読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

堂場 俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

2023年07月26日 | 読書

◇ 『敗者の嘘(アナザーフェイス2)

   著者:堂場 俊一      2011.3 文芸春秋社 刊(文春文庫)




 子持ちでバツイチの刑事、巡査部長大友鉄33歳。バツイチとは言うが10年前に
妻奈緒を交通事故で亡くし10歳の息子優斗と暮らしている。奈緒の母聖子に育児
の一部を依存しいる。聖子はしきりと再婚を勧めてくる。
 今は捜査一課の刑事から外れ、定時で帰れる刑事部刑事総務課で研修などの事
務中心の部署についているが、刑事部特別指導官の福原から時折特捜の応援を指
示される。  

 神田神保町で強盗殺人事件が発生。容疑者渋谷が重要参考人で取り調べ中であ
ったが、自殺。ところが自分が犯人だという女性弁護士(柴崎優)が出頭し特捜
本部は混迷に陥る。柴崎は訊問においても状況説明、証拠物件などに不可解な点
が多くその意図がつかめない


 例によって大友は福原指導官から特捜の遊軍として捜査参加を指示される。大
友の手にかかると不思議となんでもしゃべってしまうという特異な才能が重宝さ
れるのだが、現場では煙たがられることもある。

 今回も同期刑事の芝、高畑などの助けを借りながら柴崎弁護士の周辺捜査など
を進めていくうちに背後の黒い人物の存在、捜査陣幹部の不可解な動きなどが次
第に浮かび上がって来る。 柴崎弁護士の拉致騒動があったり新聞記者が噛んで
きたりし、事態はドラマチックな展開を見せる。
 結局警察組織の体面優先が生み出した悪質なでっちあげ事件処理の全貌が明ら
かにされるわけであるが、組織上上司にあたる管理官に悪事を問い詰める大友の
覚悟の懊悩が生々しい。

                         (以上この項終わり)

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重光 葵の『外交回想録』を読む

2023年07月23日 | 読書

◇『外交回想録

   著者:重光 葵    2011.7 中央公論新社 刊

   

  この本は巻末に「『重光葵 外交回想録』<1978年8月毎日新聞社刊
 を底本とし、改題しました。」とあります。戦後間もない1953.9出版の
『重光葵 外交回想録』毎日新聞社刊とは目次に若干の違いがあります。
 内容がどう違うのか分かりません。

    重光氏の著書は『昭和の動乱(上/下)』(中公文庫)、『巣鴨日記
(正・続)』など知られていますが、本書は現場にいた人のドキュメント
でありリアリティに富み、迫力があります。満州事変当時、がむしゃらな
軍部と南京政府との間に立って、事態不拡大に奔走する姿が生々しく、真
に日本国の将来を見据えた信念に感動しました。また「絶対に欧州の争い
に巻き込まれては日本の為にならない」という彼の強い意見報告にもかか
わらず、日独伊三国軍事同盟を結び、強大な米英を敵に回すという愚に走
った松岡外相など日本政府の選択を悔やむしかありません。
   「今日我において対外政策等の進路を誤れば長く取り返しがつかなくな
るから」と電報で帰朝の上報告したいと宇垣外相に訴えたが日独伊三国同
盟に傾斜していた勢力の人事強行で英国大使に追いやられたのでした。  

 日本の外交官にして政治家でもあった重光葵については、日華事変で右
足を失ったこと(実は朝鮮人による襲撃)、米軍の戦艦「ミズリー」上で
日本の降伏文書に署名した人物としての記憶しかありませんでした。
 本書は外交官補としてドイツに赴任し第一次世界大戦勃発に遭遇、松岡
外相と意見が合わず英国大使館を去ることにする(最終章「我が使命つ
いに失敗」彼の前半生30年の回想録です。
 天長節の祝賀会で爆弾を投げかけられ、身体中に弾創を浴び、右足を失
い生死を彷徨う重傷負った次第は「血塗られた祝賀会」(「隻脚記」より
抜粋)に詳しく記されています。

 降伏文書署名にあたり、「これは不名誉の終着点ではなく、再生の出発
点である」とおっしゃったのは初めて知りました。日本男子の不屈の覚悟
の表明だと思います。
 
  また本書を読むと外交官としての彼の業績だけでなく、外交の状況を処理
するにあたって彼の対応を支える思想的文明論的世界観及び家族(両親と
兄、妹、妻子)への限りない愛情(とりわけ母への思慕の念)が問わず語り
に伝わってきます。                
                      (以上この項終わり)

 


 


