院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

続・むち打ち症とPTSD

2011-09-12 06:36:40 | Weblog
 むち打ち症については 2011-04-22 の記事に書いた。その時の書き方が分かりにくかったかもしれない。だから、もう一度書く。

 むち打ち症とPTSDは、それらが一疾患として「でっちあげられる」過程が極めて似ている。

 むち打ち症は昭和40年代のモータリゼーションの時代に「流行」した。車で追突された時に、頭が前後に強く振られた結果、むち打ち症は生じるとされていた。

 症状は肩こり、めまい、頭痛、食欲不振といった不定愁訴である。

 当時はむち打ち症患者が激増し、整形外科はどこの病院も医院も、首を牽引する人であふれていた。首の牽引がむち打ち症の治療になると考えられていた。

 自動車が急増し、それに対する道路の整備が間に合わず、「交通戦争」という言葉まで生まれたほどである。それゆえの、むち打ち症の増加だろうと当時は思われていた。

 整形外科医もむち打ち症は確かに存在すると思っていた。だから、列をなすむち打ち症患者の治療に忙殺されていた。

 前にも書いたけれども、むち打ち症の名称の由来は、むちを振るように首が前後に振れるところから来ている。そのときに、硬膜という脊髄を覆っている膜に皺ができて、その皺が脊髄を圧迫してむち打ち症の症状が出ると説明されていた。

 硬膜に皺ができるほどの衝撃だもの、すごい力がかからなくてはならない。ところが、コツンと追突されただけで、さしたる衝撃もなかったのに、むち打ち症の症状を出す人が多数出てきた。

 さすがに整形外科医たちも疑問に思った。要するに宣伝のしすぎだったのである。宣伝と言うよりもマスコミが取り上げすぎたのだ。それで、追突された人が我も我もとむち打ち症の症状を出すようになった。

 ほとんどのむち打ち症は、マスコミに影響された被暗示性の神経症だとみなされるようになった。それで、むち打ち症は精神科の担当となった。

 PTSDも似ている。精神科医たちはPTSDが戦争や災害で生じると思い込んでいる。だから、そのうち自らPTSDだと主張する患者が出てくるだろう。

 今でも「軽いむち打ち症になった」と語る人がいる。むち打ち症に「軽い」のなんてありえない。一度刷り込まれた俗説は40年たっても消えないのだなと嘆息する。

 実はPTSDにも、すでにその兆しが見えるのである。