(「キンボシ・プロ」のホームページより。)
ボケ防止のために電卓を使わずに算盤を使っているという老年女性がいた。本人は頭と指先を使うからよいのだ言っていた。
私の所属する俳句結社では、俳句はボケ防止になると会員はみな思い込んでいる。(日本中のほとんどの俳句結社が主宰は80歳以上が当たり前で、同人でも70歳以上が99%である。)
だが、私は算盤も俳句も認知症の予防にはならないと思う。認知症になるまでは高度な文章を書き続けていた作家を知っているからだ。算盤や俳句をやっている人は、まだ認知症でないから算盤や俳句ができるのであって、みな順序を取り違えているのだ。
もっとも上の作家の例だけでモノを言うのは科学的ではない。日本の認知症の権威N教授に訊いてみた。教授は「世界中で研究されているが(頭を使うことは)認知症を予防するというエビデンス(科学的証拠)はまだ出ていない」という。
たぶん、これからもエビデンスは出ないだろう。何万人もを何年も追跡調査しなければ、しっかりとしたエビデンスは得られない。だが、こうした研究は労力がかかる割に、果実が少ない。
N教授は「世界的に研究されている」と言っていたが「まだエビデンスは出ていない」という。そこから考えうるのは、すでに終わった調査でも「頭を使うと認知症が予防される」という仮説を積極的に支持できなかったということだ。支持されなかった仮説は発表もされずに闇に消えてゆく。
(詩人や哲学者は夭折するが俳人や彫刻家は長生きだ、と私の俳句の師は言っていた。師は、俳人や彫刻家はものをつきつめて考えないから長生きすると解釈していた。私は、俳人や彫刻家は歳を取らないと有名になれないだけだと思った。)