◇ 『密売人』 著者:佐々木 譲 2011.8.8 角川春樹事務所 刊(ハルキ文庫)
昨年8月に第1版が出て、リクエストをしたが後れを取ってしまって、50番目くらいでやっと手にした佐々木譲
の新作。
連作北海道警もの。おなじみの佐伯警部補、津久井巡査部長、小島巡査と新米巡査の新宮などが登場する。
秋も深まった10月下旬の、ほとんど同時期に函館・小樽・釧路で三つの死体が発見される。個別に捜査に当
たっていた津久井などは、佐伯、小島などと話しているうちに不審死亡者が警察捜査員の協力者(エス)である
ことを知ることになる。そして事件が暴力団の摘発にからむお礼参りではないかと疑い、関連事件を調べを進め
ていくうちに、なんと捜査員が個人的にしか知らないはずの情報が殺し屋の手に渡ってらしいことに気付く。と
いうことは捜査員の身辺調査の要である警務部の幹部が絡んでいるとしか考えられない。
佐伯・津久井らが推理を進めていくうちに、ことの発端は6年前に警察庁が出した広域暴力団一斉摘発指令
に応えるために、むりやり微罪ながら幹部を逮捕するために、道内屈指の暴力団の内部情報と引き替えに警
察捜査情報、しかもあろうことか警務が握っている捜査員個人情報である協力者(エス)リストなどを差し出し
たことにある。その元は警務第一課長しかあり得ない。
殺された3人のエス。かつて佐伯のエスだった米本の家族が危ない。米本を追いかける殺し屋。なんとか保
護しようと駆けまわる佐伯ら。結局3人の殺し屋はすんでのところで逮捕できた(緊迫場面あり)。
殺し屋グループにあわや殺されかかった津久井の元上司佐伯は、警務部幹部の警務第一課長と刺し違え
る覚悟で対面する。
「・・・私はその情報がどういうラインで流れたのか、偶然知ってしまいました。・・・もし公判に証人として呼ば
れることになれば、全て語ろうと思っております。課長には礼儀としてそれをお知らせしておくべきかと思いま
して」
互いに憎からず思っている小島百合巡査は、そんな佐伯を「おつかれさま」とねぎらう。
私にはジャズの趣味はないが、高校時代にジャズをやっていた佐伯が、小島百合と溜まり場のバ―「ブラック
バード」で、キールというカクテルを飲みながら数年前NYで亡くなったアルトサックス奏者の名曲を聞くシーンが
ある。作者佐々木譲自身がこの方面の趣味がないと書けないような熱のこもったページがしばしホッとさせる。
(以上この項終わり)