◇ 北国街道・追分宿から高田宿へ向けて
江戸幕府道中奉行支配下の五街道(東海道・中山道・日光道中・甲州道中・奥州街道)を完全踏破
したのが2008年。その後水戸街道を2年かけて歩いたが、終点の水戸に到着したのが昨年の2月
のこと。健康維持のための散歩はともかく「歩き」はどこか目的があった方が歩き甲斐がある、という
相棒の言い分に同感して、懐かしい中山道・追分宿の分去れから新潟県高田宿までの北国街道を
歩いてみることを計画した。
北国街道には三つの顔がある。
一つは主として加賀藩の江戸参勤の道としての役割。この場合高田宿からは加賀街道が分岐する。
二つ目は佐渡で採られた金を運ぶ道。この場合佐渡から近い出雲崎までが北国街道とされる。
三つ目が庶民の信仰の道としての北国街道。信濃善光寺へ通ずる道で「善光寺道」とも呼ばれた。
この場合、中山道洗馬宿から善光寺に至る道を北国西街道と呼んだ。
また北国街道は塩の道とも言われる。通常塩の道といえば、いわゆる千国街道とも言われる越後の
糸魚川から信州大町を経て塩尻・中信方面に運ばれる塩の道を指すが、信州では日本海の塩は直
江津から北信へ、また倉賀野で陸揚げされた塩は中山道・北国街道で中信・佐久地方に運ばれた。
その意味では中山道・北国街道は塩の道とも呼ばれるのである。ただ江戸後期では瀬戸内海の塩
がコスト的に断然安く、輸送ルートも開発されて、ほぼ全国制覇を果たしたようである。
北国街道は中山道追分宿から分去れの地で分岐し、小諸宿、田中宿、海野宿、上田宿、坂木宿、
戸倉宿、矢代宿、丹波島宿、善光寺宿、新町宿、牟礼宿、柏原宿、野尻宿、関川宿、田切宿、関山宿、
二本木宿、新井宿、高田宿までの19宿である。なお矢代宿からのバイパスが松代道と呼ばれる。
松代経由の道は元々は本道であったが、善光寺道が本街道になってからは北国東脇街道となった。
松代宿、川田宿、福島宿、長沼宿、神代宿まで5宿がある。122町およそ146キロである。善光寺は
かつて5年を過ごした地であり、その周辺は詳しいので、今回は脇往還の松代道を選んだ。
◇追分宿から小諸宿まで
長野新幹線で軽井沢へ。そこで「しなの鉄道」に乗り換えて信濃追分駅に降り立ったのが9:38。
昔懐かしい駅舎は10年前と全く変わっていない。
本日の最高気温20度と異常に暖かい日の予報であったが、朝はさすがに空気は冷たく、12・3度
という感じであった。相棒は手袋を着用。
先ず目指すは中山道追分宿。別荘地を抜けて国道18号をまたいで街道みちに入る。
浅間山はうっすらと雪化粧。
10年前に中山道を歩いて時と随分印象が違う。道路があまりにきれいに舗装されていて驚いて地
元のおじいさんに聞いたら「去年に出来上がったばかりだよ」とのこと。
街づくりはいいが雰囲気がどうも旧街道らしさからどんどん遠ざかっていくようで寂いしい。
軽井沢が舞台の小説「風立ちぬ」の作者堀辰雄文学記念館の門は旧本陣の門を移設したもの。
かつて脇本陣でもあった旅籠「油屋」はいまではゲストハウス、アートギャラリーなど文化イベントの場
として活用されている。
宿場の高札場とまだ残る街道の屋並み。枡形の茶屋「つがるや」は分去れのシンボルとして有名。
追分宿の「分去れ」は、中山道と北国街道の分岐点で、左中山道、右北国街道の分去れの碑
(さらしなは右、みよし野は左にて 月と花とを追分の宿)がある。
街道の傍らに咲く桜(枝垂れ)はまだ見頃だった。
また桜と浅間山も見事に調和していた。
分去れの 碑も懐かしき 山桜
間瀬口の明治天皇小休所は塩野牧の入り口に当たる。
この辺りは高原キャベツやレタスの栽培が盛んである。
田起こしや 北国街道 細き道
上信越道長野線を越える。
ここからの浅間は角度が違うため黒斑山も幾分穏やかになる。
街道には大抵立派な火の見櫓がある。いまでは半鐘を鳴らすことはなく、むしろ有線で
地域連絡放送を主としているのかもしれない。しかし半鐘の鐘は象徴的に残されている。
はるか彼方に連なる山は北アルプス。春霞でおぼろだった。
唐松の一里塚跡。
小諸本町に入る。町屋はなべて立派な構えである。
有名な酢久(味噌)の店。屋根をかぶせた看板が有名。