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令和5年のトマト栽培=6=

2023年07月14日 | 畑の作物

◇ 既に収穫ピークを迎えたか

 我が家の狭いキッチンガーデンで取り組んでいる「トマト栽培」事業は
以下の状況からみて敗北宣言をし、撤収段階に入らざるを得ないよう
です

 今のところ毎日2・3個採っていますが、もうピークではないかという気
がします。

(1)第5果以上が結実しない木が多い。
(2)すでに下部の葉が枯れ始めている木がある。

(3)結果した実もなかなか大きくならない。

  ただ今年投入した土壌改良剤は効を発揮したらしく、うどん粉病は回
避できたようです。

 追肥時期と分量は注意深く実行しないといけないと反省しています。








                        (以上この項終わり)

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赤城 毅の『氷海のウラヌス』

2023年07月11日 | 読書

◇『氷海のウラヌス

 著者:赤城 毅    2005.7 祥伝社 刊 (祥伝社文庫)

   

 太平洋戦争開戦前後を視野に旧日本海軍の一作戦を想定、北極海を舞台にした冒険
サスペンス。

    日本単独でアメリカと戦っても勝利はおぼつかない。何としてもドイツを引きずり
込む必要がある。昭和15年(1940)に日独伊三国軍事同盟を結んではいるがこれは日
米開戦時にドイツが直ちに参戦義務を負うものではない。何か決定的な代償を提供し
ヒットラーを同時宣戦布告に同意させなければならない。

 海軍省きっての対米強硬派、軍務局の石川課長と海軍省軍令部永見大佐は「暁計画」
なる秘密作戦を練った。骨子は日本が誇る最新鋭の酸素魚雷製作技術をドイツに提供
し、米英の戦艦に大打撃を与えるという交換条件。日本は高速48ノット、射程40キ
ロ、ほとんど雷跡を残さないという世界に誇る魚雷「九三式魚雷」を成功させていた。
これをドイツのUボートに搭載すれば大西洋初め各地の米英艦船、商船は壊滅的打撃
を受ける。

 日独の極秘作戦が動き出す。ドイツが商船を装いながらも砲4門、魚雷なども備え
た砕氷船を改装した仮装巡洋艦「ウラヌス」(ギリシャ神話の天空神)には豪胆なド
イツ海軍ローベル・ハイケン海軍大佐を艦長とする精鋭が乗り込み、日本側からは特
使として対米慎重派ながらドイツ通の堀場大佐、魚雷専門の望月を同乗させ、高機能
魚雷「九三式魚雷」を積み込んで厳寒の北極海を経てドイツ勢力下のノルウエーの港
までの航路についた。

 まだ宣戦布告ないながらもロシア艦船はもとより、米国、英国艦船が自国商船航行
保護を名目に臨検を狙う。ウラヌスは次第に厚みを増す氷を砕きながら粛々と商船を
装いながら北極海を進む。
 やがてロシア潜水艦の魚雷攻撃に遭遇、砲撃を受ける。さらにノルウェーに近づく
につれ英国重巡洋艦、駆逐艦らの船団攻撃に遭う。
 堀場、望月らは「ウラヌス」乗船の一員としての英国艦船の攻撃に対し虎の子九三
式魚雷を使うか、特命の任務九三魚雷のドイツへの引き渡しという特命任務完遂のい
ずれをとるかのジレンマにとらわれる。

 英国艦船からの8インチ砲8門からの猛攻を受け沈没寸前状態のウラヌス。堀場大佐
は望月大尉に魚雷の扱いを問われる。大佐はドイツ兵士とともに戦うのが軍人の務め、
英国艦船の砲撃阻止に特務として守って来た「九三式魚雷」を使うと答える。望月大
尉は万が一任務遂行を妨げるものがあった場合は撃てと永見大佐から渡されていた拳
銃を堀場大佐に擬したが大佐は答える。「ウラノスの兵士は己の持ち場を守って戦っ
ている。だから俺も自分の持ち場を守ろうと思う」これは海軍刑法上「擅権ノ罪」に
当たり死刑に相当する。しかし望月大尉は堀場大佐の覚悟を得心し、かくなるうえは
人間としてやらねばならないと魚雷攻撃を決心する。

 ドイツ製の魚雷攻撃を念頭に置いた英国艦船の航行作戦は高速「九三式魚雷」の餌
食となって失敗、大打撃を受けノルウェ海域を蒼惶と去った。
 堀場大佐は退艦命令には従わずハイケン大佐と運命を共した。望月大尉は重傷を負
ったものの保ち応えた。
 そしてこの快挙がヒットラーの耳に入り、なんと望月大尉がヒットラーと会見する。
そして、12月8日の真珠湾攻撃の報が伝わるや、ヒットラーは対米参戦を命令したこと
になっている。
 (アメリカはドイツに宣戦布告したくてうずうずしていたのでヤッターと快哉を叫ん
だという説もあるが) 

