◇「6人の容疑者」(上・下)
著者:ヴィカース・スワループ 訳者:子安亜弥
2010.9月㈱武田ランダムハウスジャパン刊
一応ジャンルとしてはサスペンスの属するのかもしれないが、久々に面白い本を読んだ。
柏市では この10月に図書館システムの更新があり、ときどきメールで新規蔵書到着の
お知らせがある。その中の一冊に興味をひかれリクエストしたら意外と早く順番が巡ってき
た。
最初はちょっと退屈するようなテンポで読むのを止めようかと思った。読み進むうちに、まる
で異世界の6人の容疑者ごとの事情が章ごとに代わる代わる展開し、それがあまり知ること
の少ないインドが舞台とあって、次第に興味が増し、かつ二転三転ののち最後の最後にえっ
というところに落ちが来たので、結論としては「まあ面白い作品」と評価できた。
この作家はインド北部ウッタル・プラデーション州生まれ。大学で歴史学、心理学、哲学を
学んで外交官になった。トルコ、アメリカ、エチオピア、イギリス、南アフリカなどで外交官と
して勤務、現在は在大阪インド総領事として日本に赴任している。そのうち大阪を舞台に
した作品が誕生するかもしれない。
デビュー作は「ぼくと1ルピーの神様」は40カ国語以上に翻訳され、映画化された。アカデ
ミー賞を初め50以上の映画賞を受賞し話題となった。
本書は第2作。早くもイギリスで映画化が予定されているらしい。
パーティで殺人が起きる。その殺人現場という1点でまったく境遇を異にする6人の容疑者
が交錯する。
①自分とそっくりの貧しい娘に人生を乗っ取られていく女優。
②偶然大金を拾ったことで、身分違いの恋に落ちたケチな泥棒。
③殺人を犯した息子のしりぬぐいに奔走する大物政治家。
④絶滅の危機に瀕する部族の少年。
⑤州の元高級官僚。
⑥文通相手のインドの女優に会いに来たアメリカ人。
容疑者がなぜそこにいたのか。そこに至る事情が長々と語られる。あまり知ることの少ない
インド人の生活・インド社会の実情がが面白い。
いまだに厳然と残るカースト社会、政治の腐敗、汚職、貧富の余りに大きな落差、ガンジス
川の実像等々、小説としてのストーリーを超える興味津々たるものがある。
面白いことにタリバンやオサマ・ビン・ラディンも登場する。
(以上この項終わり)