私が学生の頃、獣医学科は今のような6年一貫教育ではなく、4年の学部を卒業した後、2年の修士を修了してはじめて国家試験の受験資格を得ることが できるというシステムでした。研究室への配属は4年生になってから。4年生の夏休みに修士の入学試験があるので、それに合格したら配属になるという流れ だったと思います。
私は大動物をやりたいと思っていたので、臨床繁殖学講座を選びました。でも私の出身大学はいわゆる都会にある大学で、牛は数頭しかおらず、大学の周 りにもそう畜産農家があるわけではなかったので、牛の臨床ができるとは思っていませんでした。でも他の研究室に比べたら、大動物に関係する仕事ができると ころだと思っていました。私はそこで早期妊娠因子の研究をすることになりました。研究室の仕事は全部先輩が教えてくれます。動物の世話、実験器具の洗い 方、細胞のとり方、顕微鏡の使い方。私が所属した研究室にはゼミがなく、英語の論文の調べ方、読み方も全部先輩に習いました。その頃はそのことに不満もあ りませんし、そういうものかと思っていました。私は無事修士論文を書き、卒業して、国家試験にも合格して獣医師となりました。
卒業してから私はある研究所に勤めました。
そこで大学での専門と全く異なる感染症の研究をすることになりました。若かったので、怖い物知ら
ず。言われるままに新しい実験に取り組みました。卒業した翌年、上司の指示で「分子生物学」的な実験をすることになりました。大学時代にも一番苦手として
いた分野です。しかし、「一番若いから」という理由で、私がやることになり、それから四苦八苦して勉強を始めました。ある時、「このまま一人でやっていて
もだめだ。何とかもう一度大学に戻って勉強したい」と思い、上司に相談したところ、内地留学のような形で大阪大学微生物研究所に通ってもよいと言うことに
なりました。私が26歳くらいの時のことです。微研に行くようになって、私はやっと「大学院の2年間でもっとトレーニングを受けることができたはずだっ
た」ということを知りました。
研究室を選ぶとき、将来自分がどんな職業に就くのかわかりませんし、はっきりした目標も見つかっていない場合が多いと思います。「なんとなく」先生 がおもしろそうだから、とか、楽そう、とか、「就職がよいから」とかいろいろ考えるでしょうが、1年か1年半、あるいは大学院に進んであと2年、どういう 研究室で過ごすかということは本当に大切です。私のように、後で専門がどんどん変わる場合もあるので、研究の中身というより、自分をきちっと鍛えてくれる ところに身を置く方が自分をのばせるのではないかと思います。もちろん、素晴らしい巡り合わせで、研究テーマを卒業後もいかせる人もあるでしょう。が、そ うでなくても、この年齢の1年は本当に大きいもの。よくよく考えて研究室を選んでほしいと思います。
ところで私の話ですが、私は学生時代、博士を取るつもりもなかったし、大学の先生になろうなんて思ってもなかったのです。もしそんなつもりなら、最 初からもっとアグレッシブに研究の道を邁進していたかもしれませんが、このブログのタイトル通り、寄り道まわり道しながら、ゆっくり進んできたんですね。 そして今とっても楽しく日々生きていますから、本当はえらそうなことは言えないんですが、でも、もし可能であるならば、大学の2年生くらいの時、もう少し 大学の研究室についてよく考えてもよかったなと思っているのです。
(写真はブタの小腸の組織)
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