ようやく、ようやく手に入った。
私が本を評価する基準の一つに、古本屋の店頭状況がある。いかにベストセラーになろうと、古本屋の店頭にすぐに並ぶような本は、あまり大したことがないと考えている。一方、話題になり、ベストセラーに名を連ねようと、なかなか古本屋の店頭に並ばない本ならば、それは読者に大事にされている可能性は高い。だから、そのような本をこそ読みたいと考えている。
これは古本屋をこまめにまわり、店頭の品ぞろえをみて書店主と雑談しながら情報を入手するしかない。このような情報は、足で稼ぐしかないので面唐ナはあるが、反面楽しくもある。
なにせ、新聞等の書評欄で、いくら評論家の先生方が酷評しようと、読者に評価される本は必ずある。いくら絶賛されようと、読者の評価が低い場合もある。その結果が、古本屋の店頭に現れる。
古本屋に高く評価される本には、はずれが少ないことは、私の経験からも分かる。ただし、趣味とか嗜好とか個人差が出るものも多いので、書店主の勧めも鵜呑みには出来ない。やはり、最後は自分の感性の問題となる。
そんな私が古本屋めぐりで知って、非常に気に入っているのがアメリカの作家ロバート・マキャモンだ。ホラー小説の世界では四天王とさえ呼ばれる大家ではあるが、残念なことにマキャモン自身が「ホラー小説は映像には敵わない」として、ホラー作家脱却を宣してしまった。
もっとも、その宣言後に書かれた作品は、ホラーの香りがうっすらと漂うものが多く、名作の名が高い「少年時代」や「遥か南へ」「魔女は夜囁く」などの作品で私を魅了し続けている。
もっとも世界に数多いるマキャモン・ファンにとって、最高傑作は今のところ表題に掲げた「スワンソング」であるとされている。それを知った時、私は是非とも読まねばならぬと確信めいた予感に襲われたものだ。
ところがだ、このスワンソングは、何故だか知らぬが出版社が福武書店なのだ。あのベネッセで知られる会社だが、文庫本出版事業は失敗に終わったはず。嫌な予感がして、馴染みの古書店を訪れると、やはり絶版であり、滅多に店頭に並ばない幻の名作扱いだという。
以来、十数年私は延べにすれば数百軒の古本屋を巡って探し求めた。実は探し出して5年ほどで、某新古書店の一冊100円のコーナーで、下巻だけを入手してあった。もちろん上巻も欲しかったので、出来たら上下巻そろったものが欲しかったがなかったので、ついつい下巻だけ買ってしまったのだ。
この判断が後々までに祟ることとなるとは、当時は思わなかった。その後、3回ほど上下巻セットで売られていた「スワンソング」を見つけたのだが、上巻だけ売られたものを見つけることが出来ず、悔しい思いをしていた。
セットを買ってしまえばいいと思わないでもなかったが、古書ファンの矜持がそれを許さず、なんとか自力で上巻だけを探してみせると意地になったのがまずかった。既に探し出してから10年を超えたにもかかわらず、見つけることが出来ずにいた。
だが、読みたい気持ちは年を追うごとに募る一方だ。でも、下巻だけ先に読むのは、本読みの矜持に反する。
ついに私は禁断の手法に走った。私は本来、手に取って本を選び買うことにしている。だから通信販売だとか、ネット通販には手を出さなかった。しかし、もう我慢できない。
いざ、ネット上で探してみると、やはりあるにはあるが、セット販売が多い。これは上下巻で一揃いなのだから当然だ。でも、バラ売りはなかなかないが、ようやく大阪の古本屋で程度のよさそうなものが見つかった。それなりに年季の入った古書店なようなので、信じて注文してみることにした。
で、翌週には届きました。あな嬉し。
そんな訳で、この夏の読書は「スワンゾング」で楽しむことにしました。感想は下巻で書きますので、お許しあれ。