院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

集団検診は有害無益

2007-08-08 10:20:19 | Weblog
 遅ればせながら近藤誠著『成人病の真実』(文春文庫)を読んだ。7,8年前に同氏の『患者よがんと戦うな』を読んで以来である。

 『患者よ・・』もそうだったが、この本も極めて説得力の強い本だった。医療のプロである私が読んでもそう思う。

 著者は成人病検診や集団検診など、およそ症状のない人に行う検診は、すべて無意味かかえって有害であると言い切っている。

 著者は無根拠にそう主張しているわけではない。逆に非常に厳密な根拠に基づいている。

 著者がより所とするのは、いわゆるEBMである。EBMとは Evidence Based Medicine の略で、「証拠に基づく医療」という意味である。

 EBMは予断や思い込みを最大限排除する。例えば手術後、抗菌剤を投与するかどうか、感染防止のために「念のために」やっておきましょう態度を認めない。

 手術後、抗菌剤を投与するグループとそうでないグループを比較して、どちらに術後の感染症が多いかどうか、きちんと証拠を出してからでないと、その医療行為をエビデンス(証拠)がないとして認めないのがEBMの態度である。

 この例では、大規模な試験によって、抗菌剤の投与は術前に一回やればよいという結果が得られた。だから「念のために」というのは無駄ないし有害ということになる。

 EBMが大規模試験の方法でもっとも重きを置くのが「くじ引き試験」(RCT)である。素人さんには、これがなぜ最強の研究方法であるのかが分かりにくく、近藤氏も説明に苦労している。

 RCTは、予断や思い込みを徹底的に排除した疫学的研究方法である。海外では、検診を行ったグループと放置したグループを何年も追跡調査したRTC研究がいくつかあり、いずれの結果も死亡率に影響はなかった。

 つまり、無症状の人の検診でなんらかの異常を見つけることは、本人に不安を植え付けるだけであり、実用的な有用性は何もないということである。ということはお金と時間の無駄ということになり、近藤氏もそう言っている。

 同感である。でも、私のクリニックではスタッフの定期健診を行っている。なぜかと言えば、法律がそれを薦めているからであり、またスタッフから希望があるからである。

 理屈だけでは人間の行動は統御できないという、これは一例である。