読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

長野慶太『神隠し KAMIKAKUSHI』を読む

2013年03月25日 | 読書

◇ 日経小説大賞受賞『神隠し KAMIKAKUSHI』 著者: 長野 慶太 
                                     2013.2 日経新聞出版社 刊



       

  著者は1965年生まれ。2011年に『女子行員・滝野』で三田文学新人賞をとっている。仕事柄(コ
 ンサルタント)ビジネス書は多いらしいが小説は文学賞受賞2作目。米国在住で本書の舞台もロサ
 ンゼルスである。

  主人公グレッグはLAジャーナルという新聞社に勤める記者。かつては社会部記者として全米報道
 賞をとったこともあるが、飲酒癖と離婚騒動でDVの判定を受け、司法取引で罪を認めたため前科者
 になっている。親友の口添えで、いまにも廃部にされそうな文化部のリビング欄担当で辛うじて記者と
 して記事を書いている。

  そんな彼のところにLAX(ロサンゼルス国際空港)のセキュリティ担当から電話が。子どもが行方不
 明になっており、誘拐と思われるとだけで電話は切れる。
  時あだかもクリスマス前夜。文化部ながら人手がいないためグレッグは一人LAXへ。空港は嵐の到
 来で延着や欠航が多発し大混乱に陥っている。
  そんな中でセキュリティチェックポイントを出たところで8歳の男児が忽然と母親の前から消えた。母
 親ミッシェルがセキュリティの確認のために子ども(ケント)と引き離されて別室に連れて行かれた3分
 間の間に行方不明になったのだ。
  保安面で出入りが厳重にチェックされる空港で起きた「神隠し」のような失踪事件を、リビング欄で特
 集記事にしようと関係者から事情を聞き始める。

  グレッグにも別れた妻との間にジェーソンという息子がいる。しかし元妻が意地悪をしてほとんど会え
 ない。調べを進めながらしょっちゅうジェーソンが頭に浮かぶ。彼は唯一の部下、新人記者のクリスと共
 に母親、義理の祖父などから背景情報を探っていくうちに、ケントの祖父デーブの証言に不審な齟齬を
 見いだす。もしかして母親と祖父は共謀しているのではないか…。
  事実上密室状態にある空港からはケントの姿は発見されていない。誰か乗客と組んで連れだしたの
 ではないか。

  母親は空港の保安部門と政府を相手取って訴訟を起こす。これまでにこの種訴訟では5億から10億
 の賠償金支払い実績がある。もしかすると賠償金目当ての芝居なのかもしれない。

  この謎は吾輩は227pで見当がついたが、真相についてはここでは触れない。

  結局グレッグはLAジャーナルを自ら辞めた。記事を書かないまま。
  のっけから脱字があったり(3p、263p)、「人に厳しい代りに、自分にも厳しい」(187p)とか「簡便的」
 (127p)といった耳慣れない語法があったり、多少気になる部分があるにしてもテンポがよく、推理もの
 としても出来がよく楽しんだ。
  携帯電話をどこに置いたか分からなくなったときに、その携帯に他の電話からコールして在りかを探
 ることはよく見られるが…。こんな習慣をストーリーの重要な部分でさりげなく使うところも憎い。

  (ところでLAXの外航線ターミナルでANAやJALなどが発着する「トム・ブラッドリー」は実は「トーマス
   ・ブラッドリー」が正式名だと恥ずかしながら初めて知った。)

 (以上この項終わり)

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透明水彩で「金柑と山茶花」を描く

2013年03月14日 | 水彩画

◇2月の静物画「金柑と山茶花
  幹事のS氏宅の山茶花と金柑をモチーフにした静物画を描いた。
  山茶花は花瓶の都合もあって一輪だけ。椿系の常緑樹は葉が厚手の濃緑でハイライトも
 はっきりしているので特徴としてしっかりと描く。
  金柑はまだ熟し切っていなくて実に青い部分がある。葉は黄緑系でイエローオーカーを多く
 含む。
  左手の金柑の一枝は遠近を明確にするために淡く仕上げようと思ったがあまり成功してい
 ない。

