◇『悪い夏』
著者: 染井 為人 2017.9 KADOKAWA 刊
第37回横溝正史ミステリー大賞(優秀賞)受賞作。作者のデビュー作品である。
生活保護費の不正受給や育児ネグレクト、薬物売買、など現代社会のダークな
世界をドラマチックに描き出した傑作。映画・ドラマ化でヒット疑いなしの作品
と思うが…まだ?
毎度のことながらこの作家は多彩な登場人物と絶妙な筋運びで、軽快なテンポ
のためつい一気読みしてしまう。
中心人物といえば千葉県船岡市という仮想都市の社会福祉事務所の生真面目で
好人物の担当者(ケースワーカー)佐々木守と思うが、対極にいる同僚の悪徳担
当者高野洋司が相当なワルで、宮田有子も結構不可解な言動でストーリーを盛り
上げる。一方生活保護不正受給者では山田吉男が筆頭で、育児放棄・ネグレクト
母親の林野愛実も捉えどころがなく手に負えない。ほかにも矢野潔子や需給予備
軍の古川香澄などがいるが、それぞれ存在感がある。
金本は悪知恵が働く暴力団系のワルで、組ではご法度の薬物取引を初め、殺し
も厭わない。愛人の莉華の友人愛実を通じて生活保護という金になる世界を知っ
た金本は、山田吉男を助手に取り込んで、高野や佐々木を女がらみでたらし込み
ピンハネ対象の受給申請を認めさせようと脅迫する。やくざのお馴染みの手口で
あるが、根が善人の佐々木が苦も無く堕ちてヤク中になるところが痛ましい。
エピローグではあっけない結末話が語られてやや鼻白む。