読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

春到来・ふきのとうが咲いた

2017年02月26日 | 水彩画

◇ 春を告げるふきのとう

 大体毎年今頃になると庭のふきのとうが顔を出す。
 そんな時期だなと注意してみていたら、この2・3日の暖かさもあってか、
 顔を出しました。
 やがて天ぷらか蕗みそになって酒の膳を飾ります。

  

    

    

    

       

                                 (以上この項終わり)



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塩田 武士『罪の声』

2017年02月21日 | 読書

◇ 『罪の声』 著者:塩田 武士
           2016.8+講談社 刊

  

  この作品は、三億円事件、下山事件などと並び世間を震撼させ未解決のままとなっている
「グリコ・森永事件」に着想を得て、圧倒的な取材と現場踏査を経て生まれた重厚な作品で
ある。一種の社会はエンターテイメントで、2016年第7回山田風太郎賞を受けた。
 
 大阪に本社がある大日新聞社で年末企画として「昭和・平成の未解決事件特集」をやるこ
とになった。文化部の記者阿久津は助っ人として駆り出された。そして英検準1級を見込ま
れて英国に取材派遣される。1983.1にオランダで起きたハイネケン社会長の誘拐事件を取
材し、1984年3月に起きた「ギン萬事件」との関連性を探ろうとするためだった。

 阿久津はさしたる成果も得られず帰国する。
 ここでは二本のストーリーが走る。1本は特集担当記者阿久津の事件関係場所と関係者の取
材、もう1本は事件当時子供であったが、最近発見した父の遺品で発見した黒い手帳とカセッ
トテープを聞いて、もしかして自分の家族が事件の犯人なのではないかと思い悩み、亡き父
の親友と独自に調べ歩く曽根俊也というテーラー(仕立て屋)の流れである。この2本の流れ
はやがて後半になって交差し、1本になる。

 小説なので「ギン萬事件」とされているが、グリコ森永事件はいくつもの会社を対象に恐喝
や嫌がらせがあって、物証もいくつか残されている。関係する犯人も複数であることもわかっ
ている。ただ動機や狙いは犯人を捉えなければわからない。すでに2000年2月公訴時効が成立
した。

 著者はこの戦後最大の未解決事件は「子供を巻き込んだ卑劣な事件である」という強い思い
から、グリコ・森永事件の発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、その後の事
件報道などは、極力事実通りに再現しながらも、犯人に利用された子供らに焦点を絞って物語
を進めている。
 あえて言えば、何度か犯人グループを逮捕するチャンスがあったにもかかわらず、「一網打
尽」を狙ったばかりに「キツネ目の男」に職務質問をさせず、取り逃がすなどいくつもの捜査
ミスを犯し、何百人もの捜査員が追っても追い詰められなかった犯人グループの一人を、文化
部出身の平凡な新聞記者が独特のカンで追い詰めていくという話は、現実味に乏しい気がしな
いわけはないが、エンターテイメント小説として考えればまあ許せるのかもしれない。

 ほぼ事件の事実を踏まえて物語を構成しているので、読む側としてはどこからどこまで事実
でどこがフィクションなのかで悩むことになる。作者としては大成功なのだろう。
 やくざとの癒着が故で免職になった元マル暴担当刑事生島が、知り合いの曽根にアイデアを
持ち掛けて、元過激派活動家の曽根がプランを練り、生島が犯行グループを人選した。犯人は
誘拐実行犯Aと脅迫状・挑戦状など揺さぶりグループBと2グループがあり、当初リスクの高い
金の受け渡しは止めにして、株価操作で金を儲ける。それよりも企業の恐喝と警察を揶揄する
ところに主眼を置くというアイデアであったが、一部メンバーが金に目がくらみ始めたことで
破たんが生じたというところは現実味がある。

 阿久津は2度目の訪英をし、事件のプランを練った曽根を探り当て、犯行の動機など取材す
る。だが曽根から聞けたのは警察への恨みと大企業への反感のみ。Bグループの主犯生島はA
グループの主犯青木に殺された。生島の娘望も殺され、妻千代子と息子総一郎は秘密保持の
ために青木の会社で飼い殺し。逃げ出した総一郎は母親千代子と離れ離れになって、塗炭の
苦しみを生きてきた。
 そんな彼らの今を知り、犯行グループを許せない阿久津は曽根俊也と総一郎を探し出し母
親との再会を実現する。せめてもの救いである。

 新聞社の年末企画は成功した。警察の目を剥く根気強い取材の成果に他の新聞社も世間も
驚くほどの反響をもたらした。
                                (以上この項終わり)

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『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』

2017年02月18日 | 読書


◇『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常
     
                       著者:二宮 敦人 2016.9 新潮社 刊


  