  何となく単調なトーンの仕上がりでやや不満が残った作品。

      
        
        Clester F6  

        (以上この項終わり)

  

 

 

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大門 剛明の『父の一粒、太陽のギフト』

2013年03月07日 | 読書

◇ 『父のひと粒、太陽のギフト』 著者: 大門 剛明  2012.11幻冬舎 刊

  

  先ごろ大沢在昌の『Kの日々』を読んで和製ハードボイルドを満喫したが、家人がリクエスト
 して借りた本、大門 剛明の『父の一粒、太陽のギフト』が空いていたのでそのまま借りて2日
 で読み切った。
  大門 剛明の本はかつて『氷の秒針』、『共同正犯』を読んだ。本書は一見青春ものとも思い
 惑うが、減反政策や個別所得補償制度をはじめ農業政策の問題点を指摘し、今焦点となっ
 ているTTPの行方についても触れるなど、社会性も含んでいる。
  
  主人公は新潟大学は出たもののニート状態にある青年・小山大地。ひょんなことで新しい農
 法で成功しつつある農園で働くことに。農園の社長雄太は農薬・化学肥料を使わない農法を
 めぐって地域の農家と確執があって村八分にあっている。その社長が突然田んぼで死んだ。
 大地は誰かに殺されたのではないかと疑い、優太の息子優翔(ハルト)と不審な点を解明し
 ようと駆けまわる。
  ぐうたらニートだった大地が後半急に頭脳明晰な素人探偵になって事件の解明に当たると
 ころ、12歳の少年が急に18歳くらいの知性のヒラメキを見せたりするところが面白い。

  都会からの農業参入者の新しい試みと旧来の因習に慣れた農家の確執が生み出した悲劇
 であるが、意外な結末が待っている。
  懐かしい故郷の越後平野が舞台になっている。しかし、燕市の山間(やまあい)にある小さな
 村・・・といった個所(p51)では(?)燕市は蒲原平野の真ん中で山などどこにもないのだがと
 不審に思う。加茂市とか三条市なら条件にあっていたかも。

  謎解きが主たる狙いの作品と割り切らないとエンディングがやや唐突の感がすることは否め
 ない。  
  
(以上この項終わり)

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春の息吹「ふきのとう」と「梅の花」

2013年03月05日 | その他

春一番の後は
  この間(3/1)強い風が吹いて気象庁は「春一番」だといった(ほんとはその前にも強風が吹いており、
 私はそれこそが春いちばんだと思ったが)。
  その翌日もっと強い風が吹いて、東北や北海道では台風並みの吹雪で亡くなった人まで出た。
  北国(と言っても越後平野のへりだが)の生まれで、吹雪の怖さはある程度知っているので、ホワイト
 アウトに巻き込まれた人たちの狼狽と恐怖はいかばかりだったかと、気の毒でならない。遭難覚悟で
 雪山に出掛け、身動きが取れないから助けてくれと叫ぶ人たちとは事情が違うだろう。関東の強い風
 「これが春の本格到来の徴し」などと悠長なことを言っている場合ではないと思う。

  とはいうものの、千葉の北西部・下総にも確実に春は近づいており、その証である「梅の花」と「蕗の
 とう」が開いた。
  今年初めての蕗のとうは、魚沼の里に住まう舎弟が訪れた折に天ぷらと蕗味噌で初めて食した。文
 句なしに「春の香り」である。

         

  梅の花は西伊豆に行った時も、熱海も、大洗に行った折の通りすがりに見た偕楽園の梅も、未だしと
 いう感じだったが、この暖かさで見事に満開である。

     

  このころは道端には「ネモフィラ」に似た花「オオイヌフグリ」が咲き乱れている。
  小さく可憐な花で、春の野草としては上位ランクする花と思うが、ハート形の実が犬のふぐり(睾丸)に
 似ているので「オオイヌフグリ」と名付けられたという。
  植物学者もずいぶんと思いやりのない無粋なことをする。実に気の毒だ。 

   

   (以上この項終わり)

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