読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

エヴァン・オズノスの『ワイルドランド』アメリカを分断する「怒り」の源流

2024年11月27日 | 読書

◇『ワイルドランド』<アメリカを分断する「怒り」の源流(原題:Wild land:
The Making of Americn's Fury>  

     著者:エヴァン・オズノス(Evan Osnos)
             訳者:笠井亮平        2024.3 白水社 刊

  


 分断状況が端的に現れた2024年大統領選挙。トランプ氏が圧勝した。
これからアメリカはどう変化しどこへ向かうのか。

 アメリカのピュリツアー賞受賞ジャーナリストヴァン・オズノスが著わした
ノンフィクションの力作である。
 著者はこネチカット州 グリニッジ、ウィスコンシン鷲クラークスパーグ、
イリノイ州シカゴ。かつて住んだことのある三か所に住む19人の人物に光を
当てて7年半かけて生活の変化に沿いながらインタビューを続けた。勿論経済、
社会の変化、人々の考え方の変化も膨大な情報を駆使し述詳されている。それ
ら情報源は巻末に丁寧に説明されている。

 南北戦争から150年を経てアメリカは再び分裂国家と化した。その始まりは
2001年9月11日の同時多発テロ事件。そして終わりは2021年1月6日に起きた連
邦議会襲撃事件であると見る。行き先が分からないまま暴走したこの20年で、
私たちが見過ごしがちだった人生の航路がどう交差したのか明らかにしたい。
自分の良く知る場所で、見知った人達から話を聞いた記録である。

   著者は「ニューヨークタイムズ」記者だった頃、第一次トランプ政権の選挙
陣営に密着取材取材をしている。あいまいで大げさな主張を繰り返すトランプ。
ヒラリーが代表するワシントンのエリート政府を打破しようとアピール。その
うち共和党員の多くが雪崩を打打つようにトランプ支持に回った異様さを記し
ている。
 トランプ陣営が主張していた小さな政府を実現するために行った政府機関の
廃止は数カ月に及び、これによって多大の財政負担が齎された。
 
 再選を目指したトランプの選挙戦は第一次大統領選挙時の目覚ましい地滑り
的勝利とは真逆の結果に終わりバイデンの勝利に終わった。
 9.11同時多発テロ事件以降、銃の所持が単に憲法上の権利との主張にとどま
らずテロに対する防御手段としての有効性を主張する人が増えた。
 
 選挙結果を覆そうといういう企てが急速に発展し、ついに2021.1.6、多くの
トランプ支持者及び団体が武器等を携えワシントンの連邦議会を襲撃し、警備
陣を打ち破り議事堂内に侵入した。トランプが否定した新型コロナの広がりは
まだ殷賑を極めていた。

 議事堂で展開していた光景は。アメリカ政治の冷笑と不合理、欺瞞によって
大きくなった業火のようだった。(本書下巻323ページ)

 議事堂への動員を呼び掛けたトランプは無罪。
アメリカの分断は深刻化したまま第二次トランプの世界に打ち進む。

                   (以上この項終わり)

 

 

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スティーヴン・キング『ビリー・サマーズ(下)』

2024年11月02日 | 読書

◇『ビリー・サマーズ(下)』(原題:BILY SUMMERS)

   著者:スチーヴン・キング(STEPHEN  KING)

   訳者:白石 朗     2024.4  文芸春秋社 刊 


  
 <承前>
 ビリーは警察のお尋ね者になっているばかりかニックの組織の外4つ
の独立系の連中に追われていることを知る。何しろビリーの首には600
万ドルの賞金がかかっているという。

 ビリーとアリスは連れ立って隠れ家を抜け出す。ビリーは報酬の残金
はともかく自分を虚仮にしたニックを懲らしめてやる考えである。
 ビリーの友人でこの請負仕事の紹介者でもあるバッキーの隠れ家を訪
ねる。5日間ニック襲撃の準備を整えたビリーとアリスはニックの住む
ラスベガスを目指す。

 アリスの身体の傷も心の疵もかなり癒えた。ロッキー山脈を越える車
の旅を続けビリーの生い立ちなど話しているうちに、アリスの顔立ちも
人となりもすっかり気に入ってしまったビリーは、アリスをこのような
世界に巻き込むわけにはいかないとホテルに残し単身ニックの館に乗り
込む。

 約束の金を払わないどころかビリーの首を狙うニックを追求すると、
意外や真の依頼人はメディア界の帝王ロジャー・クラークであること
がわかった。結局ニックは殺さなかった。
   
 クラークの長男と次男が跡目相続争いをし、長男が父親のスキャン
ダラス(少女性愛愛好者)な画像を材料に自己の跡目相続を強要した
ので、クラークは殺し屋アレンに長男を殺させた。ところがアレンが
問題の画像を手に入れてクラークを脅迫してきた。そこでニックにア
レンを殺す狙撃者を探させたところビリーに白羽の矢がたった。その
際ビリーは狙撃後直ちに抹殺させる手筈になっていたというのだ。ま
さに衝撃の筋書きである。クラークはこれまでの依頼人では最高の悪
人である。

 ビリーとアリスはロングアイランドを目指しクラーク抹殺の旅に出
る。ロジャーが15歳位の少女性愛愛好者であることを知り、アリスを
候補者に仕立てビリーは女衒役に化け邸に入り込もうとする。いまや
ビリーとアレンはタグを組んだクラーク狙撃チームである。

 クラークの邸では女性守衛のマージを躱しまんまと邸に入り込んだ
が護衛役のピータースンに疑われこれを倒した。アリスが突如クラー
クに発砲し傷を負わせたのでビリーが頭を撃って止めを刺した。
 ところがマージが再び登場、ビリーは腹部を撃たれながらもクラー
ク邸から逃れる。
 アリスの介抱を受けながら一旦ホテルに落ち着き、アリスに別れの
手紙を書く。親愛なるアリスへ…。人を殺した時、精神と魂双方に残
る疵は避けられない。これ以上君に悪影響を耐えたくない。バッキー
の処に行け。.アリスへの愛の言葉ー俺は心の底から君を愛するように
なったーも添えて。  
 そして百ドルで乗せてくれる大型トラックを求めて独り去っていく。

 ところが実はビリーはマージから2発の弾を喰らっていて1発は内
臓に止まって瀕死の重傷だった。ビリーはバッキーの家に着く前に死
んだ。バッキーとアリスの二人はかつてビリーが著作を執筆した小屋
の近くに墓を作りねんごろに葬った。
 ビリーが残りの人生に向かって、またある種の贖罪の機会へ向かっ
て去っていくというストーリーはアリスが書き継いだビリーの小説の
最終段だったというのである。

 アリスはビリーと同じように書くことの素晴らしさに目覚めた。gう
 アリスはビリーの墓にエミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を供
える。

 解説者はこの小説は「クライム・スリラー」ではないかという。単
なる犯罪者の最後の仕事に終わらせず狙撃者にして小説世界に目覚め
るビリー、さらにはアリスという女性を助ける羽目になって、共に謎
の依頼人を突き止め二人でこれを懲らしめる。また悪人同士の百鬼夜
行ぶりも見せるなどスリリングでドラマチックな展開がみごとである。
またビリーの人物造形が見事である。真の悪人しか殺さない、女性に
は銃を向けたくない、小説家という仮の姿で隣人らとすぐになじみ、
とりわけ子供らと仲良くなりあそぶ。請負仕事の後自分がすぐ姿を消
すことで子供らが何と思うだろうと気遣う優しい心根はまさに善人の
ものである。

                    (以上この項終わり)

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