読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『三秒間の死角』を読む

2013年12月30日 | 読書

◇『三秒間の死角』 著者:アンデス・ルースルンド&ベリエ・ヘルストルム
                (Anders Roslund &BorgHellstrom)

             訳者:ヘレンハレメ美穂
             2013.10. ㈱KADOKAWA刊 (角川文庫) 

   

   北欧・スカンジナビア半島スエーデン・デンマーク・フィンランドなどを舞台にしたミステリー。
   コンビ作家による長編ミステリーの第5作。警察小説の系譜に属するが、テンポの良いサス
  ペンス溢れる展開が読者をあきさせない。

   巨大なマフィアが営む麻薬取引グループに長期にわたって潜入した捜査員ポール・ホフマ
  ンが主人公の一人。大きな麻薬取引に現れた売人が警察機関からの潜入捜査員であるこ
  とを察知し殺してしまう。
   この事件でポールの組織内での地位が上がった。新たにスェーデンの刑務所内に麻薬を
  取引するネットワークを築くという重要な役割を与えられる。
   
   一方潜入捜査担当部署の責任者警視正、警察庁長官、法務省政務次官などは、ポール
  の組織内地位が上がったことで麻薬マフィア撲滅の好機と認め、この殺人事件を隠蔽しポ
  ールの潜入活動を続けさせることを決める。しかしこの殺人事件を担当することになったエ
  ーヴェルト・グレーンス(第二の主人公)警部は、不可解な証拠や度重なる捜査妨害に次第
  に不審を抱き、執拗に事件解明に動き回る。
   エーヴェルトのしつこい捜査に、潜入捜査が明るみに出る危険を感じた幹部はついにポー
  ルを切り捨てることを決める。
   刑務所内でのネットワーク形成のためにわざと麻薬所持の罪を得て服役したポールは、巧
  妙に持ち込んだアンフェタミンを所内にまき始める。ところが潜入捜査の上司に密告された
  ポールにはマフィアから殺し屋が送り込まれ窮地に立たされた。
      罠にはまったポールはついに囚人と看守を人質に作業室に立てこもる。警察は作業室を見
  通せる教会のバルコニーに狙撃手を送り込む。そしてあろうことかその陣頭指揮官にエ―ヴ
  ェルトを充てる。
      
     潜入捜査官をスカウトする仕組みとは。刑務所を何度か出入りしている素質のありそうな
  チンピラを、証拠の改ざんや刑務所の扱い操作で心理的に追い詰めたうえで説得して危険
  人物というイメージを作り出す。その上でマフィア集団に接近させ、麻薬取引等の取引情報
  を探りださせるのだ。犯罪者を警察が雇い、ほかの犯罪を捜査するという理由で犯罪を覆い
  隠す。そこでは犯罪が正当化されるのだ。

   ついにポールへの狙撃がエーヴェルトによって命令された。爆薬を背負った身体が粉砕さ
  れた。 

   実は切り捨てを予知したピートは、作戦会議の一部始終を隠しマイクで録音していた。
   もはやこれまでという時点で妻に電話をして、かねて準備していたそれらの証拠を、信頼
  できるエーヴェルト警部の許に送付し、そのまま身を隠すよう指示した。

   狙撃の命令を下すという殺人行為を強いられたことを知ったエーヴェルト警部は怒る。偽
  りの証拠などで裁判を立件させられたことを知った怒りの検察官と組んで、ポールを死に
  追いこんだ関係者の糾弾に立ち上がる。 

   最終ステージがすごい。なぜすごいのか。この先は明かさない。

   1年のうち8か月が冬のようなスカンジナビアの警察組織のおぞましい実態が寒々しい。

  (以上この項お終わり)

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安倍首相の靖国神社参拝問題について

2013年12月27日 | その他

◇ 殿、御乱心?
  このブログに政治向きの話題はあまり書きたくないのだが、思い余って書く。
 昨日のネットのNEWSで安倍首相の靖国神社参拝の記事を読み唖然とした。
  なぜこの時期に参拝したのか。かつて首相だった間に一度も靖国神社に参拝できな
 かったことが「痛恨の極み」だったようであるが、今回の参拝でまさに「宿願を果たした」
 わけで、晴れやかな表情だったというが。国のために命をささげた人々に対する追悼の
 気持ちは誰しも持っている。それと靖国神社に参拝するかどうかとは別問題であろう。
 「世界の恒久平和をねがったもの」といっているが、傍では「宿願を果たし」満足げだっ
 たとしか見ていない。そもそも首相の神社参拝は特定の宗教に公的にかかわることで
 違憲の疑いがもたれるデリケートな問題である。個人の資格で参拝したとは言っても首
 相になった途端に慎重であらねばならないのだ。でありながら首相であったときに参拝
 できず痛恨な思いをしたということは、首相という身分で参拝したかったということであ
 ろう。これは意識自体が問題ではないか。
  元来安倍首相は美辞麗句が好きで、空疎な言葉の裏でけっこう危ないことをしっかり
 と推し進めている。 今回の靖国神社参拝でも中国と韓国が言葉を極めて(中国=国
 際社会に対する大きな挑戦。韓国=嘆きと憤怒を禁じえない)この参拝を非難している。
 A級戦犯を合祀している神社に参拝することは、侵略戦争を正当化する行為とする中・
 韓の主張を是とするつもりはないが、尖閣問題を初め防空識別圏問題、慰安婦問題・
 戦事徴用補償判決問題など、山積する問題事案に対する対話も全く展望がないまま、
 単に自己の宿願を果たすという満足を得るために、両国を刺激することを承知の上で
 参拝に踏み切った安倍首相には国家を指導する責任者としての深謀も遠慮もない。
 「対話を求めていきたい」と語ったいうが、笑止といううべきか。痛恨の極みが解消で
 きて満足という晴れやかな表情で「対話を求める」と言ったところで、空疎な言葉とし
 て誰ひとり信用はしまい。そもそもこのところ安倍首相は独善と慢心の言動が続く。
 たまたま経済状況も味方し景気も上向いた。野田首相のおかげで消費税増税の
 レールは敷かれている。アメリカの経済回復で円安も続く。
 ただ幸運に恵まれただけなので謙虚に進むべきところ、憲法違反状態を司法から
 指摘されながら何ら手を打とうとしないまま、憲法改正、集団的自衛権容認、特定秘
 密保護法ごり押しと、ひたすら日本の右傾化を肯定するような行動に走っている。
 まさに増長の極みではないか。小選挙区制のおかげで民主党の敵失に乗じて衆院選・
 参院選に勝っただけであって、民意が圧倒的に自民党を支持しているわけではないと
 いうことを謙虚に顧みるべきである。
  今回の靖国神社参拝は中・韓両国はもとより、盟友であるはずの米国からも「失望
 した」との異例の批判談話があった。今の米オバマ政権では親中派が優勢という。
 日本より中国との関係が大事と思う人が多いということだ。中国の防空識別圏拡大
 で当初の反応から大幅にトーンを引き下げた国務省談話がこの状況をよく表わして
 いる。今回の問題でまたもや親日派が後退すると思われる。折角のケネディ大使赴
 任で好転した日米関係もこれで帳消しであろう。
 言葉の割に外交感覚がずれている。
                                         (以上この項終わり)

