◇ 『コーヒーが冷めないうちに』
著者:川口 俊和 2015.12 サンマーク出版 刊
「
2016.5時点で23刷という結構な売れ行きの本。28万部突破、ベストセラーであ
る。
もとはと言えば舞台作品。それを本にしたという。
「ここに来れば、過去に戻れるって、ほんとですか?」清川二美子は不思議な噂を
聞いて、こことある街のとある喫茶店を訪ねる。
その喫茶店のとある席に座ると、座っている間だけ過去の戻れるという。ただし、
むつかしい5つのルールがある…。
喫茶店の名は「フニクラリフニクラ」。
第一話『恋人』、第二話『夫婦』、第三話『姉妹』、第四話『親子』の四つの物語
りはそれぞれ独立していながらも、喫茶店の経営者、従業員、常連客、そして幽霊
までが係わりをもってもって登場する。
人間だれしも一度は思うことがあるのではないだろうか。「過去の、あの時に戻
りたい」、「自分の未来を知りたい」。しかしそんなことが簡単にできるわけがな
い。そのためにはつらい犠牲を払わなければならないだろう。それでも、なんとし
てでも戻りたい「時」、取り戻したい「時」がある。そんな話を四話にまとめた作
者はなかなかの手練れものである。多くの人が泣いた、泣かされたと絶賛している。
私が面白く思ったのは、この本に綴られる話の中に、多くの擬音。実に効果的で
ある。
「カランコロン」これは喫茶店「フニクリフニクラ」のドアにつけられたカウベル
の音。レジスターのガチャガチャ、釣銭の小銭のカシャカシャ、鍵束のジャラジャ
ラ、平井八絵子の履いたサンダルのパタパタ、名も知らぬ少女が食べているトース
トのサクリサクリ、サラダのモシャモシャ、フルーツヨーグルトのハムハム…。
私はこの話の中では第三話の『姉妹』が一番良かった。話に余韻がある。平井八
絵子は近くでスナックを経営している。フニクリフニクラに毎日通う常連客。老
舗旅館の長女だが、旅館を継ぐ気はなく妹の久美が若女将としてあとを継いでいる。
久美は時間が出来ると八絵子を訪ね、早く家に帰ってあとをついでとせがむ。うっ
とうしくなった八絵子は久美を避けるようになった。そんなある日訪ねてきた久美
は避けて隠れた八絵子に会えず、帰る途中に交通事故にあって亡くなってしまう。
小さいころ母を亡くし妹を背負って学校に通った記憶がよみがえる。姉を慕って
お姉ちゃん、お姉ちゃんと言っていた久美。その願いを無下に拒んできた八絵子は
取り返しのつかない思いで、件の椅子に座る。最後に久美から隠れた日のあの時に
帰るために。その先は…。泣けるかもしれない。
(以上この項終わり)
◇ トマトも終わって、大根へ
トマトの収穫も大方終わったので、雨の中休みを狙って木を撤収しました。
あとは来月末あたりに天豆でも植えるつもりでとりあえず苦土石灰を撒き、
さっと耕しました。元肥は苦土石灰が落着いた頃に入れないといけないそ
うです。
◇ おくらが元気
少し遅く植えたオクラが元気になって、今頃盛んに実をつけています。
◇ 落花生の取入れは来月中ごろか
一部ではこんなになって採り入れが可能に見えるけど…。
◇大根の双葉が大きくなって、そろそろ第一回目の間引きか。
(以上この項終わり)
◇ 『アメリカの刺客』(原題:Five Past Midnight) 著者: JAMES THAYER
訳者: 安原 和美
2000.7 新潮社 刊 (新潮文庫)
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線がらみの小説は多い。中でも『鷲は舞い降りた』は
チャーチル誘拐作戦で映画化もされた。
本作は第二次大戦の末期、ヒットラーが生きている限り戦争は終わらないと確信した
ローズベルト大統領がヒットラー暗殺作戦を裁可するところから始まる。
ベルリンの捕虜収容所に捉われていたコマンド(突撃隊員)ジャック・トレイは、脱獄の
上独りでヒットラーを暗殺する指令を受ける。自ら死体となるという破天荒な手口で脱獄
したトレイは、ひたすらベルリンへ密行する。
総統暗殺という連合国の企みを知ったSSは、反ナチ的だとして監獄につながれ死刑
直前であったベルリン一の敏腕刑事ディートリッヒを引き出し、ジャック・トレイの捕縛に
当たらせる。トレイは反ナチの美貌の通信連絡員マイクルの助けを得ながらついにナチ
政府地下本部侵入を果たす。
トレイは不死身のスーパーヒーローである。Dデイ以降連合軍の空爆とロシア地上軍
の攻勢でベルリンは殆ど廃墟と化している。しかしヒットラーが潜む地下の帝国総統官
邸はどんな空爆にも耐えうる構造であるため、クレイは換気装置に工作をし得る曹長カー