 日本に帰った望月大尉の所在を探し当てたこの本の作者が事の次第を聞き取りドラ
マチックな冒険譚なる本書を作り上げたのである。

                         <以上この項終わり>

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カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

2023年07月05日 | 読書

◇『喪失』(原題:SAKNAD)

   著者:カーリン・アルヴテーゲン(Karin Alvtegren)
        
     
   
 作中主人公の女性シビラは社会のアウトサイダーである。社会システムの枠外にあって
社会から何の恩恵も受けていないし掣肘も受けない。神様に祈ったこともあるが助けても
らったことは一度もない。唯一の関心事は食べ物とその日の寝場所を得ること。過去を忘
れ、過去からも忘れられたい。

 ある日の朝、シビラは突如猟奇殺人事件容疑者として追われる身になった。
 シビラは裕福な資産家の一人娘だが、厳格な両親の元で自主性を持たずに育った。散歩
中に出会ったた若者との出来事のせいで成人前に妊娠する。
 シビラは精神的な病療養と称して自宅に引きこもり、病院で出産した。
(許可なしに私のお腹で育った子が、いま許可なしで私を離れる。なぜ何もかも私の許可
なしで進むのだろう)
 産んだ子は男の子だった。子供は無理やりシビアから引き離されて養子に出された。

 所有者が夏にしか使わない別荘の鍵の隠し場所を見つけ、5年ほど快適な居場所で過ごす
事が出来た。

 シビアは家を離れる決心をした。住む家も食べるものもない。その日からシビアは路上生
活者になった。それから6年。空腹と疲労困憊の末に母親に助けを求めた。許しを請い家に
帰りたいと言ったが、母は「お金を送るわ、住所を教えて」と言った。許しを請うたことは
耐え難い屈辱だった。
 母親は10年間月に1,500クローネを送ってくれた。金は主として酔っぱらうのに役立った。

シビラのこれまでの人生の足跡が断続的に語られる。
 ホテルのロビーで物欲しげな紳士を見つけ、食事をごちそうになり、財布を盗られたふり
をして部屋をとってもらう。そして気が向いたら彼の部屋を訪ねるかもといった甘言を残し
…。といった生活を続けていた。

 そんな一夜を過ごしたある朝、シビラは「警察ですが」とのドア越しの訪問に驚く。早く
もウソがばれたのか。辛くも非常階段から外に逃れたシビラは新聞の大見出しを見て驚く。
先ほどのホテルの一室で宿泊客の男性が殺された。見出しは「グランドホテルで猟奇殺人」
 翌日スタンドの新聞売り場では犯人は犠牲者を切り刻んでいて、内臓を取り出していたと
いう。そして警察は当日彼が部屋をとってやった女性の行方を追っているという。

 その日からシビラの逃避行が始まる。リュックと首に下げた小袋。そこには母親からの送
金を貯めた金29,358クローネが入っている。一人で平和に暮らす家の購入資金だった。

 当面の避難場所と狙い定めた中学校の時計台倉庫の屋根裏。しかしそこをかつて避難場所
としていた少年が現れる。仕方なく事情を話すと少年パトリックはシビラの話を信じてく
れた。その後同様な事件が連続しているという新聞記事が出ている。パトリックはこうなっ
たら逃亡を続けるのではなく二人で真犯人を探し出そうと提案する。

 かつて養子に出した息子はちょうどパトリックと同じ年ごろ。シビラは家の購入資金を使
いながら被害者やその遺族を探し話を聞く。そして意外な共通点を発見、真犯人に行き着く。

 シビラは常人と変わらず論理的で、まともに考え行動力も決断力もある。パトリックにこ
れまでの自分の人生と事件との係わりを告白したことで自分らしさを取り戻していく。

 終盤で一時シビラの身が危機にさらされるスリリングな展開を見せる。シビラは間一髪で
犯人の攻撃を躱し森の中に逃げ込む。そして警官隊に発見される。

 パトリックを通じて知ることとなったインターネットのハッカーというものの存在。最後
に彼に自分の養子に出された息子の追跡を依頼し答えを得るのだが…。どんな権利があって
14年経って、なぜ彼の生活に踏み込もうというのかとシビルは思い悩む。
 シビルは息子の所在を記した紙をごみ入れに捨て晴れ晴れとした気持ちになる。             

                             (以上この項終わり)

 

 

 

 

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