まず最初に告白しておくと、私は東京オリンピック誘致に反対であった。
言いだしっぺが、あの独裁者・石原前都知事であり、石原ファミリーが前面に出ての招致活動に反感をそそられたことが大きな原因である。だが、その一方でイスラム圏初の開催となるかもしれないトルコ・イスタンブールを応援したい気持ちもあったからでもある。
21世紀の日本にとって、原油や天然ガスの輸入先としてイスラム諸国との友好関係が重要なのは常識だと思う。だが、それだけではない。率直に言って、従来イスラム諸国からすると日本は、アメリカの追随者であってそれ以上の存在ではなかった。
欧米との対立が目立つイスラム諸国だが、石油を買ってくれる欧米あっての繁栄であることは顔には出さねど、強く自覚している。またアルカイーダに代表されるイスラム・テロ組織とその支持者たちが、単なる反・欧米ではなく自国内の体制の矛盾から生まれた国内問題であることも分かっている。
オイル・マネー頼りの経済が、今徐々に破綻の崖っぷちに近づきつつある現実も認識している。だが、欧米流の資本主義経済が目指すべき目標ではないことも分かっている。求められているのは、イスラムの伝統社会をベースにした自分たちの新しい経済システムだ。
欧米の追随者でありながら、独自の伝統社会を根強く残した日本の経済発展は、彼らイスラム社会にとって羨望の的である。だが、イスラム社会との交流の歴史に乏しい日本とは、なかなか付き合いづらい。それがイスラム側からの率直な思いであった。
だが時代は変わる。衰退しつつある欧米だけを相手にしては、日本もイスラムもやっていけない。今後、更なる成長が見込まれる東アジアに注目が集まってきている。なかでも世界最大のイスラム社会を誇るインドネシアとの関係強化は、既に民間先行で進んでいる。
既に日本の観光業界は、インドネシアからの旅行客を如何に日本に惹きつけるかに腐心している。一日5回のメッカへの礼拝はもちろん、イスラム教徒向けの食事、食器など肌理の細かい準備を始めている。
また金利を認めないイスラム金融との取引にも積極的に乗り出している企業もある。オイルマネーだけを目当てにしていた従来とは、明らかに一線を区切った方向性だと私は考えている。
だからこそ、今回のオリンピック誘致ではイスラム社会に恩を売る絶好の機会だと思っていたが故に、東京誘致には積極的な気持ちになれなかった。
だが日曜日の未明に決まった東京決定の報に沸く日本の姿を見ていると、私の考えは理屈先行に過ぎたかもしれないと自省している。実はあの早朝、私は某温泉ホテルに滞在していたのだが、東京と発表された時のロビーの盛り上りは凄かった。
なんで「ニッポンチャチャチャ!」なのかは知らないが、若い子だけでなくオジサン、おばあさんまでもが大喜びであった。それを冷静に見ていた私も自然に頬が緩むのを抑えきれなかった。盛り上がる感情って、ホント不思議。
翌日、月曜日の東証株価は300円以上の値上がりであり、第二のアベノミックス効果であることは私も実感できた。どこへ行っても、オリンピック誘致を景気回復に結び付けたいと口にする人に会わないことは稀であった。
これほどまでに明るいニュースに日本人が飢えていたのかと、改めて認識し直した。アベノミクスは確かに円安と株高をもたらして景気回復の兆しを感じさせた。だが財布の中身に安堵を抱くほどの実感がないのがアベノミクスの実態であろう。
まだまだ景気回復の実感が伴わないのがアベノミクスの最大の弱点だ。だからこそ、確実に景気回復の象徴ともなるべき東京オリンピック誘致に人々の心は動かされたのだと思う。つまるところ、私の認識が甘かったのだろう。
だから今さら反対などとは、もう言わない。決まった以上は前向きに楽しみたいし、前回の東京大会は私が2歳で記憶にまったくない。おそらく夏のオリンピックを生で観られるのは、これが最後だと思う。機会があったら是非ともこの目で楽しみたいと考えています。