからないが、変わりつつあ
る空気はありながらも、女性の役割は家庭を守ること、黒人の差別は当たり前が決して不自然ではなか
った時代の物語である。
(以上この項終わり)