 異色のルポルタージュ。取材に2年かかっている。それにしても丹念に取材している。
 若干のぞき見的興味から読んでみたがなかなか面白い。一般人にはなかなか想像できない
世界を覗いてみたい欲求は俗人の習い。東京藝大もその一つだ。なぜかと言えば、音大、
美大など数々あれど、天下の藝大は東京藝大しかない。日本の一流の芸術家インキュベータ
ー。言ってみれば美術、音楽の天才とその一歩手前くらいの人しか入れない大学でどんな人
がどんな勉強をしているのか、知りたい。知ってどうすると言われても困るのだが。

 作者は作家であるが、妻が現役の藝大生。妻の通う藝大に興味を持って、手づるを使って
各専攻科の学生に密着し、入学の動機やその学生生活ぶりなどをインタビューしている。訊
いている方はともかく、答えがふるっていて「さすが天才!」と思わせる浮世離れぶりが多
い。

 東京藝大の前身は官立専門学校の東京美術学校と東京音楽学校で、戦後昭和24年(1949)
に統合され東京芸術大学となった。キャンパスは上野のほか横浜、北千住、取手などにある。
 学生は全体で2千人。1学年500人弱である。定員が10人から30人くらいが多く、例えば音
校の指揮科は1学年の定員はたったの2名。器楽科でも各楽器ごとにせいぜい2.3人。なんと狭
き門をくぐってきているのか(ちなみに入試競争率は東大の3倍、トップは絵画科の17.9倍)。

 音楽学部(音校)と美術学部(美校)でカラーがまるで違う。美校は荒っぽくて奇人・変人
が多い。卒業したらどうやって生活していくかなどほとんどの学生は考えていないらしい。
例えば「私には彫刻しかない!」と思ったら先のことなど考えられないのだろう。
 まともに就職する人はデザイン科・建築科・楽理科・芸術学科くらい。あとは大学院進学か
行方不明。ひどい学生は東京藝大を評して「ダメ人間創造大学」などと言う。

 ずいぶん自由な学校で、絵画科油絵専攻では3・4年生は油絵を描かなく好きなことをやっ
てよい。とりわけ最近できた先端芸術表現科、音楽環境創造科などは字面からも想像できる
ように「なんでもあり」なんでも実際取り組んでみることに意義があるというおおらかさ。
そこから新たな芸術の世界が開かれればよいということらしい。

 とにかく「何年かに一人天才が出ればよい。その他はその天才の礎である」という世界だ
から奇人・変人が多くても驚くに当たらない。
 それにしても藝大を目指す子女を持つ親は、よほどの覚悟を持たないと天才又はその礎を
支えることはできないだろう。

                              (以上この項終わり)

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ジェニー・サイラーの『ハード・アイス』

2017年02月16日 | 読書

◇『ハード・アイス』(原題:ICED)
                                   著者: ジェニー・サイラー(Jenny Siler)
                                   訳者: 安藤 由紀子

      

      女性のハードボイルド作家は珍しい。
               ジェニー・サイラーの主人公メグは車の代金を払えなくなった
客から車を回収する回収屋。
     若いころにケチな犯罪で刑務所に入ったこともある。本人も作中白状し
ているが、「実をいうと
     私は心底疑り深い。これまで人間の本性の汚い面を見すぎたせいで、正義とか
フェア・プレイ
     なんてほとんど信じていない。」

      サラ・バレッキーの女探偵V・I・ウォショースキーのように格闘技に優れてるわけでもないし、
       決断力
に富んであるわけでもないが、終わってみれば何とか結果オーライといったところが面
       白い。
       こんなと
ころを巻末の解説者柴田よしき氏が「極度のファザコン、恋愛下手、自制心が弱く、
       依頼心が強い。
判断は稚拙で行動は時に短絡的、その上人を信じることのも不器用」と断じ
       
ている。

      処女作は「イージー・ライダー」であるが、柴田氏は作者の早熟性を指摘する。ジェニー・サイ
      ラー
自身いろんな職業を経験しているが、作者が豊富な経験があれば主人公の魅力が出るもの
      でもない。
彼女の魅力は「ずっと考え続け、想像し続けた」ところから生まれているとする。作者の
      早熟さと主人公
の未成熟さが本書の特異な魅力であるというのだ。

      舞台はアメリカ北部のモンタナ州ミズーラ。恥ずかしながら私はモンタナとか、アイダホなどは
      温暖
な中西部だとばかり思いこんでいたが、カナダに接する極寒の地なのだ。モンタナの過酷な
      冬、豊かに描き出された
アメリカ北部の、大自然の朝な夕なを脳裏に浮かべながら物語の展開を
      楽しむという
二重の喜びが得られた。