ルを味方につけ、地下構内の火災と空からの爆撃と期を合わせ、消防隊に紛れ込み
ヒットラーの執務室まで入り込む。
連合軍の熾烈な攻撃で半ば廃墟と化しているベルリンの市街地の様子が偏執的とい
ってよいほど緻密に描き込まれていて気分が悪くなるほどである。この時期、市民はも
とより軍の多くの幹部、兵士が総統に対しもはや忠誠よりも恐怖しか抱かず、帝国の前
途に勝利はありえないと観念している姿も痛々しい。何人もの市民がトレイのヒットラ
ー暗殺任務に協力する。
妻をSSのミューラーに殺されたディートリッヒは恨み骨髄とばかり、トレイ捕縛の
任にありながら、最後には捕縛したトレイを放ち、ヒットラーを殺させる。「国を売る
裏切り者」と罵られながらも。
ヒットラーはアメリカのコマンドに暗殺された。しかし、最高指導者である総統が暗
殺者の手で殺されたというのは面目にかかわるので、自殺ということにしたという話は
いかにももっともらしい。
作中ヒットラーの愛人だとされるエヴァと思しき女性も登場する。
多くの兵士と市民が亡くなった世紀の大戦争を背景とした小説を、いささか不謹慎で
はあるが、エンターテイメントとしてとらえれば、冷戦下の諜報もの小説とはまた違っ
た痛快な活劇調に満ちていて面白い。
(以上この項終わり)
◇ 坂のある街の風景を描く
いつもの水彩画教室は静物(花や果物、野菜、器物など)を描くことが多い。
月一回の写生会は都合のつかない人もあるので、今回の教室は外で風景を描いてみようとい
うことになったが、まだ暑さが残っていることもあって冷房の利いた教室で制作に当たる人
もいた。
いつかこの風景を描いてみたいと思っていた坂のある都市計画道路。新柏の開発団地に
つながっている。標高が最高地点で30メートルそこそこの柏市、も結構アップダウンがき
つくて自転車で行き来するのは苦労する町である。
この絵の一番低い交差点の地点は、多分昭和の初めころは谷津田の農業用排水路が走っ
ていたに違いない。新開発地は大概そんな地形である。
まだ夏空で、一時雨が来そうな雲行きであったが、結局降らなかった。
以前坂の街で名高いサンフランシスコの絵を臨画したことがあったが、実際に彼の地に行っ
てみて坂の勾配が半端でないことに驚いた(参考に掲載)。
これでうまく坂が表現できたのか自信がない。センターラインのずれが坂を表している。車
が下を向いて走っている。樹木や電柱のトップが急角度で下がっているなど証明はできるの
だが、全体の印象がすっきりしないのである。
CLESTER F8
<参考>
(以上この項終わり)
◇『愚者の連鎖』 著者:堂場 瞬 一 2016.3 文芸春秋社 刊(文春文庫)
アナザーフェースシリーズ第7弾。
警視庁刑事部の刑事総務課巡査部長大友鉄は、妻の菜緒を交通事故で亡くして、今は
一人息子の優斗と二人暮らし。その優斗も中学生になった。男同士で会話は弾まないが、
父親に肉豆腐を作ってくれる優しいところがある。
ある日後ろ盾になってくれている後山刑事部参事官から電話があった。南大田署で取
り調べ中の窃盗犯が10日も完全黙秘でお手上げ状態なので「ちょっと行って揺さぶって」
やってくださいと言う。刑事総務課は本部応援も仕事の内であるが、所轄の取り調べ応援
は珍しい。
連続窃盗犯と思しき容疑者若居はなかなかしぶとい。外堀を埋めることで突破口を作ろ
うと周辺捜査を開始する。川崎でつるんでいた高校時代からの半グレ仲間。そして女友達
を探り当てる。どうやら若居は彼女(田原麻衣)の父親の入院費用に充てるために盗みを
働いていたらしい。俵の存在を知られた若居は完黙を解く。
ところが驚いたことに事案担当検事の海老原がしつこく所轄に足を運び捜査の指揮を執
る。やや異常である。
今回のストーリーのポイントは、後山参事官が退官し政治の世界に入ること、担当検事
の悪事が絡んできたこと、中学・高校時 代からの悪ガキグループのヒエラルキーが、10年
も15年も守られるという愚者の連鎖が生んだ犯罪の始末記であろうか。
大友は今回の事件ではちょっと優しい気持ちを起こし、刑事の基本的心得を怠ったばか
りに、命を失いかねない攻撃を受けて容疑者を奪われた。そんな失態があったものの、誠
意ある取り調べで死体遺棄の余罪告白を引き出した。取調べのプロとして面目躍如たる場
面である。
なぜ愚者の連鎖が絶えないのか。人には生きて行くうえで常に居場所が必要である。そ
れがたとえ悪ガキグループであっても。
後ろ盾の後山参事官がいなくなっった。さて捜査一課に戻って刑事本来の仕事をさせて
もらえるのだろうか。
(以上この項終わり)