リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

信頼に足る資料・楽譜の選択(4)

2020年07月29日 20時53分31秒 | 音楽系
ホプキンソン・スミスとのレッスンで、パルティータロ短調BWV1002のバロック・リュート編曲(イ短調)の検討と演奏のレッスンを受けていたことがありました。彼と一緒に何度も検討して、バロック・リュート編曲を作り後半2曲(サラバンド・ドゥブル・デンポディボレア・ドゥブル)は何回かコンサートで弾いたりもしました。それから15年後、今年の4月のコンサート用に今度はアーチ・リュート用に同曲をハ短調で編曲してみました。

楽器も調も異なるので、以前行ったバスの追加や旋律ラインの変更は一切参考にせずにアレンジしてみました。今回はもう本当に最小限、できればほとんどバスを付け加えないというスタンスでまず後半2曲をアレンジしてみて、できあがったものを以前のバロック・リュート版と比べてみました。比較は15年間における私の考え方の変化も反映されているみたいでなかなか興味深かったです。

無伴奏ヴァイオリン作品の場合は、実際にはバスに相当する音がそこそこついていますが、無伴奏チェロ作品の場合、書かれているバスはずっと少ないです。そういう建付けの曲なので、あまり意味のないバスが書かれていたり、時には和音の解釈を間違ったバスを書いた編曲も出てきます。悪いことにそういった編曲が出版されていたりもします。

これらの作品を演奏するときは、そういった出版楽譜を使わずに、バッハの手稿譜を使いまず何も足さず何も引かず弾いてみてはいかがでしょうか。調はオリジナルと比べてあまり高いキーに移調しない方がいいです。例えばチェロ1なら、原曲がト長調なので変ロ長調かハ長調あたりまでです。バロックリュートならイ長調というのもいけるかも知れませんし、テオルボなら原調のままでも行けるかも知れません。もともとバスの音域で書かれているのでバスを加える必要性が低くなる、つまり音の低さには意味があるのです。とはいうものの楽器の音域も異なるし得意な調性も異なるので、何らかの移調作業は必要ではあります。

何も足さず何も引かず、とは言っても擦弦楽器のチェロと撥弦楽器のリュートとでは音の出方が異なり、バッハは擦弦楽器のために特化した作曲を行っています。楽器の性質が異なる以上はバッハが意図したものは出せない可能性が出てきます。でもそこで無理して音を加えることは敢えてせず、信頼できる師匠のレッスンを受けつつ、必要最小限のバスを書き加えてアレンジと演奏を完成していくという方法が多分一番間違いが少ないだろうと思います。