◇『悪寒』
著者:伊岡 瞬 2019.8 集英社 刊 (集英社文庫)
山形の系列子会社営業所に飛ばされて、初めての営業仕事に悪戦苦闘して
いる男が現れて、東京に残した妻子の今を思っているシーンで、ありきたり
のサラリーマン小説かと思ったが、違った。
大手製薬会社の社内権力抗争に巻き込まれた藤井賢一。組織上専務派と目
されていたのに対立する常務から贈賄事件の実行者として責任を問われ、系
列会社の営業所に出向という形で左遷された。
田舎町での配置薬販売の営業仕事に嫌気がさしていた藤井は突然非日常の
世界に放り込まれる。
ある夜妻の倫子から脈絡のない不審なメールを受ける。心配になって練馬
区の自宅に帰るが、バスの中で倫子の妹優子から妻倫子が自宅で殺人を犯し
たという話を聞かされる。しかもその被害者が常務の南田隆司だという。一
体何が起こったのか。しかも常務がなぜ妻と一緒にいたのか。
警察の執拗な取り調べが続く。警察の疑念は賢一の殺人教唆である。山形
の営業所に飛ばしたが南田隆司だから。
ところが娘の香純が意外なことを口にする。
「母は南田隆司に妊娠させれれていた」
賢一にとっては測り知れないショックである。
妻が起こした殺人事件。しかも妻の不倫・妊娠・堕胎…。
裁判が始まった。そこから次々と意外な事実が明らかになる。
さて真相は。
これではサリーマン小説どころか完璧にサスペンスである。実際ありそう
な状況設定なので「中年男の鈍感さ」を含め結構リアリティがあって読者を
惹きつけてやまない筋書きである。
(以上この項終わり)
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伊岡瞬の「悪寒」のレビューをされていますので、コメントしたいと思います。
会社から左遷させられ、地方の都市で慣れない仕事に就く藤井賢一は、妻と娘の家族と別れて一人暮らし。
妻からは冷たくされ、娘からも疎まれている賢一は、ある日、妻の倫子から意味不明のメールを受け取ります。
何か特別な出来事が起きたと感じた賢一は、妻が住む東京に向かいますが、その途中、警察からの電話で、妻が殺人を犯したことを知らされます。
東京に着いた賢一は、妻の妹の優子と連絡を取り合いますが、妻が殺した相手は、自分が勤める会社の役員で、自分を左遷させた南田隆司だと知って驚愕するのだった。
妻と南田には接点は無いはずだったが、一体何が起こったのか?
この作品を読んでいると、自分が賢一になった気分になって読めてしまいます。
前半は、突然、殺人者の夫になってしまった自分や周りへの戸惑いが、とてもリアルに描かれているので、この作品の世界に没入してしまいます。
そして後半は、二転三転する物語に、必死についていく感じです。
南田隆司と言う男を殺したのは、妻の倫子だったのか、娘の香澄なのか、母の智代なのか、それとも義妹の優子なのか?
最初に描かれた裁判のシーンは、一体誰のものなのか?
そして「もらわれっ子症候群」の真相は?
とにかく、最初から最後まで行きつく暇もないくらい濃い話でした。
刑事の真壁も弁護士の白石も、実にいい味を出していますね。
この真壁刑事というのは、「痣」に出てきた刑事さんですよね。
今まで読んだ伊岡瞬の作品では、ベストだと思いますね。
「痣」はまだ読んでいません。今度読んでみます。