なかなか手ごたえのある本で、読みとおすのにひと月くらいかかってしまいましたが、出張の機会に一気に読み終われました。この本は教育関係者ならぜひ読むべき本です。小中高校のお話ですが、大学で教育に携わる私にも非常に参考になりました。
まず、対・子どもの話の前に、教員同士がじっくり議論すべきであるということに多くのページが割かれています。
「もしみなの意見が結局同じになるなら、民主主義の習慣など身につける必要はない。しかし、人は意見の相違ー個人の頭のなかにも存在するものーから、本来多くのことを学ぶものである。」p.x
「人は、さまざまなアイデアを模索しいろいろなことに挑戦する自由を保障されているときに、みずからの力をもっともよい形で発揮できるものである。」p.xi
「相容れない意見を戦わせているなかでこそ我々は、自分の意見の検証や修正を行い、あるいはまったく新しい考えを思いついたりという過程を経験できるのである。」p.10
といった具合です。私たち大人は議論を避けてはいけなく、批判を恐れてはいけない。
その中でこそ自分の考えが煉られ、よりよいものに進化していくのです。
そして、どのような「力」を子どもたちに身につけさせようとしているのか、というのが「5つの知的な習慣」として掲げられています(証拠、視点、因果関係、仮説に関心を寄せること、そして誰にとって重要なのかということ:p.61)。
また、子どもたちに身につけさせたい新しい「教養」の定義として以下をあげています。p251-252
*注意深く観察する人として、物事のパターンや細かな点や普通とは違うところなどに気づく目や耳をもっていること。
*想像したり、疑問をもったり、ものごとをいままでにない新しい方法で結びつけたりする力。何事にも疑問をもちつつ先入観にとらわれない考え方をすること。
*他者が世界についてどう考え、どう感じ、どう見ているのかということを想像する習慣ができている。つまり他者の立場に身をおく習慣ができていること。
*根拠を重視し、適切なデータとそうでないものを見分け、事実がともなわないことを大声で主張するのをためらうようにならなければならない。
*さまざまな表現方法を使いながら、慎重さと説得力と力強さをもって人にものごとを伝えるすべを知っていること。
*働くことに対する倫理。
このようなことはまさに私が日々うちの学生に身につけさせたいとやっきになっているものと同一です。
わたしも、学生たちに生きていく中で万事に応用できる力を身につけさせたいのです。免疫学とか生理学とか、学問を身につけるのは大学ですから重要ですが、むしろ、この勉学を通してよりよく生きていく力を身につけさせたいのです。だからあの子たちが必死になってわたしの与えた資料を丸暗記することなど、ほとんど意味がなく、そのことを通して自分の命について考えてもらいたいのです。
他にも、小さな大学であるうちの大学で参考にしたい事例もたくさんありました。
あとがきにもありますが、何度も読み返して自分の考えをさらに深めていきたいと思っています。