関ヶ原の戦に駆けつける初陣の徳川秀忠。2万の大軍を率いながら僅か2千の
上田城の真田昌幸軍に惨敗し、足止めを食わされた。この折り徳川秀忠と真田
昌幸との休戦の仲立ちをしたのがここ「海応院」の住職であった。
この寺で発見された八重咲きの「コモロスミレ」はまだ咲いていなかった。
市内与良町に「高浜虚子記念館」がある。俳人虚子は戦時中ここに足掛け4年間
疎開し、句作を行った。
1682年(天和2年)創業の旅籠「つるや」は今は立派なホテル。「旅籠つるやホテル」
と言っている。
その並びには脇本陣と本陣が。この本町一帯は旧い街並みを保存再現している。
本陣の主屋は駅近くに移設した。
小諸城の大手門は四の門。小諸城のすぐ前に三の門がある。
小諸城址公園の桜はソメイヨシノは既に花が終わり、有名な「小諸八重紅枝垂れ」
は最後のあでやかさを誇っていた。
本日の歩行距離はほぼ15キロと軽かった。
今宵の宿は「小諸グランドキャッスルホテル」。小諸城址公園に隣接し、街道にも近い
上に食事(夕食飲み放題)、ホテルサービス(TW=24㎡)も十分で大いに満足した。
(以上この項終わり)
◇ ガラス瓶に挿したダリア
Clester F6
先週の写生は静物。春の花第二弾としてダリアを描いた。
ダリアが春の花を代表しているかといえば若干疑問ではあるが、真紅とクリーム色のダリア。
品種を調べたが花の姿に該当する名が見当たらなかった。
ダリアはバラと同じように花弁が多く、独特の並び方をしているので余り丁寧に描いていると
気が変になりそうになるが、さりとていい加減に描くと何の花か分からなくなるの。その辺の
呼吸が難しい。
クリーム色のダリアは少し盛りを過ぎて、散りかかっていた。花弁に紅色が刷いたように混じ
っていて、水彩画独特の”にじみ”の勉強にもってこいだった。
器のガラス瓶はクリスタルガラスのように複雑なカットが入って光が散乱していて、すこぶる
描きにくい。ガラスの硬質感を感じを出すだけで精いっぱいだった。
背景は花の色を取り込みながら変化をもたせたが、もう少しコントラストを効かせた方がよか
ったかもしれない。
(以上この項終わり)
◇ 『64ロクヨン』 著者:横山秀夫 2012.10文芸春秋 刊
「64」という題名は奇異な感じを受けたが、作中のD県で昭和64年に起きた幼児誘拐殺人事件を指す
同県警刑事警察の符蝶乃至略称である。部内では「ロクヨン」だけでこの未解決誘拐事件の特異性を一
発で表現できる。
主人公は根っからの刑事畑人間の三上義信。46歳の警視ではあるが、多分高校同級生でありかつ警
察学校同期の二渡(警務調査官)の差し金で刑事部人事から外され、不慣れな警務部広報官で不遇を
かこっている(実は刑事3年目に1年間広報勤務を経験している)。
自らの不遇を嘆きながらも3人の部下と共に広報の改革を試み、どうやら三上の真意が伝わってきたか
と思われた矢先、交通事故被害者の匿名発表をめぐり記者会との軋轢が激化し、県警本部長への抗議
文の手交、折しも告げられた不可解な警察庁長官視察には報道の取材拒否まで自体が悪化する。さらに
14年前の幼児誘拐殺人事件「64」の怪しげな幸田メモなるものが浮上、悪夢の未解決大事件が亡霊の
ごとく立ち戻ってくる。
そんな騒ぎの中、突然女子高生営利誘拐事件が発生する。しかもその細部までが14年前の幼児誘拐
殺人事件と酷似する不可解さ。
三上は広報室と記者クラブの騒ぎの中で、事件解決までの「報道協定」 約束取り付けに奔走する。
実は三上にはあゆみという娘がいる。高校入学ころに心を壊し登校拒否、引き籠りに陥り、家出をした
まま行方が分からない。妻の美那子はうつ状態にある。三上は家庭と職場のストレスからか時折めまい
を起こすメニエール病の症状を覚える。
県警内部の警務部と刑事部の確執、警察庁の覇権主義、本庁(警察庁)と県警の指導権(ポスト)争い、
警察組織とマスコミ、とりわけ新聞記者とのパワーゲーム、警察の組織的隠蔽体質、家庭・家族を思う心
と仕事への熱き思い、正義感と保身心理との揺らぎなどさまざまな糸が織りなす事案の展開は、重い内容
