リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ヴィーガン・リュート

2023年11月28日 15時44分48秒 | 音楽系
機内食でベジタリアンやらヴィーガンに対応した食事が出るようになって久しいですが、学校給食でもヴィーガン食みたいなものが出た地域があるそうです。日本の仏教の精進料理みたいなものと思われがちですが、精進料理では葱や大蒜も怒りや淫欲がわき修行の妨げになるということで食べないそうです。ただ自分のあずかり知らないものであれば、食することもあるようです。修行の妨げになるかどうかが基準のようで、そういえばお寺に太鼓はありますよね。太鼓は修行の妨げになるどころか必要なものだし、太鼓の革は自分のあずかり知らないところで革になっているのでよろしい、という理屈でしょう。

ヴィーガンの場合は食に関することの他、より厳格なヴィーガン(エシカル・ヴィーガン)だと全てのものに対して動物由来のものを使わないそうです。動物由来の石油が原料の燃料で走る車は使っていいのかな?

ここで気になってくるのは(別に気にしなくてもいいのですが)ヴィーガンの人はリュートを習うことができるかということです。リュートということばの語源は「木」を意味することばだそうで、リュートは基本的には植物由来のもので作られているのでいけそうみたいですが、細かくチェックしていくと結構動物由来のものが使われています。まず確実にアウトになるのは象牙のナットとガット弦。

象牙は生きた象から採取は不可能で、殺してから採取したものなのでアウトです。代わりに使われる牛骨もだめですね。生きた牛や馬から腸をいただいてガット弦を作ることもできないのでガット弦もアウト。螺鈿細工も生きた貝から身を取ってその貝殻を使うのでアウトです。あと、塗装は大丈夫そうですが接着剤の膠は完全にアウト。塗装もセラックニスだと主原料はカイガラムシの分泌物を精製したものらしいのでアウト。

合成樹脂弦も元が石油で動物由来なので厳しいのかも。リュート以外の楽器で、例えば擦弦楽器の弓の毛、これは別に馬を殺す訳ではないのでこれはいいのかな。でも尻尾の毛を切り取られる馬が苦しんでいるんだったらアウトでしょう。

仏教は長い伝統があって、うまい方便的方策を取っています。お坊さんはリュートを弾いても問題ないでしょうけど、20世紀の終わり頃に登場した厳格なヴィーガンだとリュートを弾いてはいけないことになるんでしょう。ヴィーガン・リュートが必要?アホラシ。