(復刻ドットコムより。)
高校時代に読んだ石森章太郎の漫画「サイボーグ009」はすばらしく面白かった。
うろ覚えだが、主人公(009)が宇宙で命がけのミッションを終え、ぼろぼろになって大気圏に突入していくのが結末のシーンだ。最後のコマは夜空に流れ星が一つ輝いて終わる。
こんなの、それまでの漫画にはなかった。手塚治虫が石森に嫉妬したというが、分からぬではない。
だが、いま考えるとアラがないではない。まず「009」という題名。その数年前にショーンコネリーのアクション映画「007シリーズ」が始まったばかりだ。だから、明らかに「009」は「007」のパクリである。今の漫画家には、そんなことをやる人はいない。
もう一点、登場人物を10名にしてしまったことが、いけない。人間が一度に識別できる数は7個程度までである。これは実験心理学で証明されている(註)。昔のアイドルグループは3人が多かったし、ゴレンジャーも5人だ。虹の7色とか7大大陸とか、複数をまとめるときには7個程度までにしないといけない。「009」のサイボーグが総勢10名は多すぎるのだ。AKB48に至ってはセンターしか認識できない。
まあ、いくらかのアラがあるにせよ、「009」は画期的な漫画だったけれども。
註:「マジカルナンバー7プラスマイナス2」というあまりにも有名な心理学論文がある。この論文は最後に「7つの海」や「アトラスの7人の娘」といった7にまつわる言い習わしや故事を繰り出し、7という数字をこれでもかと印象付けて締めくくられている。一回で認識できる7個程度のまとまりを、著者は「チャンク」と名付けた。