坊ちゃん育ちの奴は、時として妙なことをやらかす。
私の母校は、坊ちゃんお嬢ちゃんが通うので有名な大学だ。育ちの悪い私なんざ、そのお上品な雰囲気に違和感を抱き、大学選びを間違えたと頭を抱えた覚えがある。
ちなみに私の大学選びの基準は、通学時間が短ければ短いほど良いといったものだった。自業自得といえば、まったくその通りだ。
お父上が某上場企業の社長であるMは、良くも悪くも育ちが良い。一年の時に同じクラスで出会い、同じクラブに入ったため、必然的に学内で一緒に過ごす時間が多い奴でもある。
小学校から高校まで、坊ちゃん育ちの連中とは、ほとんど付き合いがなかったので、面白いといえば面白いが、時折イラついたり、呆れたりすることが多かった。
バカ真面目なMは、ひねくれ者の私に向かって「お前は俺が更正させる!」などと、真面目腐って公言していたものだ。私はヘラヘラと鼻で嗤って、むしろ悪い遊びに引き込んでやろうと狙っていた。おかげで喧嘩が絶えなかった。
世間知らずというか、よくぞそこまで純粋に育てるものだと呆れたものだが、反面手におえない一途さがあった。それを思い知らされたのが、二度目のクラブの合宿だった。
はっきり言って、一年をしごくための合宿であった。メインテーマは克己、己に克つである。ところがこのMの奴、説明会の席でこの克己を大声で「かつこ」と読み、失笑を買う始末である。どこかの国の首相と同じで、坊ちゃん育ちだと漢字の読み取りに問題が生じることがあるらしい。
失笑で始まった6月合宿だが、いざ山に入れば鬼のしごきが待っていた。朝に食べたものを吐き戻すほどの過酷な合宿で、山の初心者であったMはボロボロにばてていた。
ところが、このMの奴は胃液を吐きながら、四つんばいでずり上がって来る。経験のある方は分ると思うが、極度の疲労から胃液を吐くような状態で身体を動かすことは難しい。大概が四つんばいで身体を丸めて、吐く度に身体を震わせて動けなくなる。
しかし、Mの奴はよだれと胃液を垂らしながら、諦めずに登ってくる。その姿に私は、ある種の脅威を覚えずにいられなかった。この手の根性者には勝てない。いずれ抜かれると予感したものだ。
不器用ながら驚異的な体力で、地道な努力を重ねる姿は上級生に可愛がれ、その一途な実直さで、失笑を買いながらも下級生からも慕われる。お坊ちゃま、恐るべしである。
ひねくれ者で、要領よくズルをする癖のある私とは対極にあるかのような生き方に、奇妙な羨望と対抗意識を持たざる得なかった。おかげで4年間喧嘩が絶えない仲でもあったが、刺激になる相手でもあった。
お坊ちゃま育ちの奴に、隔意をもっていた私が、その素直さを見直す契機になったことは確かだ。不器用だと思うが、あの真直ぐさは貴重なものだと言わざる得ない。
表題の作品を初めて読んだのは、中一の夏の課題図書だったと思う。あれから30年あまり、久々に読んでみて思い出したのが、Mのことだった。
ところで「坊ちゃん」といえば四国だ。四国といえば道後温泉だ。映画やTVで取り上げられることの多い、その温泉に行った時のことだ。はしゃいでいたMは、素早く服を脱ぎ捨て温泉に入らんと、先頭をきって勢いよく木の引き戸を開けた。ん?木戸!