      物語りの筋書き。売掛金を払わないクレイトン・ベネットのところにジープ・チェロキーを回収に
      行ったメグは殺人事件に遭遇。被害者はベネット。あわててチェロキーを回収し逃げるように現
      場を去る。
       ところが車の中に1個のブリーフ・ケースがあった。
       中身もわからないブリーフ・ケースを狙うロシア人の怖い男たちが現れる。お次はドラゴン・タト
      ゥーの怖い女が現れて「ケースのなかにあった地図を出しな」とナイフで首筋を狙う。

        実はベネットは退役した空軍航士で、観光客相手の観光
飛行やスポットの貨物輸送など
      もや っていたが、ある日暴雪の中飛行機が遭難。空軍が捜索するも見つからず捜索は中
      止された。その後春を迎えた2か月後ベネットが現れた。山火事監視小屋に避難し雪解け
      後歩いて帰還したという過去を持つ。
               その後メグの調べの中で、ベネットは何度も遭難地点を求め捜索飛行を繰り返してことが
      判明する。どうやら請け負った荷物の中に金目のものがあり。その回収を図っていたらしい。

               ケースの中の地図は遭難飛行機の在処を記していた。どうやら遭難地点は湖の上で、雪
      解けとともに湖底に沈んでしまったらしい。
      麻薬と武器を扱うロシア人の密輸グループのために何人も死んだ。もちろんドラゴンタトゥ
      ーの女も。

       最終章では女性作者らしく、穏やかな家族愛の姿にあこがれを持っていたメグの心優しい
       ところを示し物語を終わらせる。

        いろいろ問題はあっても憎めない車回収業者メグの活躍をまた見たいと思っていたが、そ
       の後ジェミー・サイラーの後続作品にも邦訳作品にもお目にかかっていない。

     

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ロバート・クレスの『容疑者』

2017年02月11日 | 読書

◇ 『容疑者』(原題=SUSPECT)
      著者: ロバート・クレイス(Robert Crais)
      訳者: 高橋 恭美子   2014.9 東京創元社 刊

 

  犬好きにとっては、おそらくたまらない本である。(たぶん泣く)
 これまで小説ではあまりお目にかからなかった警察犬とそのハンドラー(指導手)の絆、心
 の交流がヴィヴィッドに描かれ、犬好きならずとも思わず引き込まれる。

  主人公はアメリカ・ロス市警警察犬隊の巡査スコット・ジェイムズと警察犬マギー(ジャ
 ーマンシェパード:雌)。
 スコットは相棒のステファニー(女性)と市内巡羅中に銃撃事件に遭遇し瀕死の重傷を負う。
 ステファニーは結局亡くなってしまう。相棒を失ったスコットは「置いていかないでスコッ
  ト、行かないで…」と叫んだステファニーの最期の言葉が忘れられず、ステファニーを殺した
 5人の男らの悪夢を含むPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩んでいる。

   一方マギーは軍用犬としてアフガニスタンの戦線で爆発物探知チームの一員として勤務し
 ていた。ハンドラーのピートと作戦の先頭に立った或る日ピートは狙撃手の銃撃を受け負傷
 する。仲間を守護し奉仕するという一体感が身にしみついたマギーは、身を楯にピートを守
 ろうとしたが銃撃は続き、マギーも傷つきピートは死んだ。マギーは喪失感で虚ろな状態で
 警察犬隊に異動されリハビリ中である。

  そんな中、ステファニーを撃った男たちに復讐を誓うスコットは傷害休職を断り、警察犬
 隊への配属を志願する。そこで組み合わされたマギーはなかなか心を開かなかったが、やが
 て二人(一人と一匹)は、かけがえのない信頼感を築き、無二のパートナーとなる。

  銃撃事件がその前に起こったダイアモンド強奪事件と係わりがあることをつかんだスコット
 は苦労の末に目撃者を発掘するが、その目撃者は何者かに殺されてしまう。もしかして警官の
 中に犯人がいるのではないか。

  事件は後半で急展開し、スコットとマギーは銃撃戦で死の危機に遭遇するのであるが、ス
 コットは死を免れ、マギーも右耳の一時的な聴覚障害が残ったものの再びスコットとペアー
 で仕事ができるようになった。

  犬の嗅覚は人の何百倍の精度でかぎ分ける。人の吐く息や汗、体臭、言葉の調子から怒
 りや喜びの感情を嗅ぎ分けることができる。心が通じ合いさえすれば命を賭してパートナー
 を喜ばせ、身を守り、命令に従う。そんなマギーの心情をこの小説の中では「マギー」とい
 う章を設けマギー自身のスコットに対する気持ちを語らせている。まるで恋人に対するよう
 な切ない想いを。

  筋書き自体は単純であるが、警察犬とハンドラ―の絆と助け合いの数々が圧倒的な勢い
 で押し寄せてきて羨ましい気持ちにさせる。このすがすがしい読後感はたぶん翻訳も素晴
 らしいからだろう。

                                 (以上この項終わり)
  

   

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