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ロバート・B・パーカーの『暗夜を渉る』を読む

2013年12月24日 | 読書

 暗夜を渉る』(原題:Night Passage)
                    
 著者: ロバート・B・パーカー(Robert B.Parker)
                     訳者: 菊池 光 
                     1998.5 早川書房 刊

    


  
久しぶりのパーカー作品。これまでは主としてスペンサー・シリーズを読んだが、今回は珍しくジェッシイ・
 ストーン・シリーズ(9昨品の第1作)。

  シリーズ物は主人公のキャラクター設定が興味深いが、ジエッシイ・ストーンはアメリカはペンシルヴエニア州
 の田舎町パラダイスの警察署長。かつてはドジャースのマイナーに在席した野球選手であったが、怪我で野球
 人生を断念、警官になった。カリフォルニア州ロサンゼルス市警殺人課の敏腕刑事であったが、妻ジェニフアー
 が男と家出し離婚。傷心の末酒に溺れてアルコール依存症一歩手前まで行った。
  ロス市警を首になったジェッシイに舞い込んだ働き口は、町の行政委員長の言いなりになる(なってほしい)
 警察署長の椅子だった。
  ロスからルート66のフラッグスタッフを経て車を駆って東部ボストン郊外のパラダイス町を目指す。

  パラダイスの行政委員長ヘイスティは銀行所有者であるが、ギャングの資金洗浄で得た金を「自由な白人
 キリスト教徒が支配する町を作る国民軍騎馬隊」に注ぎ込んでいる。国民軍隊員は警察署にもいて、資金洗
 浄に気付いた前所長は辞職を迫られたうえに殺された。
  ヘイスティの浮気相手の女性も邪魔になって殺される。
  酒飲みで無能な署長と見られて採用されたジェッシイは、いまだに忘れられない前妻ジェニファーを思い浮か
 べながら、次第に酒をコントロールするようになり、パラダイス町を牛耳るヘイスティの悪事とこれに連なる悪
 人どもの排除に立ちあがる。   

   (以上この項終わり) 

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秋色の信濃路・大室温泉の里山を描く

2013年12月11日 | 水彩画

信州松代・大室温泉の晩秋
  自分が感動しないで見る人を感動させることはできない。或る芸術家の言だ。
 妻と一緒に北国街道を歩く途次、思わず感動の声を上げた。そこは佐久間象山の生まれ故郷
 松代町の大室温泉がある、紅葉に彩られた北山。自然が色なす錦秋の見事さに感動した。
  スケールからいったら日光のいろは坂、苗場山、火打山などには太刀打ちできないものの、
 また多少人の手が多少入っていると思われるものの、里山の穏やかなたたずまいがまことに
 よろしい。
  艶やかな朱色、深紅、黄色、橙、焦げ茶など色とりどりの落葉樹の大海の中に、スギ林など
 針葉樹の緑が緊張感をもたらし、「一幅の絵」のようだ。野道のすすきはまさに枯れ尾花。晩秋
 を象徴している。

  ここは信州旧更級郡松代町(昭和41年の合併で長野市)大室。史跡大室遺跡群がある。先に
 触れたとおり北山の麓を長野電鉄屋代線が走っていたが、昨年この路線が廃線となって駅舎も
 なくなっていた(大室温泉の案内ではまだ駅から5分といういう記述残っている)。
 「まきばの湯」という日帰り温泉施設があって、絵でご覧のとおり北山の中腹にある温泉施設か
 らは、川中島の合戦場や千曲川を俯瞰できる。街道歩きの途中でなければぜひ一風呂浴びて
 足を休めたいところだ。

    
     SIRIUS DR F10

    (以上この項終わり)

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秋の果物を描く

2013年12月08日 | 水彩画

金属の器に載った秋の果物
  果物を描くのは多分今年は今回が最後。幹事さんは秋の代表的果物としてリンゴ・梨・洋梨・
 柿となんとやや時期外れのプチトマト。彩りを考えたのだそうだ。
  果物という柔らかい素材と、金属の器という硬質モチーフの組み合わせの妙を如何に表現
 できるか問われているわけである。

     
         CLESTER F8

                                                          (以上この項終わり)

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