◇ 『不正侵入』 著者:笹本 稜平 2006.11 光文社
警視庁組織犯罪対策部第四課に「ハイテク組織犯罪特別捜査室」が設けられた。第四課
の係長秋川は管理官としてハイテク犯罪に取り組むことになる。部下は3人。ネットカジノ
に進出した暴力団の動きに食らいついた秋川らは、企業内秘密を種に脅迫に動く奇妙な
動きに気付く。どうやらそこには東京地検特捜部の副部長が噛んでいるらしい。
室員の一人清崎はUCLAを卒業後米国FBIの委託で政府機関のシステム監査に従事した
というつわもの。バハマの銀行にハッキングし企業脅迫秘密情報のデータバンクを探り出す。
企業恐喝の餌食となった友人の妻やその友人の息子(ハッカー)などが複雑に絡み合うが、
暴力団と東京地検特捜部の手兵と戦いながらついに政界に及ぶ悪の連鎖を暴く。
「疑似記憶」が事件展開の重要なキーポイントになっているところが面白い。
◇ 『ママ、死体を発見す(MOTHER FIND A BODY)』
著者: クレイグ・リコ(Craig Rice)
訳者: 水野 恵
2006.4 論創社
著者はアメリカ女流作家を代表する存在。1941年の作品。今はNYブロードウェイ
の人気女優だが元ストリッパーのジプシー・ローズが、船内結婚を果たしたものの、ど
うしたわけか新婚旅行のトレーラーには母はもとより、元同僚の花嫁、花婿の友人まで
が乗り込みとんでもない新婚旅行に。かてて加えてなんとトレーラーには次々と死体が
発見され地元の保安官の追及を受けるのだが…。舞台はメキシコとの国境イスレタ。
ローズの母親や取り巻きの男女が繰り広げるドタバタが奇妙な面白さを醸し出す。
◇ 『すれ違う背中を』 著者: 乃南 アサ 2010.4 新潮社
『自分のつま先ばかりを見下ろしながら、ゆるいS字形に曲がっている急な坂道を下り
て、ふと顔を上げると、・・・』
女性らしい表現だ。乃南アサはサスペンス調の作品が優れている。この作品は二人
の歳を足すと70を超えるという二人の元受刑者が主人公。なんとか過去を隠して娑婆
を生き延びようと苦労している。どんな展開になるのか楽しみに読み進んだ。
DVの夫を殺した女と、ホストに貢ぐ金を作るのに業務上横領した女二人の苦労話が
続いて、気が付くと本の3分の2くらいまで進んだ。なんだこりゃと思っているところ、やっ
とサスペンスっぽい状況が出て来たが、結局親しくなりかかった女性がDVの被害を受
けているらしいと気付き、早く抜け出させようと心を砕いているうちに、くだんの女性が
美人局で逮捕されたの報道に接し、「私たちはちゃんと懲りる性格でよかったね」など
と言ってこたつでカレーを食べるシーンで終わり拍子抜けした。
『yom yom』という雑誌に発表されて、加筆訂正の上単行本化されたと知って納得し
た。
(以上この項終わり)