えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・ゲームセンターへ

2024年12月28日 | コラム
 放出台だった。会社の近くのゲームセンターは殆どが一回200円であったことを踏まえると一回100円の台は当然ながら放出台と見るべきで、かといって以前随分前の景品を2000円きっかりの確立機で掴まされた覚えもあり、放出台といえどもクレーンゲームの筐体の設定は店側の良心にかかっている。繁華街のゲームセンターだった。隣ではのび太とスネ夫を足して二で割らないような小柄な男に、ジャイアンを小粒にしたような男が「次失敗したら殺すぞ」と脅しをかけていた。若い二人連れだった。「こつがあるんだよ。おまえは全然できねえな」と筐体の横から景品を覗き見ながらも指示はせず、どこにアームを入れるか考えているようだった。隣で私は引きずられるようにゲームを遊んでいた。珍しくきちんと動く橋渡しの台で、景品は今年頭に流行ったアニメの主人公だった。知人が好きなので取っても無駄にならない。隣ではジャイアンとのび太が両替をするか店員を呼ぶか迷っていた。QRコードを読み込めば店員が来ることを教えたが、ジャイアンは短気にも私が来る前に助言を受けた店員を探しに筐体の光が眩しい店内へと消えていった所だった。
「そんな便利な機能があるんですね」
「すぐ来てくれますよ」
 ジャイアンが戻ってきたので私はゲームに戻る。起き上がりこぼしのように安定しない景品だった。店員を呼んでもきりがない。しばらくゲームから遠ざかっていた事もあり、ゆっくり遊びたかったが如何せん一回が重なればそれなりに高い。気がつけば四千円ほどすっていた。のび太はジャイアンの手助けで無事景品を手に入れ、ジャイアンは続けざまに店員を呼んで新しい景品を置かせると「1000円で取るから」とゲームに挑み始めた。私はまだ取れなかった。
 またジャイアンが両替に行くとのび太は筐体の前に回って動かし方を考え始めた。
「上手い方なんですね」
「はい、うまいです。ほんと・・・」
「私なんか下手すぎて殺されるかも知れませんね」
「いやあ、ほんとにうまいので、僕も殺されそうです」
 のび太は見かけによらず物怖じしないのか、マスクをかけたワンレングスが静電気で派手に散らかっている様態の女から声をかけられても平然と返事をした。ジャイアンが戻ってきたので口をつぐむ。彼は確かにうまかったが、結局2000円ほど巻き上げられて「すぐ転売するぞ」と捨て台詞を吐いて去っていった。

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