読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『黄昏に眠る秋』スウエーデンのミステリー作品

2011年10月31日 | 読書

◇ 『黄昏に眠る秋』 著者: ヨハン テオリン (JOHAN THEORIN)
                   訳者: 三角 和代  
                   2011.4 早川書房刊(ハヤカワミステリーブック)
 
   

  ヒースクリフが嵐に立ち騒ぐ英国の原野。スェーデンの霧の海に面した原野。風に立ちそよぐ
 ジェニパーの茂み。外国の本を読むとその地域固有の自然の風物が物語の舞台を引きたてる。
 実際見たことのない灌木や草花が目の前に浮かぶ。

  バルチック海に浮かぶエーランド島。スウェーデン本土から目と鼻の先だが、夏の別荘地にも
 なっている景勝の島。主人公のシングルマザーのユリアはここで5歳の一人息子を失った。誘拐
 されたのか、殺されたのか。懸命の捜索にもかかわらず杳として行方が分からない。
  それから20数年。ユリアは、あの日男に会いに街に出かけた自分と、仕事に出て長く留守にし
 た父親と、うたたねし続け孫の行方に気を使わなかった母親を非難し続けた。そして半ば精神を
 病む。

  ある日疎遠になっていた父親から「何者かからイェンス(失踪した少年)のサンダルが送られて
 きた」との便りが届き、これまで避けてきた生まれ故郷に向かう。
  かつて300を超す家族が住んでいた故郷は、いまや廃屋も多く、ほんの数人の老人がひっそり
 と生きているだけ。 
  老人ホームに入っている父親は、娘に非難されるまでもなく、自分が仕事にかまけて時間まで
 に家に帰らなかったために孫が誰かに拐かされたことに強く負い目を感じていて、友人と些細な
 手掛かりを見つけ自分たちの手で真相を調べている。
 
  大地主の母親に溺愛された粗暴な男の子ニルス、どこかからか資金を得て大海運会社にまで
 育てたマルティン、巧みに土地を買い増し住宅・観光地開発に乗り出したレストラン経営者グンナ
 ル、警官だった父親をニルスに殺された警官のレナルト。
  登場人物はそれぞれうさんくさく、誘拐や殺害の主役に見えてくるが…。
  リュウマチを患い、不自由な身体で調べ回る年老いた父親の執念が関係者を追いつめ、意外な
 展開に。娘のユリアも父親と駆けまわるうちに、次第に父親との確執も溶け出していく。
  そして読者にとっても思わぬ事実が明らかになる。

  北欧のスェエーデンの作品に接する機会はあまりないが、エーランド島という島の風物歴史景観
 などを通じて、バルト海沿岸の様子を垣間見た気分になれた。
  
  スェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞、英国推理作家協会最優勝新人賞受賞。
 エーランド島シリーズは春夏秋冬の四部作となる予定で、既に第2、第3作が発表されている。

  (以上この項終わり)



      

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堂場瞬一『異境』を読む

2011年10月26日 | 読書

『異境』 著者:堂場瞬一 2011.6 小学館刊

  

  何処の世界にもいる一匹狼。周囲の人と、とくに上司とそりが合わず、反抗的で独断的なのですぐどこかに飛ば
される。
 本書主人公の新聞記者甲斐明人がまさにそれ。優秀な記者で本社社会部で活躍していたが、社会部長にたて
つき横浜支局に左遷される。ところが初めて一緒に昼飯を食った後輩記者二階が突然失踪する。何やらスクープ
を狙っている口ぶりであったが・・・。
 さっぱり同僚の失踪調査に動かない支局幹部に業を煮やし、甲斐は独自に二階の身辺を探り始める。
 手始めに訪ねた県警の刑事課長も、知り合いの警務部長にもさっぱり真剣さがうかがえない。ただ一人、かつて
二階記者から密着取材を受けた若手女性刑事浅羽はなにくれとなく調査を支えてくれる。
 やがて県警生活安全部の管理官が自殺する。謎の男が現れ、二階の失踪に関する情報を伝えて「身辺に気を付
けて」と告げて消えたりする。
 「これ以上調べるな、警告だ」ある夜甲斐は何者かに襲われ大けがをする。 防犯カメラに映った犯人のピアスを
手掛かりに、ブラジル人グループに近づくがこれが巧妙な罠で…。

 横浜という国際港を根城に大掛かりな多国籍犯罪集団が高級盗難車の密売・解体、薬物の密輸などに暗躍、県
警の一部刑事、幹部が賄賂と引き換えにこのアジトを黙認、癒着を嗅ぎつけた二階記者はこの集団に消された。

