院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

デパスとマイスリー

2011-09-01 07:37:44 | Weblog
 標題は薬剤の名称である。デパスが精神安定剤、マイスリーが睡眠導入剤である。そして、この両剤は内科の先生がもっとも好んで使用する薬だ。

 精神安定剤も睡眠導入剤もおのおの10種類以上ある。そのなかで、内科では多くはこれらの薬が「選択的に」使用される。なぜか?

 内科の先生はこの両剤をもっとも安全だと考えているからである。自分が専門でない薬を使うのは怖い。だから、安全と考えられる薬を使用するのが人情だし、それが正しくもある。

 内科の先生がなぜこれらを安全と考えるか想像してみると、デパスには処方制限期間がない。ほかの精神安定剤は30日という処方制限がある。中にはけっこうクセのある薬や副作用が強い薬がある。

 マイスリーは統合失調症や躁うつ病には健康保険が効かない。その点が、本剤を内科の先生が好む理由だろう。統合失調症や躁うつ病に睡眠障害は必発である。それなのに本剤を使えないのは私たちとしてみれば残念である。

 でも内科の先生にとっては、統合失調症や躁うつ病に使えないということはメリットである。患者に「あなたは精神の病ではありませんよ」というメッセージになるからである。

 我々、専門の心療内科医、精神科医には、今度は内科の先生が普通に使っているステロイドや抗生物質が怖くて使えない。自分の領域外の薬剤については極めて慎重になるのが医者の性である。これはよいことである。

 ところが実のところ、精神安定剤の総使用量は、心療内科、精神科よりも、内科のほうが多いのである。患者数の圧倒的な差からこのような数字になるのだが、この事実は私にとっても非常に意外だった。

※2013-10-05付記
 これまでデパスには依存性がないことになっていた。それが内科医がデパスを好む大きな理由の一つだった。デパスも他の安定剤や睡眠薬と類似の構造式なのに何故だろうと思っていた。ところが最近、デパスにも依存性があると製造している会社が言い出した。この情報に接した内科医は、今後どのような薬剤選択を行うだろうか?