令和4年8月8日
ローカル鉄道存続へ正念場
生活の足影響、地方に危機感
採算が悪化したローカル鉄道の存廃論議が活発になってきた。
国土交通省の有識者検討会が先月下旬、協議の対象となる路線の目安を策定。
JR西日本、東日本は今年春以降、赤字路線の収支を相次ぎ公表した。
新型コロナウイルス感染拡大の打撃を受けた鉄道各社は維持コストを軽減したい考えだが、
生活の足に影響が出る沿線住民の反発が予想され、調整は難航しそうだ。
国交省の検討会は、バスへの転換を含む見直し協議入りの目安について、
1キロ当たりの1日平均利用者数(輸送密度)が1000人未満の区間などと設定した。
同省の別の小委員会は赤字路線の収支改善を促すため、鉄道会社と自治体が合意すれば国が認可する運賃の上限を超えた値上げを認める改革案を示した。
岸田文雄首相はこれらの方針に理解を示し、「国もしかるべき責任を果たすように」と同省に指示している。
背景には、人口減少や自動車普及に伴う利用者数の減少がある。
鉄道は線路や車両の維持に多大なコストがかかるため旅客が少ない地域には向かないとされる。
鉄道各社は、都市部などで得た利益により不採算路線の損失を補う「内部補助」でローカル鉄道を維持してきた。
ただ、コロナ禍で都市部での旅客数も減少しており、内部補助による路線維持は難しくなりつつある。
JR北海道、四国、九州は経営基盤が弱く、先行してローカル線の収支を公表。
JR東海以外の収支が出そろった。
JR西と東が発表した輸送密度2000人未満の区間の収支はすべて赤字で、
赤字額の合計はJR西の17路線30区間が247億円(2017~19年度の平均)、JR東の35路線66区間が693億円(19年度)に達した。
旅客需要が今後完全に戻る保証はなく、各社は「厳しい区間はいっそう厳しさを増す」(JR東の高岡崇執行役員)と訴える。
鉄道各社は採算性が特に低い区間についてバス転換や自治体支援拡充などの対策を進めたい意向で、
地方からは「強い危機感を持った」(山形県の吉村美栄子知事)と警戒する声が上がる。
交通運輸について調査や政策提言などを行う運輸総合研究所の海谷厚志主席研究員は、
各路線の必要性や再建可能性をデータに基づいて丁寧に検証すべきだと指摘した上で「企業、自治体、住民が『三方よし』
と思える結論を得ることが重要だ」との考えを示している。
◇採算が悪化した主なJRのローカル線
路線 区間 損益
【JR西日本】
▽山陰線 出雲市―益田 ▲34.5
▽紀勢線 新宮―白浜 ▲28.6
▽小浜線 敦賀―東舞鶴 ▲18.1
▽関西線 亀山―加茂 ▲14.6
▽芸備線 三次―下深川 ▲13.2
▽山陰線 城崎温泉―浜坂 ▲11.8
【JR東日本】
▽羽越線 村上―鶴岡 ▲49.0
▽奥羽線 東能代―大館 ▲32.4
▽羽越線 酒田―羽後本荘 ▲27.1
▽奥羽線 大館―弘前 ▲24.3
▽津軽線 青森―中小国 ▲21.6
▽只見線 会津坂下―会津川口 ▲ 7.6
(注)JR西は2017~19年度の平均、JR東は19年度。
損益の単位は億円。▲は赤字
会津若松(福島県会津若松市)―小出(新潟県魚沼市)間の135.2キロを結ぶ只見線は「秘境路線」として鉄道ファンの人気も高い。
豪雪地帯で冬季は沿線の国道が閉鎖されるため、地域住民の貴重な足でもある。
しかし2011年7月の豪雨で橋などが流され、会津川口(福島県金山町)―只見(同県只見町)間の27.6キロが不通に。
今もバスで代行輸送が行われている。
一方で只見線はJR東が公表した利用者の少ない赤字路線の一つ。
1キロ当たりの1日平均利用者数(輸送密度)について不通区間に隣接する会津坂下(福島県会津坂下町)―会津川口間は179人、
只見―小出間は101人(いずれも19年度)となっている。
JR東は当初、会津川口―只見間のバス転換を提案したが、地元は反発。関係者で協議を進め、自治体の財政負担を条件に鉄道での復旧に合意した。
県と沿線自治体など17市町村は線路などの復旧費約90億円の3分の2の負担を受け入れ、年間約3億円を見込む維持費用も自治体で持つ。
財政負担は軽くないが、地元自治体は只見線が11年ぶりに全線再開すれば、観光面で経済効果があると期待する。
福島県の久保克昌生活環境部長は「只見線は地域の宝。(路線存続を求める)地元の声が大きかった」と振り返る。
国土交通省の有識者検討会は7月、関係者の間でバス転換を含む見直し協議に入る仕組みの創設を提言した。
沿線の福島県金山町の押部源二郎町長は「不採算と切り捨てるのは簡単だが、そうではない」と指摘。
「(ローカル鉄道が)地域の生活やなりわいを守っている。
新たな公共交通の組み立てと支援の在り方をこれから協議していく必要があるのではないか」と話す。