真っ裸のMの前を、車が通り過ぎていく。木戸は非常口だった。
どわっ!み、見られた~!と騒ぐM。あぁウルサイ!温泉くらい、ゆったりと入れ。Mの喧しさが思い出されて、夏目漱石論が書けなくなってしまったではないか。
私の母校は、坊ちゃんお嬢ちゃんが通うので有名な大学だ。育ちの悪い私なんざ、そのお上品な雰囲気に違和感を抱き、大学選びを間違えたと頭を抱えた覚えがある。
ちなみに私の大学選びの基準は、通学時間が短ければ短いほど良いといったものだった。自業自得といえば、まったくその通りだ。
お父上が某上場企業の社長であるMは、良くも悪くも育ちが良い。一年の時に同じクラスで出会い、同じクラブに入ったため、必然的に学内で一緒に過ごす時間が多い奴でもある。
小学校から高校まで、坊ちゃん育ちの連中とは、ほとんど付き合いがなかったので、面白いといえば面白いが、時折イラついたり、呆れたりすることが多かった。
バカ真面目なMは、ひねくれ者の私に向かって「お前は俺が更正させる!」などと、真面目腐って公言していたものだ。私はヘラヘラと鼻で嗤って、むしろ悪い遊びに引き込んでやろうと狙っていた。おかげで喧嘩が絶えなかった。
世間知らずというか、よくぞそこまで純粋に育てるものだと呆れたものだが、反面手におえない一途さがあった。それを思い知らされたのが、二度目のクラブの合宿だった。
はっきり言って、一年をしごくための合宿であった。メインテーマは克己、己に克つである。ところがこのMの奴、説明会の席でこの克己を大声で「かつこ」と読み、失笑を買う始末である。どこかの国の首相と同じで、坊ちゃん育ちだと漢字の読み取りに問題が生じることがあるらしい。
失笑で始まった6月合宿だが、いざ山に入れば鬼のしごきが待っていた。朝に食べたものを吐き戻すほどの過酷な合宿で、山の初心者であったMはボロボロにばてていた。
ところが、このMの奴は胃液を吐きながら、四つんばいでずり上がって来る。経験のある方は分ると思うが、極度の疲労から胃液を吐くような状態で身体を動かすことは難しい。大概が四つんばいで身体を丸めて、吐く度に身体を震わせて動けなくなる。
しかし、Mの奴はよだれと胃液を垂らしながら、諦めずに登ってくる。その姿に私は、ある種の脅威を覚えずにいられなかった。この手の根性者には勝てない。いずれ抜かれると予感したものだ。
不器用ながら驚異的な体力で、地道な努力を重ねる姿は上級生に可愛がれ、その一途な実直さで、失笑を買いながらも下級生からも慕われる。お坊ちゃま、恐るべしである。
ひねくれ者で、要領よくズルをする癖のある私とは対極にあるかのような生き方に、奇妙な羨望と対抗意識を持たざる得なかった。おかげで4年間喧嘩が絶えない仲でもあったが、刺激になる相手でもあった。
お坊ちゃま育ちの奴に、隔意をもっていた私が、その素直さを見直す契機になったことは確かだ。不器用だと思うが、あの真直ぐさは貴重なものだと言わざる得ない。
表題の作品を初めて読んだのは、中一の夏の課題図書だったと思う。あれから30年あまり、久々に読んでみて思い出したのが、Mのことだった。
ところで「坊ちゃん」といえば四国だ。四国といえば道後温泉だ。映画やTVで取り上げられることの多い、その温泉に行った時のことだ。はしゃいでいたMは、素早く服を脱ぎ捨て温泉に入らんと、先頭をきって勢いよく木の引き戸を開けた。ん?木戸!
真っ裸のMの前を、車が通り過ぎていく。木戸は非常口だった。
どわっ!み、見られた~!と騒ぐM。あぁウルサイ!温泉くらい、ゆったりと入れ。Mの喧しさが思い出されて、夏目漱石論が書けなくなってしまったではないか。
お友達の「坊ちゃん」Mさんのお話もとっても面白かったけど、ヌマンタさんの漱石論も是非聞きたかったな~。
機会があったら是非、お願いしま~す。(^^♪
しかし、温泉の話は笑えました~。(笑)
Mは歩く失敗談のような奴なので、いづれまた登場すると思います。沢山ネタがあるもんで、いずれまた披露するつもりです。