◇『ラスト・チャイルド(下)』(原題:The Last Child)
著者:ジョン・ハート(John Hart)
訳者:東野 さやか 201.4 早川書房 刊 (ハヤカワ・ミステリー文庫)
上巻では第2の誘拐事件で誘拐されたティファニーが犯人のバートンを銃で撃って死亡
させ、ジョニーも重傷を負うというショッキングな出来事で驚いたが、後半でもショッキ
グな事態が続々という展開で驚く。
神との対話という異世界に生きるリーヴァイ・フリーマントルの存在は言動が不可解だ
がジョニーは彼が奴隷解放時代のインデアンの奴隷の末裔(ラストチャイルド)であるこ
とを知っている。彼は母親と娘が神の祝福を受けずに埋葬されたことを悔やんでいてた。
不思議とジョニーとは心が通じ合っている。
驚いたことにバートンの隣接地に女児の死体がいくつも見つかった。アリッサの死体は
なかったが、なんとアリッサの父親の死体が見つかった。
驚くべき展開は妻になじられて家を出て行ったと思われていたジョニーの父親は、娘を
捜し歩き真実を探し当てた段階で殺されていたという意外な事実が大量殺人犯の埋葬地で
明らかになる。
ジョニーの無二の親友ジャックはアリッサの捜索時からほぼ行動を共にしていたのであ
るが、事故に関わった悔恨についに耐え切れずジョニーにアリッサ誘拐の真相を告白する。
アリッサはずっと前に死んでいた。
ジャックはアリッサと一緒に勉強していたが、父親の迎えが遅れたので自分の自転車を
貸してやった。ジャックは兄に車で迎えを頼んでいたが兄は酒を飲んでいて、アリッサに
接近しすぎて転倒させ 轢き殺してしまった。ジャックの父親クロスはハントの部下である
が、プロ野球選手として将来がかかっている息子を庇いもみ消しを図り、金鉱山廃鉱の坑
道に死体を捨てていた。
ジョニーは妹のアリッサはまだ生きてどこかにいるという思いだけで必死に探し続けて
いたが、空しかった。それも妹の死に親友のジャックが関わっていたとは。
金鉱廃坑に鉄板の標識があった。フリーマントルが何度か口にしていた「No crowz」
(カラスがいない)
終段でジャックの兄が運転していたトラックにはハントの息子が助手席に乗っていた
のだとクロス刑事が告げる。ハント刑事は愕然とする。しかしハントは息子に自首を選
ばせた。
ジョニーはアリッサを探しているころ3つの願いを神に祈った。母が薬を止めますよ
うに、家族が戻ってきますように、ケン・ホロウェイがゆっくりと時間をかけて、悲惨
な死に方をしますように。恐怖に怯えながら死にますように。
ここではミステリアスでサスペンスフルなストーリーの中にいろんな家族の深刻な姿
が描かれているのが一つの特徴である。
ジョン・ハートは喝破する。「家庭崩壊は豊かな文学を生む土壌であり、この肥沃な
土壌は、秘密や犯罪という種を蒔いて緊迫感あふれる物語にまで育てる、うってつけの
場所だ」『川は静かに流れ』の謝辞より=池上冬樹の解説から。
(以上この項終わり)