まちづくりは、単なる建築や土木の問題ではなく、環境、福祉、交通、教育、産業、財政・・・など全てにかかわる政策の基本です。
しかし、残念ながら、日本のまちづくり政策は、戦後の復興、そして、それに高度経済成長期の経済のけん引役と一体になって進められてきており、いまだにそこにとどまり、本来のまちづくり政策を実現するしくみにはなっていません。
法律上は、まちづくりの憲法とも言われる「都市計画マスタープラン(都市マス)」を自治体が作成し、それに沿ったまちづくりが行われることになっていますが、「絵にかいた餅」になっているという指摘もあるとおり、形骸化しており、緑豊かで良好な住環境の地域で豊かな緑が伐採されたり、工業の集積地といわれるところでも、工場が移転すれば集合住宅が建設されていくといったことが日本全国で日常的に起きています。
結果、住環境が悪化したり、町工場が迷惑施設になり操業に影響したり、地域の世代構成がかたより公共サービスの需給バランスが短期間に大きくかわったりすることもあります。
大田区は、「都市マス」の改定作業にはいりましたが、形骸化しているといわれているこの「都市マス」を実効力あるものにするためには、何が必要でしょうか。
大田区のもつ「まちづくり」に関わる現状の問題を事例に、「大田区都市計画マスタープラン」に必要な課題について第四回定例会において質問しました。
=================================
■都市計画マスタープランとは■
平成4年に都市計画法が改正され、都道府県の定める都市計画区域の整備、開発及び保全の方針に即し、都市計画に関する基本方針(都市計画マスタープランいわゆる「都市マス」)を定めることが義務付けられました。
大田区では、平成11年に2年半をかけて現在の「都市マス」が策定されています。
今回、大田区は、昨年、策定した新たな「基本構想」との整合性を持たせるため「都市マス」を改定し、羽田空港再拡張事業による国際化・空港跡地利用、少子高齢化の進展、工場立地などの社会経済状況の変化に対応するとしています。しかし、これらは現行の「都市マス」にも既に掲げられている課題です。
国は、来年度から3カ年をかけ都市計画法を改正すると聞いています。「都市マス」の位置付けや「用途地域」が変わる可能性がある都市計画法改正直前のこの時期に、1年半をかけ「都市マス」を改定するのが良いタイミングなのか疑問の残るところです。
基本構想とともに自治体の憲法とも言われる「都市マス」ですが、都道府県が定める「都市マス」が都市計画決定される一方で、区市町村の定める「都市マス」は外部機関のチェックも無いため、単なる行政内部の文書に過ぎず「絵にかいた餅」になっているといった指摘があります。
「都市マス」が形骸化しているという指摘・問題意識のある中、あえて国の「都市計画法」改正直前のこの時期に大田区の「都市マス」を改定しようとするのは、空港・国際化、少子化・工場立地などの課題に積極的に取り組んでいきたいという区長の強い意志の表れなのでしょう。
であるとするならば、「都市マス」が絵に描いた餅にならないよう、実効力のある計画にするための方策をとっていかなければなりません。
一部の自治体には、「都市マス」を議決事項として議会の関与を加えたり、策定過程において市民参加を高めるなどしてまちづくりの基本方針である「都市マス」の位置付けをより確かなものとしていこうとする動きもあります。
新しい課題に積極的に取り組んでいきたいという区長の意欲は理解できますが、現行の「都市マス」に10年間載せて進んでこなかったことがただ単に文言を変えただけで飛躍的に進展するということはあり得ません。
【質問①】
現行の「都市マス」についての評価、達成できたことできなかったこと、そしてできなかったとすればその主な理由をどのように分析していますか。
また、改定作業の初めには、現時点での区として現行「都市マス」が掲げた諸課題に対する進捗状況、到達点を明らかにするとともに、今後の解決へむけての改善すべき方策の考え方を整理・公表し問題提起すべきと考えるがいかがでしょうか。
【大田区の答弁①】
現行の「都市マス」に掲げた諸課題の進捗状況、到達点及び今後の解決に向け改善すべき方策の考え方の整理、公表について、お答えいたします。
先ほどお話がございましたとおり、今年度から、現行の「都市マス」の改定作業に着手したところであります。
現行の「都市マス」に掲げた諸課題に対一する進捗状況、到達点及び今後の解決に向け改善すべき方策の考え方の整理等については、その改定作業において、検証していく予定です。
現時点で、現行の都市マスに掲げた目標の実現した一例として「地域の特徴に応じた拠点づくり」の中では、東急「大岡山駅」周辺地域における、まちづくりへの取組み等を、成果として挙げられます。
また、このほか、「水と緑の環境保全とネットワーク化」の項目においては、田園調布せせらぎ公園の整備。
また、「空港との近接性を活かした商業業務の中心拠点づくり」の項目は、蒲田保健所跡地を活用した都市の拠点機能の強化。
さらに、「スポーツ・レクリエーションの拠点の整備」の項目は、大田体育館の建替え。
といったところが一例としてあげられます。
続きまして、お尋ねの、現行の「都市マス」の評価で達成できなかったこと、あるいは、できなかった場合はその理由の分析について、お答えします。
現行の都市マス策定後、当該都市マスに掲げた目指すべき都市の将来像の実現に向けて、関係各課におきまして取組みを実施してきております。
計画期間が現行の都市マスは32年でございますので、まだ途中、半ばでございます。計画期問の満了は迎えておりませんが、現行の都市マスの役割は果たしてきたものと、とらえております。
いずれにいたしましても、今後、現行の「都市マス」の評価及び達成度等について分析等を行い、大田区都市計画審議会委員による、都市マス改定委員会の専門的な見地からの評価・指導・助言を受けつつ、改定を進めてまいります
*答弁についての奈須のコメント*
現行の都市マスに掲げた目標の実現した例として区が答弁したのは、
①東急「大岡山駅」周辺地域における、まちづくりへの取組み=駅前広場の整備。
②田園調布せせらぎ公園の整備=用地を購入し公園整備。
③蒲田保健所跡地を活用した都市の拠点機能の強化
④大田体育館の建替え
①から④まで、いずれも、土木、建設による整備・開発で、評価する部分もありますが、「都市マス」の目標を実現できたのが、これだけというのでは、余りにもお粗末です。
唯一、区有地をタネ地として再開発を予定していた③の蒲田保健所跡地を活用した都市拠点機能の強化も、共同で開発を予定していた地権者は既に街区の所有地を手放し、ホテル開発が行われています。
区有地を20年の定期借地権で民間開発させた当初の目的は達成されず、単に、区有地を貸し出しスポーツクラブとスーパーマーケットの入ったテナントビルが建設されたことが「都市マス」の成果になるのでしょうか。失敗例といっても良い事例です。
また、「現行都市マス」について、区は、役割を果たしていて、達成できていないのは、期間終了前であるからとしていますが、それでは、改定する必要性が無いと言っているのと同様です。
また、今後、「現行都市マス」の評価・達成度の分析を行っていくと答弁しましたが、「現行都市マス」が役割を果たしていて、「現行都市マス」の評価・達成度の分析はこれからということになると、一体どこから改定の必要性がでてきたのでしょうか。
次回の報告から、大田区のまちづくりにおける課題について、具体的事例をあげながら、検証していきます。