 四十過ぎの新聞記者。本社には同期入社の気心の知れた女性もいる。しかし何処へ行っても一匹狼の秘密主義。
 気に食わないと上司でも平気で突っかかる。何んとかわかりあえる人は数えるほどしかいない。刑事でも記者でも
 目覚ましい成績は上げても組織の上にはいかない。こんな好漢も歳をとる。40代ならかっこいいが、いつまでもか
 っこつけてばかりいられないのだが。この先どうするのだろう。
  そういえば、ここに登場する女性刑事浅羽翔子は若くして刑事になっているところを見ると結構優秀なのだろうが、
 なぜか余り存在感がない。それは本業の刑事仕事が見えていなくて、甲斐に協力しているシーンしか出てこないか
 ら。若手なのだから何件か事件を抱えて相棒とペアで動き回らなければならないポジションのはずなのに、なぜか
 暇らしい。休みや宿直明けとかそんなにあるとも思えないが。やや不自然な感じが残った。

                                                           (以上この項終わり)

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深井律夫『連戦連敗』を読む

2011年10月15日 | 読書

◇ 『連戦連敗』 著者:深井 律夫  2010.11 角川書店刊
  娘が読んで「面白いから」と言われて妻が図書館にリクエストして借りたものを読んだ。
  本の帯に「経済小説界に新星が誕生!」とある。
  著者は1966年生まれの45歳。経済小説の先輩高杉良氏や幸田真音氏が絶賛して
 いるというのだから今後が大いに期待される。

  何よりも経済小説としては珍しく舞台が中国で、いろんなタイプの中国人が登場する
 ところが面白い。著者自身大阪外語大中国語学科を卒業後上海復旦大学に留学した
 「中国通」なので、中国人、中国社会、中国経済が生き生きと描かれている。小説は中
 国系銀塩フィルム会社をめぐるM&Aが話の主流であるが、著者が現に某銀行に勤務
 しているだけに、やけにこの世界に詳しい。それだけでなく、やたら漢詩や論語、朱子学
 の知識が披露され、歎異抄まで引き合いに出されたりするので、固い話の展開する中
 で余裕を持って楽しめる。
  また側聞していた中国ビジネスの実態が、フィクションとはいえ実例で明かされていく
 ので興味が尽きない。法より人、権力のある人がすべてを支配できる社会。政府と党幹
 部の腐敗と欺瞞、権力の私物化が横行する国。しかしその中国でも正義感が強い人は
 いるのが救い。立ち上げるプロジェクトが連戦連敗になっても、「中国と日本が協力すれ
 ば世界最強」との信念のもとでこうした中国の新しい世代が主人公江草と一緒に苦闘
 する。
 一読の価値あり。

 次作が楽しみ。

  

                                      (以上この項終わり)

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大門剛明『共同正犯』

2011年10月13日 | 読書

◇ 『共同正犯』 著者:大門剛明 2011.7角川書店刊

  刑法第60条 二人以上共同して犯罪を実行したものは、すべて正犯とする。
  これは、共同正犯という罪刑の形態に仮借し、連帯保証制度という民法上の契約がもたらす
 数多の悲劇に焦点を当て、世界的にも特異な制度の不条理性を糾弾した小説である。
  というと如何にも物々しいが、中身は至って人情ものっぽく、登場人物に善人が多い。法律上
 確かに犯罪であるが、みんな動機に同情できて、罪に問いたくない人たちがいて、最後はなん
 とかめでたしめでたしというところに落ち着くところがいい。
  サスペンスのジャンルに入れられているとは思うが、単純な推理物ではない、いい感じの小
 説である。

  とはいうものの、刑事が事件関係者に「わしは犯人は〇〇〇だと思っております」とか、捜査中
 の情報をいとも簡単に口にしていたり、犯人が捜査中の刑事の実の兄かもしれないという段階で
 も捜査陣から外されないなど、実際の警察組織では多分ないような形で話が進んでいくと、いささ
 か鼻白む。

  

                                              (以上この項終わり)

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コスモス(秋桜花)を描く

2011年10月09日 | 水彩画

野にあるコスモス
  先月のテーマは秋の花。代表的秋の花といえばコスモス。
  一口にコスモスといっても品種は多様で、お店で売っているコスモスと野にあるコスモス
 は違う。コスモス特有の、さしみのつまの海藻(おごのり?)のような葉が一般的だが、黄花
 コスモスのようにまったく異なる葉を持つものもある。

  今回は何人かの人がそれぞれ身近にあるコスモスを持ち寄ったので、いろんな色・種類
 のコスモスの寄せ集め。
  葉っぱを丁寧に描くとうるさいので、ひとまとめにした。
 正面の何輪かを中心にやや丁寧に描き、そのほかはあっさりと、あるいは薄めに色を置い
 て、多少メリハリを付けたつもりだが、余り成功していない。
  茎ももっと淡くした方が良かったかも。
  花が白やピンクが多いので、背景は濃い色で花を浮きあがらせたかったが・・・。

   
    CLESTER 6号

    (以上この項終わり)

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