リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

音楽を語る(2)

2023年11月26日 19時07分39秒 | 音楽系
音楽について語るだけでもこんなにいい加減になりがちなのに、ましてや音楽そのものをことばで語るというのは、これは全く出来ません。音楽は非言語の世界だからです。

私はよくレッスンで「この音をもっと大きくして・・・」なんて言うことがありますが、これはあくまでも例え話、言わば方便です。「もっとその音を大きく」の後には必ずその実例を示すことにしていますが、こちらをつかんで欲しいところですが、実際は「大きく」という語を頭の中に満載させて弾く方が多いです。中には「大きく」と楽譜に書き込む人もいますがそういうことは絶対にやってはいけません。

昔の文献でも、もっとも知りたい肝心なところは何も書いてありません。それは書けないからです。バッハは装飾記号の弾き方をきちんと五線譜で書き表しているではないかと思うかもしれませんが、五線譜に書かれたとおり32分音符などを均等割に弾くものではありません。音符を使って装飾記号の弾き方を書いたのは、あくまで「こんな感じ」ということです。一番重要なところはそれをどう弾くかということです。試しにDAWを使って均等割の32分音符が連なる装飾を入力して聞いて見るといいでしょう。それでは味わいも何もないことがわかります。もっとも50年くらいのピアニストの多くはそんな風に弾いていましたが。