私は相撲を見るのは好きだが、正直言えば相撲取りはあまり好きではない。
何故かと言えば、相撲取りになるような人は子供の頃から大柄で横柄で傲慢な奴が多いからだ。実際、近所の二つ上のガキは、大柄というよりもデブだったが気性が荒く、こいつに公園などで出くわすと必ずちょっかいをかけてきた。
今にして思うと、乱暴者過ぎて同級生から嫌われていたのだと思う。でも、その腹いせに年下の子供たちをどつくのだから性質が悪い。頭も悪く、高校には進学せずに親戚の紹介で相撲部屋に入門した。
その年の夏の盆休みの時に帰省していたのだが、二回りは痩せていた。しごきで痩せたのだと考えた私とTちゃんは、夕方奴が一人でいるのを見つけて仕返しのつもりでケンカを吹っ掛けた。しかし、私らを見ても、つまならなそうな顔つきで通り過ぎようとした。
無視されたと激昂した私らは二人で挟み込んで突っかけたが、ほんの十数秒でぶっ飛ばされた。痩せたのではなく、脂肪が落ちて筋肉の塊になっていたらしく、下腹部に頭突きをかました私など首が痛くなったほどだ。半年前とは別人のような強さに唖然としてしまった。
以前とは異なり、弱すぎる私らに関心はないとばかりに、何事もなかったかのように立ち去ってしまった。まだ髷も縫えない下っ端にしてあの強さである。肉体的な痛みよりも、精神的なダメージが大きくて、私とTはしばらく落ち込んだ。以来、相撲取りには絶対にケンカを売ってはいけないと肝に銘じた。
実際、空手や柔道、あるいは総合格闘技の経験者ほど相撲取りの強さを認める人は多い。なによりも実際に相撲取りのあの異様な巨体を視てみるのが一番だと思う。ガチガチの筋肉の上に脂肪の鎧を着込んだ異常な生き物だ。
ただ、そのせいだと思うが相撲取りは一様に短命だ。あの異様な食生活により造られた異質な身体が原因なのは、多くの医療関係者が述べているところだ。今年亡くなった錣山親方(寺尾)は、現役の頃二枚目力士として人気を博したが、いわゆるそっぷ型の体形であった。
そのスリムな体形は力士としては苦労したようだが、少なくとも糖尿病などの力士に多い病気とは無縁であったと思う。しかし心臓疾患に悩み、61歳の若さで亡くなっている。正直あまり強い力士ではなかったが、それは寺尾関が角界屈指のガチンコ相撲をとっていたからだと云われている。
実際、引退後のことだが角界の改革を訴える貴乃花が理事選挙に打って出た際、彼を応援した数少ない親方の一人が錣山親方であった。格闘技にも関心が深く、特に旧UWF勢との交流は有名であった。彼の訃報を耳にしたプロレスラーなどからも、彼を惜しむ声がずいぶんと出ている。
相撲を大切に思っていた寺尾関だけに、他の分野に出ることはしなかったが、総合格闘技にも関心を寄せ、トレーニングの近代化を目指していたと聞いたこともある。正直その早すぎる死をとても残念に思います。
守秘義務があるので詳しくは書けないが、角界のタニマチ筋の間での寺尾関の人気は伝説級でした。にもかかわらず浮いた噂がまったくない堅物。酒豪ではあったようですが、酒乱の噂は聞いたことがありません。
相撲取りなんて乱暴者ぞろいだと信じていた私にとっても異例というか、特別な存在でもありました。謹んでお悔やみ申し上げます。
追記 実は今日が仕事納めです。でも、仕事が溜まっているので、年末年始もちょくちょくと仕事のため出勤します。なお、ブログの年内最終稿は31日に上げるつもりです。