◇『要人警護』 著者: 渡辺 容子
20014.4 講談社 刊 (講談社文庫)
ボディーガード八木薔子シリーズ。
アメリカあたりでは「トップシークレット」とか言って、大統領など政府要人の護衛が
有名であるが、民間人の身柄警護も結構需要があるようだ。
主人公の八木薔子はスルガ警備保障という会社で身辺警護部門チームで警備指令を務め
る。かつて米国の警護専門会社で訓練を積んで仕事をしてきたその道のプロである。作中
ふんだんに要人警護のテクニックが披露される。日本では一般的にはまだ縁遠い世界とは
いえ、オリンピック開催を控える中これから需要が増えることは必定であろう。
今回八木薔子の「マル対(警護対象者)」は日比野真姫。走る妖精と異名をとる女子マ
ラソンのスター選手である。ここ数年不調が続き、トクニヘルシンキ国際マラソンで途中
給水に失敗し転倒、棄権したためにファンの不評を買った。メインスポンサーのムゲンド
ー(ゲーム機器メーカー)では空港での不測の事態に備えて身辺警護を依頼してきた。
この小説のもう一人のヒロイン日比野真姫を取り巻く人々、元プロレスラーの父親パン
サー日比野、その元妻加茂ゆりえ、陸上部マラソンの監督水上、コーチの和田、のちに殺
される恋人の八神豊、ストーカー男の上条、ヒーリングカウンセラー錦織、爆破脅迫文に
加え爆発物や遺体頭部を送り付けるという過激な脅迫を繰り返す集団、日比野真姫のライ
バル谷津恵子、これを支援する某団体の「代表」醍醐八郎等々多くの人物が交錯し事件が
複雑化していく。そうした事件の渦中にとらわれながらもボディガードのモットーである
「常にマル対の安全を第一に」動く八木薔子の姿が輝く。
常に二面性を持つ人間の、裏と表の姿を鮮やかにとらえて物語展開を進めていく作者の
次の作品に期待したい。
◇『海泡』 著者: 樋口 有介
2004.2 中央公論新社 刊
物語の舞台は小笠原島…東京湾からほぼ1000キロ、フェリーボートで片道26時間。
飛行場はない。
自然風物の描写もなかなかに詳細、臨場感があって、作者はおそらく小笠原に長く
住んだことがあるに違いないと思いきや、「1週間」だとご本人が「あとがき」で白
状している。
(いきなり余談であるが、巻末の作者あとがきで彼のそもそも作家になるまでの一
部始終が語られて、自分を捨て東大出の医者と結婚した元彼女に「でもまさか、
あなたがこんなに上手になるとは、思わなかった」と告げられたことまで明かし
ている)
ぼく(木村洋介)は大学2年の夏休みを小笠原で過ごす。その1か月足らずの短い
夏休みの出来事は何ともすさまじい。秀才だった友人(藤井智之)の頭がおかしく
なっていたり、中学時代の同級生(一宮和希)が自殺したり、田舎ギャルのその妹
(夏希)、和希に付きまとう男(真崎)が殺されたり、絵描きの父親のモデル(雪江)
と寝たり(1回だけ)、中学時代のマドンナで,大好きだった丸山翔子は白血病で死
を迎えたりとひと夏にいろんなことが起きる。
本土からの観光客だけが頼りの小笠原の経済。漁師や美容院や居酒屋や民宿で働
く同級生と、東京から何となく流れ着いた女性たちが織り成す悲喜こもごものあれ
これが、ちょっとカッコよくて、ちょっと悪めいた洋介のセリフ回しが小気味よく
て楽しい。
(以上この項終わり)
◇ ゴーヤと玉蜀黍
先週の教室では初夏の野菜を描いた。
ゴーヤと玉蜀黍はわかるが、カリフラワーやエリンギ、パプリカ、サニーレタスなど
は夏だけのものではないかもしれない。
それはともかく各野菜の新鮮さとそれぞれの自己主張を素直にとらえて紙の上に再現
したい。
ただ姿・形を忠実に再現するだけでは面白くない。例えばゴーヤのいぼいぼなど、そ
の野菜が持つ特徴を強調してあげる。
clester F6
(以上この項終わり)
◇ 『R.P.G(Rool Playing Game)』 著者:宮部 みゆき
2001.8 集英社 刊
インターネットコミュニティの問題点は次第に明らかになってきていますが、すでに
15年も前に問題点の一つを小説として想を練ってものした 宮部みゆきさんはさすがです。
それにしても彼女にしてはちょっと変わった作品ではないでしょうか。
題名のR.P.GとはRool Playing Gameのことです。ネット上で知り合った他人同士が、
「疑似家族」を構成し互いの役割を楽しむ。自分の家族関係で満たされない、立ち位置に
不満がある、願望ベースの家族関係をそこで実現したい、そんな背景を持った他人同士が
第二の家族を形成する。それ自体は他愛のないゲームであるものの、それぞれの思惑の違
いが交錯し次第にぎくしゃくし始める。
そして「お父さん」が殺される。夫の浮気性を黙認している妻、実の娘がいながらネッ
ト上の娘に真剣そうに向き合っている父親に不信感を抱く娘、元浮気相手、疑似家族の面
々など一体犯人は誰だろう。
そこで犯人割り出しに警察がとった意外な手法。
登場人物のキャラクターや関係性の設定が細やかで、後半の犯人捜しに微妙にかかわっ
ていてさすがだなと感心するし、作者の前作『模倣犯』、『クロスファイア』に登場した
刑事が顔を出したりする面白さもあります。
(以上この項終わり)
◇ 群馬・万座温泉の旅
しばらく身体にしんどい毎日が続いたので、お疲れ休みが必要と自己診断をしてかねて
行きたかった万座温泉を訪れた。
ずーっと昔の山歩き、スキーバスの旅、温泉旅行と何度か訪れたことがある万座温泉。
このところ14年ほど遠ざかっていた。そこで温泉宿としては最高地点にある「日進館」に
予約を入れて2泊の旅。
この宿の自慢は湯畑に近い高台にある露天風呂「極楽湯」。海抜1,800mのさわやかな
風と白濁の湯に身を委ねて、天を仰げば、今日が梅雨明けと入道雲の片割れが天を遊弋す
る。人工の音はなく、ただうぐいすの啼き競う声のみ。これを極楽といわずして何と言お
うか。
日進館の全容
湯畑
居室から展望台を望む
右手には万座スキー場
薬師堂
万座川(ph2で魚住まず)
万座川下流
熊四郎洞窟の上に見事な松が
展望台への道
湯畑
万座川の下流 右手に万座プリンスホテル
牛池
静寂な まるで東山魁夷の世界
小さな湿原の木道
すでに盛りを過ぎたニッコウキスゲ
(以上この項終わり)