であるが、硬派の元刑事が、警務の犬などとそしられながらも、警察組織で世間に開かれた唯一の窓とも
言える「広報室」の事なかれ体質を変えて、世間との接点である記者会のメンバーとの信頼関係を醸成す
るために腐心する姿には、自分の意に沿わない仕事にふて腐れて投げやりになったり、簡単に辞めてしま
ったりする近年の一般的サラリーマンの風潮を思うと、一種の清々しさを覚える。
64の事件と新たに発生した営利誘拐事件は意外な展開と驚がく的な結末を迎える。
本書の帯には「究極の警察小説完成」とある。本書は中身の濃さからみても著者が満を持しての作品と
いってよいだろう。
作中「寸止め」という表現が出て来た。「半落ち」を思い出した。何となく警察という特殊世界の業界用語
らしく、納得した。
(以上この項終わり)
◇ ジャガイモの芽出る
3月10日に植え付けた種ジャガイモが土から顔を出した(4/5)。発芽までおよそ1ケ月。
次の作業は土寄せと追肥(来週あたりか)。発芽状態から見て芽欠きの必要はないだろう。
◇ 絹さやエンドウ
一昨年の種を蒔いたので発芽が状態があまり良くなかったがなんとか強風ももち堪えて白い
花を咲かせ早くも実を付け始めた。
◇ トマトなど植付けの準備
連休前にはトマトの作付をしなければならない。落花生やインゲンの畝を作った。
採り入れを終わったブロッコリーの枝を細かくして、畝の底に敷いて肥料の足しにする。苦土
石灰で土質を調整し、軽く肥料を施す。後は4月30日ころの植付けを待つのみ。
(以上この項終わり)
◇ 『欠落』 著者:今野 敏 2013.1 講談社 刊
警察小説でおなじみの今野敏。この『欠落』は初出が小説現代の連載(2011.10~2012.9)で
この度単行本となった。
主人公は宇田川亮太。多分30歳くらいの巡査部長。警視庁刑事部捜査第一課殺人犯捜査第五係
の一員である。最近同期の大石陽子が所轄から捜査第一課に配属になるというので心弾んでいる。
(というのもやはり同期の蘇我とよくつるんで遊んでいたが、内心憎からず思っているから)
捜査第一課とはいうものの、大石は特命調査対策室で一緒に働くわけではない。
ところが大石は配属早々に立てこもり事件に巻き込まれ、人質の身代わりとなって犯人に拉致され行
き方知れずになってしまった。折しも宇田川は多摩川べりで身元不明の絞殺事件が発生、行方不明の
大石のことが心配でならないが、捜査本部に詰めて被害者の身元割り出しに明け暮れる。
事件捜査の推移に伴って事件内容に不審感を強める宇田川は類似事件を当たるうちに、三鷹と沖縄
にやはり身元不明のまま捜査が膠着状態にある絞殺死体遺棄事件があることを知る。こんなに身元を
知る情報がほとんどないケースは珍しい。
そのうちにどうしたわけか警察庁公安部が事件捜査に関与し始め、指導権を握っていく様子が見えて
来た。どうやら立てこもり事件にも公安が裏で指導権を握ったらしい。
一体この事件は何なのだ。
気になる大石の行方は依然不明。まさか殺されたりしてはいないだろうが。
宇田川は上司の名波係長、ペアを組んだ所轄の佐倉刑事、公安にスリーパー(潜入捜査官)らしい蘇我
や元上司の植松刑事、土岐刑事らと二つの事件の真相解明に動く。
二つの事件捜査は公安の陽動作戦であり、刑事部はカモフラージュで振り回されているらしいことが分
かってきた。公安が真相を隠したい事情何か。
国際諜報機関としてはアメリカのCIA,NSA,イギリスのMI5、MI6,ロシアのSVR,KGB、イスラエルの
モサド、中国国家安全部などがスパイ小説などでよく知られているが、日本ではいわゆる国際諜報機関
は弱い。内閣調査室がそれに相当すると言われる。公安調査庁、警察庁警備局、警視庁公安部、外務
省国際情報統括官、防衛省情報本部、海上保安庁など縦割り組織が乱立し、統合的なインテリジェンス
活動は確立していないのが実態だ。
『欠落』とは何か。。何をもって欠落をいうのかどうも判然としないが、宇田川の刑事としての直感、事件
に対する感覚的な違和感が真相に迫る原動力になっているところからすれば、何かが欠けているという
直感をもってこの本の狙いといってよいかもしれない。
(以上この項終わり)