◇『ワイルドランド』<アメリカを分断する「怒り」の源流(原題:Wild land:
The Making of Americn's Fury>
著者:エヴァン・オズノス(Evan Osnos)
訳者:笠井亮平 2024.3 白水社 刊
分断状況が端的に現れた2024年大統領選挙。トランプ氏が圧勝した。
これからアメリカはどう変化しどこへ向かうのか。
アメリカのピュリツアー賞受賞ジャーナリストヴァン・オズノスが著わした
ノンフィクションの力作である。
著者はこネチカット州 グリニッジ、ウィスコンシン鷲クラークスパーグ、
イリノイ州シカゴ。かつて住んだことのある三か所に住む19人の人物に光を
当てて7年半かけて生活の変化に沿いながらインタビューを続けた。勿論経済、
社会の変化、人々の考え方の変化も膨大な情報を駆使し述詳されている。それ
ら情報源は巻末に丁寧に説明されている。
南北戦争から150年を経てアメリカは再び分裂国家と化した。その始まりは
2001年9月11日の同時多発テロ事件。そして終わりは2021年1月6日に起きた連
邦議会襲撃事件であると見る。行き先が分からないまま暴走したこの20年で、
私たちが見過ごしがちだった人生の航路がどう交差したのか明らかにしたい。
自分の良く知る場所で、見知った人達から話を聞いた記録である。
著者は「ニューヨークタイムズ」記者だった頃、第一次トランプ政権の選挙
陣営に密着取材取材をしている。あいまいで大げさな主張を繰り返すトランプ。
ヒラリーが代表するワシントンのエリート政府を打破しようとアピール。その
うち共和党員の多くが雪崩を打打つようにトランプ支持に回った異様さを記し
ている。
トランプ陣営が主張していた小さな政府を実現するために行った政府機関の
廃止は数カ月に及び、これによって多大の財政負担が齎された。
再選を目指したトランプの選挙戦は第一次大統領選挙時の目覚ましい地滑り
的勝利とは真逆の結果に終わりバイデンの勝利に終わった。
9.11同時多発テロ事件以降、銃の所持が単に憲法上の権利との主張にとどま
らずテロに対する防御手段としての有効性を主張する人が増えた。
選挙結果を覆そうといういう企てが急速に発展し、ついに2021.1.6、多くの
トランプ支持者及び団体が武器等を携えワシントンの連邦議会を襲撃し、警備
陣を打ち破り議事堂内に侵入した。トランプが否定した新型コロナの広がりは
まだ殷賑を極めていた。
議事堂で展開していた光景は。アメリカ政治の冷笑と不合理、欺瞞によって
大きくなった業火のようだった。(本書下巻323ページ)
議事堂への動員を呼び掛けたトランプは無罪。
アメリカの分断は深刻化したまま第二次トランプの世界に打ち進む。
(以上この項終わり)