読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

三羽 省吾 『共犯者』

2021年12月06日 | 読書

◇ 『共犯者

   著者:三羽 省吾   2021.9 KADOKAWA 刊

  
  
  これは一匹狼の週刊誌記者の物語である。
 殺人か事故か分からない事件を追っているのだが、次第に転職前の職場の
記者や彼の家族が登場して、複雑な人間関係が事件解明の行方を混乱させ、
真相の解明が混沌としてくるもどかしさが続く。
 事件そのものは殺人とも事故ともみられる遺体が損傷された状態で山中に
遺棄されていた。被害者は佐合優真と知られた。
 何よりも事件記者宮治和貴の弟夏樹は養子で、重要参考人布村瑠美が被害
者佐合の実子で、夏樹と兄妹である。二人は事件の重要参考人とされている
が、布村は事情聴取後行方をくらました。宮治は夏樹が布村を匿っていると
みている。取材の過程で和貴が弟と布村の関係を知り、兄妹とはいえ夏樹が
犯人蔵匿の罪に問われかねない状況に苦悶する。

 宮治は報道記者としての使命感と事件関係者となった弟の取り扱いに悩む。
 どうやら警察は何かを知っておりながら隠している節がある。しかし警察
内部の捜査進展状況には詳しくは触れられていない。
 実は布村留美には光という小学生の息子がいる。それを知った宮治は俄然
筆が鈍る。真実を報道すると言っても、何が何でも公にしていいわけじゃな
い。留美の息子がこれから負う十字架を思えば迂闊な記事は書けないと思う。

 初めは松本清張を思わせるタッチだななどと読んでいたが、事件を養子制
度をはじめ親の暴力やネグレクト、PTSD(心的外傷症候群)など現代病原が
もたらした悲劇をテーマに据えた作品とみた。
 そして家族、血縁、仕事仲間といった人間同士の関係がどういった意味を
持つのかを考えさせる。養子縁組で兄弟となった兄と弟の思いやりが記事の
偏向をもたらし、それが犯人の行動を自決に誘導するという、いささか手の
込んだ手法で事件終結に持って行くところが秀逸である。
                        (以上この項終わり)

 


 

 

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